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第14章 冒険者な日々 1
第84話
しおりを挟む「あれ?兄貴、何だか面白そうな依頼があるよ?」
王都の冒険者ギルド本部の、掲示板に貼り出された依頼書の一枚を指差してソニアが言った。
今日は、何か良さそうな依頼があれば受けようかと思い、俺達は朝から冒険者ギルドを訪れていた。
あの、違法奴隷売買組織の一件から数日が経ち、王国騎士団や衛兵隊、冒険者ギルドが一体となって行った一斉検挙、潰滅作戦は、少なくない動揺を王都市民達にもたらした。
何しろ、普通の家だと思っていた隣家が、凶悪な誘拐犯罪組織のアジトで、いきなり深夜に大捕物が始まったのだ。驚くな、と言う方が無理な話だろう。
暫くの間は巷はその話で持ち切りで、何処に行ってもその話題ばかりだったと言う。おまけに、ヒギンズのクソ親父以外にも関わっていた貴族達もいて、それなりに多くの貴族籍の者達が、王国政府によって更迭、取り潰しなどの処分を受けたらしい。
まあ、全て”身から出た錆”、同情の余地など全く無いが。むしろザマァである。
それはともかくとして、俺の予定としては、”闇精霊クーガ”ことノアのお陰で、念願の《空間転移》の魔法を手に入れ、その力でもって、『秀真の國』の北側、「黒門」の先に広がる”魔の森”へとソニア達を連れて行き、『強制レベリングキャンプ』を開催するつもりだったのだが、婆さんの”鶴の一声”(気まぐれとも言う)によって、シイラの参加が急遽決定してしまった。
だが、いくら《治癒》で体の傷は回復したとは言っても、シイラはつい先日救出され、奴隷から解放されたばかり。大丈夫そうに見えても、まだまだ心にも身体にもダメージが残っているだろう、と言う事で、二週間程はシイラを休息させることにしたのだ。
当初の予定とはズレてしまったが、その間に遊んでばかりいても体が鈍ってしまう。なら、訓練がてら、自分達だけで適当な依頼でも受けてみよう、という事になり、ソニア達四人と共に冒険者ギルドに来てみたのだが、早速ソニアが気になる依頼を見つけたようだ。
「なになに…?『スイ竜の撃退』…?討伐、じゃなくて?どういう事だ?」
ん? ”スイ竜”…”水竜”? 〈翻訳〉スキルがバグってるのか?
貰い物のスキルに文句を言う訳にもいかないが、駄女神の事だ、そんな事もあるかもしれない。まあ、そんなに問題でも無いし、いいか?
ソニアが指差した依頼書だが、よく見れば依頼ランク〈B〉に赤線が引かれ、〈EX〉になっている。何だ?この〈EX〉ってのは?
「ソニア、何だこの〈EX〉ってのは?そんなランクあったか?」
「いや、アタイも聞いたこと無いよ?何だろうね、特殊な依頼なんだろうか?」
ソニアの後ろでは、ゴウナムやアーニャ、マーニャも首を横に振っている。”冒険者”としては、俺よりも経験の長いソニア達も知らない…か? 普段ではあまり見かけない依頼なのは間違いなさそうだ。ゲームなら”特殊クエスト”のイベントってところかな?
ともあれ、依頼書を剥がして受付けカウンターへと持って行くと、カウンターに居たのはここに初めて来た時に応対してくれた、あの受付嬢さんだった。
「おはようございます。…あら、クーガ様、今日は依頼を受けにみえたんですか?」
「おはよう、まあそんなところだ。ところで、この〈EX〉ってランクの依頼なんだけど、〈ランクB〉の俺達でも受けられるのか?赤線が引いてあるけど?」
依頼書を受付嬢さんに渡すと、彼女は依頼書にざっと目を通す。
「〈EX〉『スイ竜の撃退』、特殊依頼に変更された依頼ですね、大丈夫ですよ。元は〈ランクB〉の依頼だったんですが、〈ランクEX〉つまり、ランク設定無しになった依頼です 」
「理由は?」
「……何組もの〈ランクB〉パーティがこの依頼に挑戦したんですが、連続して達成に失敗して退却したんです。それで”ランク設定無し”の依頼に変更されました。内容は討伐では無く撃退の為、低ランクパーティが何組も合同して、でも受けられるようになったんです 」
何組ものパーティが既に依頼失敗しているのか…。流石に相手は”竜種”という事だろうか?
竜と聞いて思い出すのは、やはりこの世界に来て初めて目にした【プテラゴン】の事だ。
アフィーちゃんの話では、下位竜に分類され、単体では〈ランクC〉だが、群れと成ればその脅威度はB、Aへと跳ね上がる。
確かに、単体ならば地面に突き刺さった瞬間を狙えば、そこまで労せず倒せるだろうが、あの空爆の様な連続攻撃は凄まじかった。今のソニア達では、五分と保たず肉塊へと変えられてしまうだろう。
そうなると、気になるのは”スイ竜”とやらのランクなんだが……?
「その”スイ竜”とやらは、どれくらいのランクなんだ?〈ランクB〉パーティが失敗してるって事は、少なくとも中位竜以上なのか?」
「それが分からないんです」
「分からない?」
「はい。”スイ竜”は、極端に遭遇例が少なく、今回の物を含めて、この千年でたったの四回ほど、しかもその内一件は伝説でしかありません 」
「そんなに少ないのか……。それで?失敗したパーティはやっぱり…全滅したとか?」
〈ランクB〉パーティがいくつも全滅したという事は、下位竜という事は無いだろう。もしかしたら中位上級くらいの強さはあるかもしれない。
「それが、幸いにも今の所、死者は出ていません。一番酷い怪我で骨折くらいだそうです。ただ…… 」
「ただ?」
「何とか依頼を出した麓の村まで退却は出来たらしいんですが、その晩から、全員が酷い頭痛や吐き気、倦怠感に襲われ、数日間立つ事もままならなかったそうです 」
頭痛や吐き気?毒竜の類いなのか?それにしても死者が出ていない? 相手をする程ですら無いという事なのか? 随分と優しい竜だな?
しかし、バッドステータスを喰らわせてくるのは厄介だ。
…………だが?
「分かった、依頼を受けてみるよ。ただ、うちのメンバーはこの前〈ランクC〉に上がったばかりだし、無理そうならすぐに退却するけど、いいか?」
「ありがとうございます!〈ランクB〉パーティが何組も失敗している事で、他のパーティは皆んな尻込みしてしまって……、正直困ってたんです。あと、退却の判断はお任せします。冒険者は「無理は禁物、命あっての物種」ですからね 」
にっこりと笑顔を浮かべながら受付嬢さんが悪戯っぽく笑う。これは、からかっているのでは無く、俺達が深刻に考え過ぎない様に、敢えて軽く、冗談っぽく言ってくれているんだろう。なかなか優しい女性の様だ。
『マスター、敵性反応が現れました。反応数三、囲まれています。排除しますか?』
視覚モニターの端で、マップ表を示しながら、アイが報告してきた。
”敵性反応”?それにしては殺気をあまり感じないが?この前潰した犯罪組織の残党だろうか?
そう思いながら、左右、後方モニターを確認してみると……、居た。確かに三人の冒険者らしき男達がこちらを睨んでいる様だが……?
ああっ!? なるほどね、そういう事か!
『大丈夫だよ、アイ。放っておけ 』
『何故ですか、マスター?』
『彼等は、この受付嬢さんに好意を持っているのさ。それで、仲良さそうに話している俺が気に入らないだけだ。問題無い 』
『気に入らない…?……ああ、”嫉妬”って感情ですね!そう言えば私も、マスターの視覚を通して、マスターと直接触れ合えるセイリアさん達に、こう…モヤモヤした気分になった事があります。羨ましい…と言うか…、キライじゃないはずなのに。あれが”嫉妬”という感情だったんですね』
そうか…、普段あまり言わないが、やっぱり早く自分の体が欲しいよな……。
どれだけ膨大なデータ、知識が有ろうと、アイはまだ生命体に成ったばかり。言ってみれば赤ん坊と同じだ。
見る物、聞く物、体験する全てを感じ、怒る事も泣くことも、表面的な事だけじゃなく、もっと深い感情まで、まだまだこれから色々と学んでいくのだ。
もっともっと、色々な物を、景色を見せてやりたい。色んな美味い物を味あわせてやりたい。何か素晴らしい体験をさせてやりたい。
その為にも、出来る限り早くアイに身体を持たせてやらなければ。
『そうだな、早くアイが自分の体を手に入れられるように、頑張らないとな 』
『はい!ありがとうございます。マスターと並んで歩ける日が楽しみです!』
今の所は、それがどんな方法かも、皆目見当も付かないが、その内にレイナルドや国王に頼んで、お城の書庫を見学させてもらおう。国宝級の魔導書とかだったら、方法も見つかるかもしれない。
そんな事をアイと話している間も、こちらを睨んでいる男達は絡んで来る気は無さそうだったが、必要以上に受付嬢さんと仲良くして、余計なトラブルを招く必要も無いだろう。
さっさと受付けを済ませて目的地に向かう準備をしようか。
「ありがとう、その辺りはきちんと見定めるよ。じゃあ、依頼の詳しい情報とか、分かっている範囲でいいから、”スイ竜”の情報を全部教えてくれ…… 」
冒険者ギルドで、五人パーティとなって記念すべき初依頼を受け、ひとまず秀真屋敷へと帰ることにした。
理由は色々あるが、目的地が王都から馬車で五日ほどの場所だと聞き、移動の為にライナとサイノを借りることにしたからだ。
そんなギルドからの道すがら、歩きながら五人で依頼内容を整理することにしたのだが……、”スイ竜”との過去の遭遇例の中から、”分かっている範囲で”受付嬢さんから追加情報をもらったのだが、かえって混乱する結果となってしまった。
まず、目的地となる冒険者ギルドに依頼を出した村の名前が「ヨウロウ村」、王都から北西に馬車で四日程行った先にある衛星都市「タルヒ」から、さらに馬車で一日ほど西に向かった山の麓にある小さな村らしい。
割と山奥に位置しているが、付近には強力な魔獣も住んで居らず、のんびりとした平和な村だそうだ。
特筆する程の名産品は無いものの、村の周りには山の泉から湧き出る清水を利用して果樹園が広がっていて、柑橘系の果物を育てて出荷して生計を立てている、との事。
今回、問題となったのは、その水源である泉に、少し前から”スイ竜”が棲み付き、魔法か何か原因はよく分からないが、その泉から湧き出る水を変質させてしまったらしい。
それだけではなく、”スイ竜”が吐き出す甘い香りのする霧が村や果樹園にまで流れて来て、その霧に包まれると強い酩酊感に襲われ、立っている事が出来なくなってしまうという。
このままでは、村の唯一の収入源である果樹園も全滅し、村を捨てなければならなくなってしまうかもしれない、そう危惧したヨウロウ村の村人達は、お互いに少ない収入から資金を出し合い、冒険者ギルドへと依頼を出した、という訳だ。
しかし、泉に棲み付いた事といい、酩酊感や頭痛に吐き気…、状態異常を引き起こす霧か…?となると、やっぱり”スイ竜”とは〈水竜〉、それも毒竜の類い何だろうか?
だが、少ない遭遇例からの情報の中に、明らかにおかしなものがあったのだ。
それは、過去の”スイ竜”との遭遇例において、何故か殆んど死者は出ていないのだが、それぞれ別の理由で二人ほど犠牲者が出ているのだ。
ーーケース A ーー
討伐に当たった〈ランクB〉パーティに対し、”スイ竜”が甘い香りのする霧のブレスを吐いた。パーティ全員が立っていられない程の目眩や強い酩酊感に襲われ退却。
その後、全員が酷い頭痛や吐き気などの状態異常に見舞われたが、その中の一名が激しく震え出したのち意識を失い昏倒、その数時間後に死亡した。
後に冒険者ギルドの調査班が、死亡した冒険者や、回復した残りのメンバーを調査するも、毒の反応や痕跡は一切見つからなかった。
ーーケース B ーー
〈ランクA〉パーティが”スイ竜”の討伐に挑戦。
他のケースと同様に、やはり”スイ竜”は甘い香りのする霧のブレスを吐いた。
しかし、さすがは〈ランクA〉パーティ、所属する魔法使いが即座に反応、《雷属性》の魔法を放った。だが、次の瞬間……、視界が真っ白になる程の閃光、そして轟音と衝撃波。つまりは大爆発が起こったのだ。
”スイ竜”のブレスか魔法か?判明はしていないものの、この大爆発によって他のメンバー達も、大きく弾き飛ばされてしまった。
全員が酷い火傷と共に骨折等の重傷を負い、パーティは命からがら逃げ出した。
爆心地に居た魔法使いは粉々に四散して死亡、重い怪我とメンバーの死亡によって継戦が不可能となり、パーティは撤退した。
今回のケースを含め、その全てが戦闘開始直後、と言うか殆んど戦闘前に冒険者側が戦闘不能になりカタが着いてしまっている。
それほどまでに一方的な展開であるにも関わらず、死亡したのが二名のみである、と言うのが不幸中の幸いか?
混乱、と言うか、訳が分からないのはここだ。もし”スイ竜”が毒竜ならば、なぜ全員では無く一人だけが死んだ? おまけに毒の反応が出ないのはどうしてだ?
次に、”大爆発”の件だ。《爆発》は《火属性》に含まれる為、”スイ竜”が泉に棲み着く〈水竜〉ならば、火と水という属性の関係上、〈相対属性〉となって絶対に使えないはずなのだ。
……うん、訳が分からん。”スイ竜”って、いったいどんな属性の竜なんだ? 単純に”水竜”の翻訳ミスだと思っていたが、どうやらそうでは無さそうだ。
こうなると、正確な翻訳が出来ていないのが痛いな……、自分の一番の属性である《光属性》を忘れていた事といい、あの駄女神変な所で詰めが甘いんだよなー。
まあ、それはともかく。
不安は残るが、俺達には”奥の手”、《空間転移》がある。いざともなれば、ノアに頼んでさっさと逃げ出せばいい。
そうと決まれば、〈状態異常〉回復用の魔法薬や食料など、今出来るだけの必要な準備を整えたら、早速現地に向かて出発するとしようか!
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