見習いコンコの縁結び

紅葉

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もふ耳少年がやってきた!

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「おぬしこそ誰じゃ。まずは自分から名乗るが道理じゃろう」

 平安調もふ耳少年は、うろんな顔をして結月を見た。言葉遣いも古風。しかし、口元は油で光っている。
 厨房から出てきた清明さんが、蒸しタオルで口元を拭っている。お母さんか! いや、最近はイクメンも多いって聞くからお父さんでもアリ?

「おい、清明。こやつ、おぬしをイクメンと言っておるぞ。イクメンとはなんじゃ」

 うげっ、この子、心を読んでる?

 もふ耳少年は、湯飲みを持ち上げ、熱いお茶をすする。

「イクメンとは、現代用語で育児に積極的に参加する男性のことですよ。私はまだ妻帯しておりませんのでいささか心外ですが」

 清明さんは、ちらっとこちらを見たあと、

「新月様、すみません。まだ仕込みが少々残っておりまして」

と、もふ耳少年に断りをいれた。もふ耳少年は片手を上げる。

「構わぬ。むしろ開店前に訪うて悪かったの。もう少し遅く来ておったら稲荷寿司を食えたのに。しかし、この時間しか仕方がなかったのじゃ。ここにコンコが来ておろう。呼んでくれまいか」

 あ、自己紹介をするタイミングを失った。
 しまった、と思ったものの、もふ耳少年の関心はコンコに向いたようだ。結月はこそこそと箒を片付けた。

『あ、しんげつさま~』

 呼ばれる前にコンコが奥からトコトコと出てきた。甘く煮含められているおあげの匂いに鼻をひくひくさせながらも、もふ耳少年に近付いていく。
 もふ耳少年は、冷めた目でコンコを見下ろした。

「昨日頼んでおいた御用はできたかコンコ」

 コンコはアッ! とあんぐり口を開けると、前肢でテシテシと頭を掻いた。

『申し訳ありませぬ~、途中で狗に邪魔をされまして、霊力不足になって行き倒れてしまいました~』

「ふん、なかなか帰って来ぬゆえそんなことだろうと思うたわ」

『申し訳ありませぬ~』

 尾をお股に挟んで、耳を倒したコンコがもふ耳少年に頭を下げる。

「忌々しい狗め。神使たるもの縄張り争いなどしては主神の評判に関わるというに。それで?」

『それで?』

 コンコが首をひねる。

「おぬしはどうしてここに留まっているのじゃ。霊力を回復したのなら社に帰ってきて報告するのが筋じゃろう」

『申し訳ありませぬ~』

 もふ耳少年がふうとため息をついた。かと思いきや、存外温かい視線で五体投地のように臥せているコンコを見ている。

「御用は他の者に行かせたゆえ気にするでない。しかし、おぬしが帰って来ぬので、兄弟分はずいぶん気を揉んでおったぞ。はよう帰ってやれ」

『しかし……コンコは結月さまにお礼を返さなくてはなりませぬ』

 コンコがちらっと結月を見る。
 なんだというのだ、みんなして。
 コンコにつられて、もふ耳少年もまたこちらを向く。もふ耳少年の瞳はカラコン入れてるみたいで紅くてちょっと怖いのよね。

「結月、か」

 もふ耳少年が目を細くすがめる。睨まれているようで、緊張してしまう。見た目小学生なのに、なにこの威圧感。

「まだ見習いだというのにもう人間と『約束』をしてしもうたか。うかつなやつめ。清明、こやつは『狐使い』としての素質はあると思うか?」

 清明さんがもふ耳少年の呼び掛けに、厨房から顔を出した。
 そうですねぇ、としばし考える。狐使いってなにそれ。

「少なくとも視える体質ではあるようですが、素質までは判りかねます。昨日の夕方知り合ったばかりですから」

『霊力切れのところを助けていただいたのです~』

 コンコが遠慮気味に会話に入ると、もふ耳少年は意外そうに目を開いた。

「ふむ、どのようにじゃ」

『手ずから稲荷寿司をお分けいただきました~』

「天湖の稲荷寿司か?」

「いえ、桃山御陵前駅前の商店には卸していませんので、ただの稲荷寿司かと」

 それを聞いて、もふ耳少年はにたりと笑った。

 清明さんは困ったなぁ、といわんばかりの表情を浮かべ、

「新月様、いけませんよ」

と、たしなめる。よく分からないけれど、面倒くさそうな展開になりそうなので、清明さんが味方になってくれそうで嬉しい。

「そりゃ、結月さんの霊力は人よりちょっと多くて、しかも神霊の霊力を回復させる御饌を作ることができる資質がありますが、彼女はダメです」

 そうだ、そうだ!
 って、私、そんな資質があったの?
 
「借金を返してもらうまで、うちで馬車馬のように働いてもらうんですから」

 清明さんの言葉に、結月はがっくりと項垂れた。

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