〜転移サイボーグの異世界冒険譚〜(旧題 機械仕掛けの異世界漫遊記) VSファンタジー!

五輪茂

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第8章 炎禍の魔女

第50話

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「お祖母様!何故、なぜヒロト様との婚約を認めて頂けないのですかっ!?」

 婆さんの言葉で静まり返った室内の空気を破ったのは、セイリアの叫ぶような一言だった。

「言ったろ、セイリア?『この男が化け物・・・だから』って。そんな得体の知れない男と、可愛い孫娘の婚約を、今日いきなり会って”はい、分かりました”なんて言える訳無いじゃないかね 」

 うん、婆さんの言う事の方が正しいな。だいたい爺さんの方がおかしいのだ。何処の誰とも知れない得体の知れない男を、いきなり孫娘の婚約者にするとかマジで有り得ない。

 自分で言うのも何だが、俺だったら絶対しないなそんな事は、うん。

「ヒロト様は得体が知れなくなど有りません!偶々立ち寄っただけの秀真を、子供達を守る為に魔獣に立ち向かって下さいました!この数日間一緒にいて、改めて強くて、優しい方だと分かりました!ヒロト様は…、ヒロト様は”化け物”などでは絶対にありません!! いくらお祖母様でも許せません、撤回して下さい!! 」

 ソファーから立ち上がり、涙目になりながらも物凄い剣幕で食って掛かるセイリア。

「可愛い孫娘の頼みでも、それは出来ないねぇ…。いいかい、セイリア?アタシも爺ィも、「大戦乱」の時には”万単位の敵”を相手取って戦った事は有るさ。だがね?そりゃあ人間相手・・・・で、一軍を率いての話だよ。アタシ達だって、それなりに腕に覚えはあるし、〈上級竜〉だって倒した事はある。だけどね、その時でもアタシに爺ィ、レイやジークの坊やのパーティで・・・・・倒したのさ。だが、この男はそれ以上のことを、一人で・・・やっちまった。正真正銘の”化け物”さ。そんな男に、大事な孫娘を渡したらどうなるか?怖くてアタシには出来ないよ 」
  
 母親がワガママを言うやんちゃな子供を、優しく諭すかのようにセイリアに話しかける婆さん。

「イヤです!私は、ヒロト様から何があっても離れない、と”あの時”に誓ったんです!ヒロト様だけじゃありません、ノア様にも誓ったんです!認めて頂いたんです!! 」
「セイリア、お前はまだ若い、世の中を知らないだけさ。だいたいノア?誰だい、それは? 」

 そこで初めて婆さんが怪訝な顔をする。あれ?爺さん、ノアのことは伝えてないのか?

「我が主、顕現して宜しいか? 」
「ああ、その方が話が早いだろう。けど、この前みたいな事はするなよ?ちゃんと普通の姿で出てこいよ?」
「……!? い、委細承知!」

 やっぱりの姿で出て来る気だったな?気に入ったのか!?

 前回同様、強烈な魔力波動と共に俺の影から飛び出して来るノア。ただし、さっき釘を刺した為、今回はちゃんと”守護聖獣”の姿だ。

「何だい!? 召喚獣かい?いや、これは契約精霊の召喚だね? なかなか強力な魔力波動だけど、そんなものを呼び出して、いったいどーしようっ…てん……だいっ!?」
「ノア様っ!! 」
 
 影から顕現したノアに、歓喜の表情で飛び付くセイリア。万の援軍を得たといった感じかな?

「【炎禍の魔女】相手に、よくぞ言い切った、流石だ奥方。セイレンよ、我が主に対するこれ以上の暴言は、例え主が許そうとも、この我が許さん。心せよ 」

 苛立ちを含んだ魔力波動を揺らめかせた、ノアの黄金色の瞳がセイレンを捉え、ギラリと光る。

「ま、まさか…!?『クーガ』様なのかい!?」
「『クーガ』では無い。我が主から賜わった名は「ノア」だ。以後はそう呼ぶのだ 」
「「ノア」って……?もしかして、この坊やと契約を!? 」
「いかにも!秀真に魔獣共が押し寄せた際に、ヒロト様より”契約精霊”の誉れを頂いたのだ 」

 その首にセイリアを抱き着かせたまま、胸を反らして誇らしげに語るノア。完全に、どうだ!と言わんばかりの”ドヤ顔”である。
 ……何故だろう?なんかコイツ、出て来るたびにウザくなってるような気がしてならない……。

「はぁっ!? 上級精霊のクーガ様と”契約”!? そんなバカなっ!? あなた方は位が上がる程”神格”に近くなっていくはず!最上級では無いにしろ、クーガ様程の精霊を従えられるはずが……っ!?」
「その通りだ、”普通”ならばな?”我を従える”とは、つまりはそういう事・・・・・だ。解るな?セイレンよ 」
「そういう…事、ですか……!? 」
 
 えぇと?  何が、『つまりはそういう事・・・・・』か本人的にはサッパリ分からないんだが?当人不在のまま会話は進み、何やらセイレン婆さん的には一応の納得があったようだ?

「分かりました。クーガ…いえ、”ノア”様を従えている以上、〈悪しき者〉では無いと信じましょう。ヒロト殿を”化け物”と呼ばわった事も謝罪します。ですが!”過ぎたる力”は、時として災厄を呼び込むのが人の世の常、アタシはセイリアの祖母として、その様な渦中に孫娘が飛び込むことを黙って見過ごす訳にはいきません!! 」

 婆さんは眦を強くして、睨み付ける様な勢いでノアの黄金色の目を見詰め返す。

「ふむ…?ならば如何する、セイレンよ? 」
「アタシは今でこそ肩書きは「最高ギルド長」ですが、気持ちは今でも現役、冒険者の一人であり、一介の【闘士】であるつもりです。ならば、相手を見極める方法など唯一つ!拳を交えればいい。と、いう訳だヒロト殿よ、済まないがアタシと立ち会ってもらうよ?受けてくれるんだろうねぇ? 」

 握り締めた拳をこちらに突き出して、そう告げる婆さん。
 何の事はない、やっぱりこの人も体育会系のノリなのか?「タイマン張ったらダチだぜよ!!」的なアレか?どこの少年マンガだよ!?…と、思わなくもないが、ここは婆さんの要求に応えるしかないだろうな?スゴく期待した目でセイリアとノアも見ているし…!?

「仕方ねえな?いいぜ、婆さん。それはいいが、何処でやるんだ?まさかここでじゃないよな?」
「この建物の裏手が修練場になってるんだよ。そこでやろうじゃないか。レイ!場所は知ってるね?アタシは仕度があるから、皆んなを連れて先に行ってておくれ 」
「承知致しました。では皆様、ご案内致します 」

 何か妙な流れになってしまったが、こうなったら仕方ない、レイナルドの案内で部屋を移動する俺達。
 話にあった修練場に行く為には、一度一階まで降りて受付ロビーまで戻らなければならないそうなので、一旦ノアには猫の姿になる様指示をすると、何だかエラく嬉しそうに黒猫の姿になり、俺の肩に飛び乗って来た。
 爪も立てずに器用に肩の上でバランスを取りながら、俺の首元へと頭を擦り付けてゴロゴロと喉まで鳴らしている……っというか、頭を擦り付けるのって、マーキングじゃなかったか?

「何だかご機嫌だな、ノア? 」
「はっ!?いえっ!申し訳ありません、影の中だけでなく、こうして主と共に在るのが嬉しく!?申し訳ありません、ご不快でしたか? 」

 ビクッ!っとした後、顔の横から覗き込んで恐る恐る尋ねてくるノア。その様子があまりにも不安げだったので、手を伸ばしその頭を撫でながら言ってやる。

「いや、別に構わないぞ?割と猫は好きだしな。その姿のままなら騒ぎにもならないだろうし、いっその事もうこのまま顕現してたらどうだ? 」

「「本当ですかヒロト様っ!?」」

 をぉっ!? 一人と一匹、ノアに加えセイリアまでが食いついてきた。

「セイリアはノアが側にいた方が嬉しそうだな? 」
「はい!あ…いえ、はい………!」

 急に大きな声を出した事が恥ずかしかったのか、顔を赤くして少し俯きながら返事をする。

 さっきの様子を見てても、秀真での一件からこっち、セイリアは相当にノアに対して信頼を寄せているようだ。

「そうか、ならノア、ずっと顕現している事を許可する。そして命令だ、”セイリアを守れ”。どうせ俺とは意識下で繋がっているんだし、影の中を通れば俺の元へも直ぐに来れるんだろ?」

 わっ!っとお互いに喜びあうセイリアとノア。ノアは喜ぶセイリアの腕の中へと飛び移り、セイリアもそんなノアを抱きしめる。

「良かったですね、ノア様!」
「うむ!礼を言う、奥方のお陰だ!」

 一頻り喜ぶ一人と一匹だったが、ノアは顔をこちらに向けて嬉しそうに言う。

「我が主、願いを聞き届けて頂き恐悦至極、誠に有り難き幸せに御座います。そして御命了承致しました。我が力の全てを以って奥方を御守り致します!確かに影を通れば、如何なる時、場所であろうと主の元へ馳せ参じる事は出来ますし、いざとなれば奥方共々・・・・移動も出来ます故 」

 ん?今何て言った?なんか今、ノアの奴トンデモ無く重要な事を言った気がしたぞ!?

「ノア、お前今何て言った? 」
「はっ!”我が力の全てを以って、奥方を御守り致します”と 」
「違う!?そこじゃ無い、”馳せ参じる”の後の辺りだ! 」
「えっ!?あ…、あうあうあう……!? 」
「忘れたのか!? ”奥方共々”って言ったろ、お前!? 」

 コイツ、小さくなったら頭の中身まで小ちゃくなったんじゃないだろうな!?

「あっ!? その事で御座いますか! はい、奥方一人程度、我が影を共に通り抜ける事など雑作もありません 」
「そうか。……………ノア、ひとつ聞きたいんだが、それは一人程度しか無理なのか?」
「いえ、五十人、百人とは無理ですが、ここにいる者程度ならば問題ありません 」

 おぉっ!? なかなか凄いじゃないか!しかし、逸る気持ちを抑えながらもうひとつだけ、期待を込めてノアに質問してみる。

「な、なあ、ノア?それって、”何処か”から俺の元への召喚しか出来ないのか? 」
「いいえ?我が認識出来る場所…、そうですね、例えば「秀真の國」や「デイジマの村」など、一度行った事がある場所ならば行く事は可能です。ただし、夜など闇の中であればどこでも良いのですが、昼間は影のある場所にしか通り抜ける事は出来ません 」


 ーーぃぃよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!ーー

 来たよ、来ましたよっ!?  待望の〈瞬間転移〉、”◯ーラ”ゲットォォォォォォォォォッ!ですよ!!

 いやいや、まさかノアがキーアイテム?だったとは!? ”ウザい”とか思ってゴメンよ、ノア!

 行った事がある場所にしか行けないとはいえ、デメリットなど殆んど無い。むしろ、新しく行く場所などはその行程も楽しみなのだから、逆に〈瞬間転移〉ではつまらない。
 緊急時の移動や何かの用事の時に、移動時間がほぼゼロなのだ、メリットだらけである。

「ど、どうされたのですか、ヒロト様!? 」

 急に一人でガッツポーズとかを取り出した俺に、恐る恐る声をかけてくるセイリア。周りを見れば、ソニア達まで引いてしまっている。やっちまった感がハンパ無いが、”ルー◯”の前では些細な事だ!

 ーーわははははははははははははははっ!!ーー


 ともあれ、一人ではしゃいでいても仕方ない。ノアに頼んでの初転移・・・の検証は後回しにして、先ずは婆さんとの”対決”だな?

「いや、何でもないよセイリア。ノアのお陰で、また”楽しみ”が増えたのが嬉しくってさ 」
「”楽しみ”…ですか? それはどういう……? 」

 コテン、と小首を傾げながらセイリアが聞いてくる。……あれ?解ってない?見れば、他の皆んなもよく解って無い感じだな?

「なあ、セイリア?〈瞬間転移〉の魔法やスキルって在るのか? 」
「〈瞬間転移〉ですか? ……えぇと……?確かいにしえの文献には其れらしき記述は在るらしいのですが、”古代魔術文字”で書かれているうえ破損も酷いらしく、なかなか解読は進んでいないはずです。今では失われた魔法技術に等しいですね。それがどうかしたのですか? 」

 なるほど、”失われた魔法技術”なら皆んながピン!と来ないのも仕方がないか? ふふふ、これは後から試すのが楽しみだ。思いっきり吃驚してもらおうじゃありませんか!!

「いや、ちょっとな。まあ、後からのお楽しみ・・・・にしておいてくれ。それよりも先ずは婆さんとの一戦だな? 」

 後から皆んなを吃驚させたいが為に、ここはあえて黙っておく。話の矛先を婆さんとの対戦に持って行くと、ソニアが心配そうに口を開く。

「兄貴…、大丈夫なのかい?セイレン様は元〈ランクS〉の【炎禍の魔女】なんだよ!?兄貴が強いのは知ってるけどさ…… 」
「だよな……、兄貴、情けねぇ話だが、さっき俺はギルド長の魔力波動に当てられてから震えが止まらねぇよ……!?」
「ヒロト兄ィ………!? 」
「ヒロト兄さん、本当に大丈夫なんですか!?」

 口々に不安と心配を告げるソニア達四人に、ニカッ!っと笑って答えてやる。

「俺にも分からんが、何とかなるだろう。だが、心配しなくていいぞ?実はな、俺は”楽しみ”なんだよ。元〈ランクS〉冒険者として、何百年と技を練り上げて来た「闘士」との対戦だぞ?楽しくなって来ないか? 」
「”楽しみ”って……っ!? はぁ、敵わないねぇ、兄貴には… 」
「ってか、ソニア。お前は特に良く見ておくんだぞ?自分より遥かな高みに居る実力者の闘いだ。しっかりとその目に焼き付けて、全部自分の血肉にするんだぞ?」
「分かったよ兄貴、瞬きすら惜しんで見させてもらうよ 」

 そんな会話をしながら、来た時よりも明らかに人数が増えているのに、逆に静かになっている受付ロビーを通って、建物裏手にあるという「修練場」へとレイナルドの先導で進んでいく俺達十人と一匹。

 長い廊下の突き当たり、大きな出入口の扉を開けると、そこにあったのは秀真の國にあったような「道場」ではなく、ローマのコロッセオ風の造りの「修練場」だった。

「遅かったじゃないか、怖気づいた訳でもないだろうに、いったい何をやってたんだい? 」

 修練場の中央には、既に紅の地に錦糸で模様の描かれた”漢服”のような道着に、これも真紅に染め抜かれた胸当てや手甲と脚甲を装備した婆さんが腕組みをして待っていた。

「待たせちまったか?すまんね、色々あってな?まあ、後から話すよ。それよりエラく”重装備”で来たもんだな? 」
「へぇ……!? 判るのかい?ま、アンタみたいな化け…、コホンッ!ツワモノを相手にするんだ、ヘタな装備じゃ失礼に当たるだろう? 」

 口角を吊り上げ、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる婆さん。だからこちらも同じようにニタリッと嗤ってやる。

「ああ、イイね。どうする、ウォーミングアップは要るかい? 」
「いや?一線は退いたが、鍛錬は欠かしてないさ。さあ!とっとと始めようじゃないか!! 」

 ーーガァンッ!!ーーと手甲ガントレットを打ち鳴らし、早く早くと闘いの催促をする婆さん。

「分かったよ、じゃあ始めようかっ!!」


 俺と婆さんは同時に構えを取り、互いの身体から噴き出した魔力波動がせめぎ合い、火花を散らし始めたのだった…………。










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