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婚約破棄されようと努力する令嬢の真の愛
第二話 うんざりなんだ
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聞いたこともないようなフィルの大きな声にマリーはビクッとして体が縮こまった。
「避けられるのもそっけない態度をとられるのももううんざりだ。本当にうんざりだ。僕は本当につらいんだよ。頭がおかしくなりそうだ」
フィルは机を叩いてからずっと下を向いているのでマリーには表情が確認できなかった。
「で、殿下……」
マリーの声は震えていた。
「その殿下と呼ぶのもやめてくれ! ほんの数か月前まではフィルって普通に呼んでくれてただろ? 急な敬語にもうんざりなんだよ」
「だ、だって……」
マリーはとうとう泣き出してしまった。
「きっときみにはハッキリ言わないと伝わらないんだと思う。だから聞いて欲しい。いいかい?」
フィルは顔をあげてマリーを見つめた。マリーは無言でうなずいた。
「マリー、僕はマリーを愛している。マリーがどんなに僕に嫌われようとしたって無駄なくらいにね。だからわざと嫌いになられるようなことはもうやめてくれ」
フィルはそういうとマリーに優しく微笑んだ。
「でも……ううっ……でも……これには……理由が……わぁぁぁ」
マリーはとうとう喋れないくらいに大泣きしてしまった。
「知ってるよ。というか偶然きみが先生に話しているのを聞いてしまったよ。マリーがコンプレックスを感じてると思ったからこの話に触れないようにしていたけど……。僕の子供のためなんだろう?」
マリーは泣いているだけでフィルの質問に答えなかった。
フィルは立ち上がってマリーに近付き、マリーの頭に手を添えた。
「マリーの魔力がほぼゼロだって僕は気にしないよ。気にするわけないじゃないか。そんなことで僕がマリーを嫌いになると思ったのならきみは僕を馬鹿にしすぎだよ」
「でも……ひっく……フィルの……私たちの子供に魔力がなかったら? フィルは学年一の魔力を持ってるのに……っ……私のせいで子供に魔力が……うぇーん」
フィルは両手のてのひらでマリーの頬を押さえつけた。
「なんでそんな悪い方に考えるの? だったら僕に似て魔力をたくさん持ってる子供が産まれるかもしれない。二人の魔力量を足して二で割ったくらいかもしれない。そもそも僕は子供に魔力があろうがなかろうが気にしないよ」
「でも……アメリアみたいな可愛くて魔力も凄い子の方がフィルにお似合いだって思うんだもん。フィルは世界一素敵な人だから……私なんかじゃ駄目なんだもん」
マリーはフィルの目を見ていられなかった。フィルの手を払いのけると顔を横に向けた。
「でもって言うのはもう禁止! あとね、マリーは勘違いしてるよ。私なんかじゃなくて、マリーだからいいんだよ。わかるかい? 僕は心から愛してるマリーだから一緒にいたいんだよ」
「私だって……私だってフィルのこと愛してるもん………だから……」
「知ってるよ。小さい頃から知ってるよ。散々お互いのこと好き好き言い合ってきたじゃないか。魔力がなかったことはマリーにとってはショックなことだったのかもしれないけど僕らの仲には関係ないことだからね。だからもう避けるのはやめてくれ。本当に頭がおかしくなりそうなんだよ……」
「フィル……私も頭がおかしくなりそうだったの。フィルのこと避けるの本当につらくて……家に帰ってずっと泣いてたの」
フィルは座っているマリーを優しく抱きしめた。
「今度から何かあっても一人で悩まないで僕に相談してくれよ。二人で解決しよう」
「うん。ありがとう……ごめんね、フィル」
その光景を見て拍手が巻き起こった。いつの間にか二人の周りには野次馬が群がっていたのだ。学園の象徴たる王子の婚約者との不仲、実はみんなの噂の的になっていたのだ。
「騒がせて悪かった! もう見ての通り仲直りしたから安心してくれ」
フィルは野次馬に向かってそう言うと、何かに気が付いてマリーに耳打ちをした。
「僕には謝らなくていいからアメリアには謝ってやってくれ。凄い顔でこっちを睨んでいる……」
それを聞いてどうしようかと頭を抱えたマリーを見てフィルは大笑いした。フィルもここ最近の悩み事から解放されて安心していた。
こうして仲直りをしたフィルとマリーは学園を卒業した後に無事結婚をした。
実はマリーには魔力の代わりに聖なる力があり、二人の娘にその力が引き継がれたのはまた別のお話。
=== 完 ===
「避けられるのもそっけない態度をとられるのももううんざりだ。本当にうんざりだ。僕は本当につらいんだよ。頭がおかしくなりそうだ」
フィルは机を叩いてからずっと下を向いているのでマリーには表情が確認できなかった。
「で、殿下……」
マリーの声は震えていた。
「その殿下と呼ぶのもやめてくれ! ほんの数か月前まではフィルって普通に呼んでくれてただろ? 急な敬語にもうんざりなんだよ」
「だ、だって……」
マリーはとうとう泣き出してしまった。
「きっときみにはハッキリ言わないと伝わらないんだと思う。だから聞いて欲しい。いいかい?」
フィルは顔をあげてマリーを見つめた。マリーは無言でうなずいた。
「マリー、僕はマリーを愛している。マリーがどんなに僕に嫌われようとしたって無駄なくらいにね。だからわざと嫌いになられるようなことはもうやめてくれ」
フィルはそういうとマリーに優しく微笑んだ。
「でも……ううっ……でも……これには……理由が……わぁぁぁ」
マリーはとうとう喋れないくらいに大泣きしてしまった。
「知ってるよ。というか偶然きみが先生に話しているのを聞いてしまったよ。マリーがコンプレックスを感じてると思ったからこの話に触れないようにしていたけど……。僕の子供のためなんだろう?」
マリーは泣いているだけでフィルの質問に答えなかった。
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「マリーの魔力がほぼゼロだって僕は気にしないよ。気にするわけないじゃないか。そんなことで僕がマリーを嫌いになると思ったのならきみは僕を馬鹿にしすぎだよ」
「でも……ひっく……フィルの……私たちの子供に魔力がなかったら? フィルは学年一の魔力を持ってるのに……っ……私のせいで子供に魔力が……うぇーん」
フィルは両手のてのひらでマリーの頬を押さえつけた。
「なんでそんな悪い方に考えるの? だったら僕に似て魔力をたくさん持ってる子供が産まれるかもしれない。二人の魔力量を足して二で割ったくらいかもしれない。そもそも僕は子供に魔力があろうがなかろうが気にしないよ」
「でも……アメリアみたいな可愛くて魔力も凄い子の方がフィルにお似合いだって思うんだもん。フィルは世界一素敵な人だから……私なんかじゃ駄目なんだもん」
マリーはフィルの目を見ていられなかった。フィルの手を払いのけると顔を横に向けた。
「でもって言うのはもう禁止! あとね、マリーは勘違いしてるよ。私なんかじゃなくて、マリーだからいいんだよ。わかるかい? 僕は心から愛してるマリーだから一緒にいたいんだよ」
「私だって……私だってフィルのこと愛してるもん………だから……」
「知ってるよ。小さい頃から知ってるよ。散々お互いのこと好き好き言い合ってきたじゃないか。魔力がなかったことはマリーにとってはショックなことだったのかもしれないけど僕らの仲には関係ないことだからね。だからもう避けるのはやめてくれ。本当に頭がおかしくなりそうなんだよ……」
「フィル……私も頭がおかしくなりそうだったの。フィルのこと避けるの本当につらくて……家に帰ってずっと泣いてたの」
フィルは座っているマリーを優しく抱きしめた。
「今度から何かあっても一人で悩まないで僕に相談してくれよ。二人で解決しよう」
「うん。ありがとう……ごめんね、フィル」
その光景を見て拍手が巻き起こった。いつの間にか二人の周りには野次馬が群がっていたのだ。学園の象徴たる王子の婚約者との不仲、実はみんなの噂の的になっていたのだ。
「騒がせて悪かった! もう見ての通り仲直りしたから安心してくれ」
フィルは野次馬に向かってそう言うと、何かに気が付いてマリーに耳打ちをした。
「僕には謝らなくていいからアメリアには謝ってやってくれ。凄い顔でこっちを睨んでいる……」
それを聞いてどうしようかと頭を抱えたマリーを見てフィルは大笑いした。フィルもここ最近の悩み事から解放されて安心していた。
こうして仲直りをしたフィルとマリーは学園を卒業した後に無事結婚をした。
実はマリーには魔力の代わりに聖なる力があり、二人の娘にその力が引き継がれたのはまた別のお話。
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