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第25章 対決‼︎ 元祖ゴーレム研究会

第216話

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 ーーー バンッ‼︎ ーーー

 蹴破るような勢いで、扉を開いたオーヘィンは、ズカズカと部屋の中を進みドカリとソファーに腰を下ろした。
 
 ここは彼等『ゴーレム術研究会』の部室。とは言っても彼等が研鑽など殊勝なことをしている訳はなく、この部屋は彼等の溜まり場、サロンと化していた。

「フン!忌々しい王族共め…!……だがまあいい。クックックッ、イラヤめ、上手く場を納めたつもりだろうが、随分と間抜けな提案をしてくれたものだ。フッ、ククククク……! 」

 こうした部屋の内装などにも品性というものは現れる。贅を凝らした…とはいえ、金銀で飾り立てられ如何にも金は掛かってはいるのだろうが、とても品が良いとは言えないであろう調度品に囲まれたソファーの上でふんぞり返りながら、堪え切れないといった様相で含み笑いを漏らすオーヘィン。そんな彼の前に、付き従っていたメイド達が紅茶を淹れて持ってくる。

 それを一口啜りながら、居並ぶ取り巻き達に声をかける。

「さて……。誰かクローレシア達の『第二ゴーレム研究会』とやらのことを知っているか?」
「あ、はい。学院端の敷地に、小さな修練場規模の工房を新設して活動しているようです 」
「それが聞いて下さいオーヘィン様、やつ等、錬金術とゴーレム術を融合させて、"アイアンゴーレム"を造ると息巻いているらしいのですよ 」

 オーヘィンから話を振られ、取り巻きのうちの二名が知っていることを口にする。

「なに…?…はっ!愚かだ愚かだとは思っていたが、そこまで虚つけであったか…!」
「まったくです。過去の偉大なる《土属性》魔法使いの方々の、誰人も成し得なかったことを、一介の学生の身で成そうとは、愚かにも程がありますな!」
「然り然り。しかも、そのメンバーもお笑いです。あの場に居た錬金術科の落ちこぼれた落第女の他に、例の、"アシモフ"まで居るそうです 」
「アシモフ…?ああっ!あの"ゴーレムに卵を持たせる研究"をしていた馬鹿者か⁉︎ 」
「これは傑作だ⁉︎『残念王女』に『脳筋王子』、『落ちこぼれ女』と『役立たず』が寄り集まってな『アイアンゴーレム』造りに挑む。とは、これは何という喜劇だ?」
「おおっ!それはだな⁉︎ 」
「違いないっ!」

 ドッと、一斉に馬鹿にした笑い声を上げるオーヘィン達。
 
 彼等は知らない。たったひとりの"常識外"の登場によって、その"不可能"が覆されているということを。
 彼等は知らない。その"常識外"に導かれ、今馬鹿にした四人が集結した事よって様々な才能が結び付き、新たな可能性の扉が開かれていたということを。

「だいたい、"竜種"の魔晶石と"ミスリル"という魔力伝導性の高い希少素材を以ってしてものゴーレムしか創り出せない者がオーヘィン様に楯突くなど笑わせますな!」
「まったくその通り。事の成否の分からぬ頭で、よくもオーヘィン様方を差し置いて王族などと言えたものだ! 」

 オーヘィンに迎合し、自国の王族に対してとは思えない嘲りの言葉を吐く取り巻き達。だが、それは間違いだ。彼等は"あの程度"と嘲笑っているが、実際にはクローレシアの卓越したゴーレム術だからこそ、【ルクスヴィータ】というゴーレムが生まれたのだ。もしもそれがこの場に居る者達であれば、ゴーレムの形にすらならなかっただろう。

 その事実を知らず、オーヘィンに媚びる目的もあってひたすらクローレシアを馬鹿にし続ける取り巻きの少年達。

 だが、どんな集団であっても中にはひとりくらいはがいたりするものだ。嘲笑を上げるオーヘィン達の中にあっても、ただひとり難しい表情を浮かべている少年がいた。
 その様子に気付いたオーヘィンが笑みを止め、その少年に話しかける。

「どうしたレンドル?難しい顔をして?気になる事があるなら言ってみよ 」

 このレンドルと呼ばれた少年は男爵家の次男坊であるが、プライドばかりが高く家格以外には実際の能力が伴っていない者が多い取り巻き連中の中にあって、珍しく本当に実力が有り、頭が切れる少年であった。
 そういった理由もあり、将来有望と見込んでいた人材でもある。無論、オーヘィンにとってはその"有望な人材"という評価も、と分け隔て無く"駒として"ではあるが。

「いえ、その…… 」
「構わん、言え 」
「はっ!……皆様のご機嫌に水を差すようで黙っておりましたが、私は先程の【ルクスヴィータ】のが気になるのです。以前見かけた時に比べ動きに淀みがなく、ゴーレム特有の"ぎごちなさ"のようなモノ感じられず、まるで人間のように滑らかでした。それにお気付きでしたか? あのミスリルゴーレム、歩く時にまるで足音がしませんでした……… 」

『『『『『………⁉︎ 』』』』』

 レンドルの言葉を聞いた少年達は、ハッとした顔で黙り込む。

 "能力が伴っていない"とはいえ、彼等は皆最小限《土人形創造ゴーレムクリエイト》は使える《土属性適性》を持った者達ばかり。自身の駆使するゴーレム術と比べれば、それが如何に困難であるかぐらいは分かってしまうからだ。

「ふむ……?なるほど。確かに油断はよくないな。お前の忠言は心しておこう。だが、いくら動きが良かろうと、それ以上のパワーで押し潰してしまえばいいだけだ。先の話しのアシモフではないが、正統たる我々が、勘違いした者共に、ゴーレム術の"何たるか"を思い出させてやろうではないか諸君 」

「そ、そうですなっ!」
「ゴーレム術に小細工は要らぬ!危うく騙されるところでした!」

 "ゴーレム術に必要なのはパワー"。取り巻き達の雰囲気が落ちかけたことを察したオーヘィンの言葉に、慌てて気を取り直す取り巻きの少年達。

「とはいえ、"獅子は兎を倒すにも全力を尽くす"とも言う。各自努努ゆめゆめ準備を怠ることなくに臨もうではないか 」

 そうだ、ゴーレムに必要なのは"巨大さとパワー"。シンプルであるからこそ強い、勝つのは我等だ!と、気を持ち直した少年達は明るい顔で笑い合う。

 オーヘィンを含めた少年達は、勝つのは自分達だと自らの勝利を疑っていない。
 事の成否が明らかになり、その笑顔がヒビ割れてしまうのがこの数日後である事を、この時の彼等はまだ知らない………。








「………くふっ!くふふふふふふふ……っ!」

 変わってこちらは。くふくふと堪え切れない笑いを漏らしているのはクローレシアである。

「その笑い方をやめろクローレシア。気色悪いんだよ!」
「くふ……? 煩い、ゼルドは黙る。私は今とても気分が良い、邪魔しないで 」
「酷ぇ⁉︎ …ったく、お袋といいといい、何なんだよウチの女連中は…… 」

 ブチブチと愚痴るゼルド。学院では統制会長というひとかどの役職まで務めているものの、家族….というか、兄弟姉妹の中での扱いはこんなものである。

 彼等に限らず一般家庭においても弟とは姉にとって都合のいいパシリにされやすい。 
 況してや強烈な女傑揃いのロードベルク一家、さすがにクローレシアのパシリにされたことは無いが、姉達が城を出て行くまでこき使われたゼルド。

 お陰で家族内ヒエラルキーは末っ子でもないのに一番下、兄のザインはそうではないが、姉達からは何処ぞの四天王のセリフではないが『ふはははははははっ!ヤツは我々の中でも最も最弱よ‼︎ 』的な下っ端扱いだったのである。

 実際のところは、ここ暫くはヒロトに師事した事で、また、それ以外にもテストパイロットとして来る日も来る日もゴーレムを操縦し続けた事で副次的に〈魔力操作〉などの技術が向上していたことが幸いし、現在のゼルドの実力は相当なモノである。

 その実力は、ヘタをすれば『~最弱…』どころか兄弟中最強と言えるほどにまで達しているのだが、例えそうだとしても姉達には絶対に頭が上がらないだろう。
 何故ならコレは幼い頃からゼルドの奥深いところまで刻み付けられた記憶であり、ゼルド本人は決して認めたがらないだろうが姉達(女家族)への服従は、可哀想だが既に本能レベルでしまっていることだからだ。

 【英雄王の末裔】達。子供達の憧れにして、ロードベルク国民から絶大な支持を誇る彼等ではあるが、その実態は王から王子まで完全に女性達に尻に敷かれているなど、あまり公にしてはいけない事実であった……!


 まあ、そんなゼルド等男王族達の哀しみなどはともかく、クローレシアを始めとして、この部屋に居るメンバーは概ね上機嫌でお茶をしていたのである。

「くふ…っ!今まで散々馬鹿にしてくれたけれど、やっと、やっと私のルクスであいつ等のゴーレムをボコボコにしてやれる…!」

 特にクローレシアはこれまでにないくらい上機嫌で、実はオーヘィン達と別れてからこっち、ずっとこんな調子でくふくふと笑い続けていたのだった。

 一方、今日はこのいつも学院長室に顔を出すメンバーとは"違う者達"が、クローレシアやゼルド達の座るソファーの側に控えていた。

 」
「いえ、セイリア様方のお役に立てて何よりです 」
「うむ。助かった、ありがとう 」
 
 セイリアの言葉にニッコリと微笑んでみせる。よく見れば、それは先程オーヘィン達上級生に絡まれていた一回生達であり、少年達の一番前で受け答えをしていたのは、あの"殴られた"少年であった。だが、どこかがおかしい?雰囲気も態度もまるで違う。何より、受け答えをしている少年の顔には、殴られた痕などのだ。

「殴られた痕は大丈夫か?」
「ご心配いただきありがとうございます。ふふっ、殴られた瞬間に《部分強化》をかけておりましたのでまったく問題ありません 」

 この受け答えもおかしい。《身体強化》自体はそれほど難しい事ではない。だが、あの瞬間、殴られる瞬間にその部分だけを強化して防ぐなど、四回生以上でも出来る者の少ない高等技術なのだ。

「そうか、 」
「皆さんありがとう。元締ウッガさんによろしくお伝え下さいね 」

 そう、彼等の正体はキサラギ家の諜報部隊【影疾かげばしり】。先程オーヘィンは『後から謝罪を~』と言っていたが、"もし本当に"探したとしても、絶対に見つかりはしなかっただろう。何故なら最初から在籍などしていないのだから。
 彼等はの為に生徒の姿になり、この学院へと赴いていたのだ。

「はい、必ずお伝えします。それではイラヤ様、皆様方、これにて失礼致します。またにもいらして下さいませ。では、これにて御免…!」

 スッとかき消えるように部屋の中から姿を消す【影疾】達。その姿を見送ってから、ただひとりプクーッとむくれていたメイガネーノが騒ぎ出した。

「もうっ!お芝居だったなら、なんで教えてくれなかったんですかぁっ!レーシアが怒ってルクスをけしかけた時は本気で焦ったんですよ⁉︎」
「いや、スマン。まさかあの場にメイが居るとは思わなかったんだ 」
「ん。メイはドジっ娘。演技は出来ないから内緒だった 」
「そんなぁ~~⁉︎ 」

 そう、あの出来事は全てお芝居。オーヘィン達の横暴を懲らしめる意味合いもあるが、その後に続くにゼルドやイラヤが仕組んだ事だったのだ。

 愛称で呼び合えるほどに仲の良くなったメイガネーノとクローレシアではあるが、逆に友達らしい気安さで、そのドジっぷりをバッサリとクローレシアに切って捨てられ、涙目になるメイガネーノ。

「ふふっ、メイガネーノさん、私の演技はどうだったかしら?なかなか迫真の演技だったと思うのだけど、私もまだまだ捨てたもんじゃなかったでしょう?」
「ん、イラ叔母さんグッジョブ。ナイス演技だった!」
「もうっ!学院長までっ…!」

 茶目っ気たっぷりにメイガネーノへと微笑んでみせるイラヤだったが、そんなイラヤを見て、僅かに表情を曇らせたセイリアが声をかける。

「……ですが、よろしかったのですか?素行は悪くともオーヘィン達も学院の生徒。学院長としては本当はこのようなやり方は避けたかったのではありませんか?」

 基本的にイラヤは優しい女性だ。本当ならきちんと一人ひとりを諭し、更生させたいのではないか?と、セイリアはイラヤを気遣っての言葉だったのだが、イラヤは残念そうに、しかしキッパリと首を横に振った。

「……そうね。でも…、私の言葉は彼等に届かなかった。彼等はね、一般生徒への暴力だけじゃ無いの。親の身分や権力を盾にして、商家や低位貴族の生徒達から強請ゆすりたかりを繰り返しているらしいの。それだけじゃないわ。どうやら彼等は自分達の部室に無理矢理女子生徒を連れ込んで、まで加えている疑いまであるのよ… 」

「「「「…なっ⁉︎ 」」」」

 イラヤの口から語られた、とんでもない事実。平和だと思っていた学院の裏で行われていた暴挙に、思わずセイリア達は言葉を失う。

「…な、なぜそれが分かっていて奴等を罰しないのですかっ‼︎ 」
「叔母さんを責めないでやってくれセイリア。んだよ。もし事を表に出せば、奴等の"親"までが出てくる。そうなれば、自分だけじゃない、家族にまで累が及ぶ事を恐れて、誰も、何も話してはくれないんだ……… 」
「そんな………っ⁉︎ 」

 生徒である子供達ですら、人を人とも思わぬ横暴さなのだ。もしもその親たる高位貴族が出てこれば、とても無事では済まないだろう。ゼルド達王族が咎めたとしても、もしも裏から手を回されては止める手立てが無い為、無理に被害にあったであろう生徒達に話させる訳にもいかないのだ。

「彼等が犯した罪は、もはや学院の与える罰程度ではあがなえません。如何に学院生といえど、その罪は絶対に償わせなければいけません。どのみち、が実行されれば、彼等とて無事では済まされない。私は子供達の為、悲しみを防げなかった償いとして、今一度"氷の魔女"となりましょう……!」

 イラヤは、沈痛な顔を引き締めて、哀しみの籠もった目でゼルド達を見渡してからそう決意を口にした。

 そんな哀しい決意を定めたイラヤの目をしっかりと見返してひとつ頷いてから、ゼルドはセイリア達に向けて口を開く。

「上手くオーヘィン達を対決の場に引きずり出したが、俺達は新型ゴーレムの御披露目がしたい訳でも、がしたい訳でもない。俺達が目指すのは、奴等が手も足も出ない程のだ。そこで奴等とその"背後に居る連中"が、【魔道具式強化外殻】を脅威に感じれば感じるほど、奴等には動揺が広がり焦りを呼ぶ。それはに綻びを生じさせ、"今後の計画"の成功率に大きく関わってくるだろう。だから……、遠慮は要らねぇ、泣くしかなかった者達の怒りも込めて、徹底的に、完膚無きまでに叩き潰してやるぞ!いいな‼︎ 」

「ああ、やろう…っ‼︎ 」

「ゼルドに言われるまでもない‼︎ 」

「が、頑張ります……‼︎ 」

 
 こうして決定された"競技会"という名の決闘は、様々な思いを孕んで進んでいく。
 だが、これはこの国の歴史の変転する為のほんの助走部分に過ぎない。
 湖に投じられた小さな一石は、やがて大きな波紋となって、ロードベルク全土を巻き込む大波へと変わっていく ーーーー 。





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