〜転移サイボーグの異世界冒険譚〜(旧題 機械仕掛けの異世界漫遊記) VSファンタジー!

五輪茂

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第15章 冒険者な日々 2

第98話

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 少し悩んだが、真っ赤に色付いた実の成るカーフ畑をキムチェと並んで歩きながら、俺はここ暫くずっと考えていた事をキムチェに伝える事に決めた。

「…………キムチェ、…お前が…欲しいんだ。…俺のところに来てくれないか…………? 」







 白く眩ゆい朝の光が、朝靄に包まれた村を染め上げていく。

 ーーガラリッ!  燻った煙を上げ、完全に炭化した木がどこかで崩れ落ちる。
 
 酷い…、酷い有り様だった。村の彼方此方には死屍累々と男達が倒れ伏し、昨夜の惨状を伝えている。

 無事な者など、誰一人としていない。時折、朝靄の中で掠れたうめき声が漏れ聞こえて来る。

 一人の男が、霞む目を僅かに開けると、その目に映ったのは、累々と横たわる仲間達の姿だった。

「…うぅっ……、ぐぅ…っ!? 」

 身を起こそうと身動ぎをするが、身を貫く激痛に身を捩り、再び地に伏せてしまう。

「おぐ…っ! おごっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 」

 不意に、愁眉を極める匂いが鼻を掠め、こみ上げた吐き気に激しく嘔吐してしまう。

 何故こんな事になってしまったのか? どれほど自らの行いを後悔しようとも、痛みに耐え涙に塗れ、何度も嘔吐を繰り返すしかない。

 ーージャリッ! ーー

 地面を踏みしめる足音に涙で霞む目を上げる。それは男にとって、最も恐ろしい相手だった。
 苦しさに身悶えしながらも、何とかして逃げようとするが、衰弱し切った身体はまるで言う事を聞いてはくれない。
 やがて、男にとって最後の宣告を告げるかのように、相手の右腕が振り上げられ、男の頭へと叩き付けられた……。 ーーーー









 ーー ゴッチィィィィィンッ!! ーー

「ええ加減にしやーよ!なんやて、このたぁーけめ馬鹿たれが!! 」

ゴメーーーーーーーーンッ!!!? 」


 あ~~あ~~、朝っぱらからサムゲータさんが、コチュンジャさんに大目玉喰らってるよ……。


 ーー 「一夜明け  昨日の英雄  今朝ダメ親父(字余り)」  ヒロト心の俳句 ーー

 皆さん、おはようございます。ヒロトです。日課の鍛錬を終え、村の中央広場へと目を向ければ、ちょうどコチュンジャさんがサムゲータさんに拳骨を喰らわせているところだった。

 現在、アソノ村の中央広場は阿鼻叫喚の修羅場……、具体的には今のサムゲータさんのように、飲み過ぎ、騒ぎ過ぎで酔い潰れてそのまま眠り込んでしまった男達が、二日酔いでどんよりしたまま自分の奥さんや家族に怒られまくっている。
 中には今のように、タダでさえ二日酔いでガンガンしているであろう頭に拳骨を喰らって、悶絶している姿もあちこちに見える。

 酷かったもんな~~、昨日は…。

 トンデモ無く偶然ではあったが、【シーヴ柿】と言う砂糖の原料になる物を見つけ、実験の為に幾つかの実を採取してから、ホクホク顔でキムチェと一緒に村へと戻ったのだが、まあ、サムゲータさんを始めとする男達のテンションが凄まじい事になっていた。

 ボコボコにされていた誘拐犯達(半殺しどころか、辛うじて状態だった)に、死なない程度の《治癒ヒール》をかけて、念の為《岩槍ロックランス》を応用した即席の牢屋に閉じ込めてから広場へと赴いたが、とっくの昔に宴会はスタートしていたのだ。

 と、言うか、正しくは戦闘で盛り上がった男達が勝手に始めてしまった、という事だろう。

 しかし、その時はまだ奥さん達も決して怒ってはいなかった。それどころか、村の子供を攫い、更にはゴーレムまで引き連れて襲って来た悪党達と戦い、返り討ちにした男達の健闘を称え、肉や魚を焼き、甲斐甲斐しく酒を用意したりしていたのだ。

 俺も今日の主役だからと宴席中央へと連れて行かれ、右にサムゲータさん、左にキムチェ、膝の上にはチェヂミという完璧?な布陣の中、酒を注ぎに来る者は次から次へと引きも切らず、それでも皆が笑顔で、大いに盛り上がった宴会だったのだが……?

 その後がいけなかった。戦いの後の高揚感が治らないのか、勝鬨が止まらない。誰かが叫べば、突然始まるシュプレヒコール。男達の盛り上がりは異様な熱を帯び始め、どんどんテンションがおかしな事になっていった。
 更には……、

「俺は二人やったったぞ!」「たーけ!俺は三人やわ!」「たーけか、オメェ等、俺なんか五人やぞ!」

 次々と、あちらこちらで始まる俺様武勇伝。いやいやアンタ等、それ全部合わせたら五十人超えるからね!? アイツ等二十一人しかいなかったよね!?

 挙句、どっちが凄かったかと、始まる喧嘩がやがて掴み合いの大乱闘にまで発展する中央広場。
 しかし、これで収拾がつかなくなるかと思いきや、青アザ作って鼻血を流しながら、いつの間にか肩を組んで大爆笑をしていた。何だアレ?

 結局、男達は一晩中ブッ倒れるまで酒を飲み、今度は全員仲良く二日酔い……。そこら中で青い顔をしながら頭を抱えて、ウンウン唸っている、という訳だ。ま、自業自得だな?

 俺? 付き合い切れないから、乱闘が始まった辺りで引き揚げたよ? 決まってるじゃないですか、ヤダー!

「ヒロ兄ちゃん、おはよー♪ 」
「ああ、おはようチェヂミ 」

 そんな爽やかな朝の風景を眺めていると、チェヂミも起きて来たようだ。
 ちなみに男達が塗れている最高に爽やかじゃないは、《風魔法》で”絶対に”こちらに流れてこない様にしている。
 朝っぱらからあんな臭いはイヤだしな!

「ヒロト様、お食事の御用意が出来ました 」
「ありがとうキムチェ、よし、行こっかチェヂミ 」
「うん! 」

 コチュンジャさんが為、今朝の朝食はキムチェが作ってくれていた。
 俺はチェヂミと手を繋いで、広場で始まった”お仕置き大会”に背を向けるのだった。
 

 
 朝食を食べて食後のカーフを楽しみながらまったりとした後、キムチェとチェヂミを伴って、村の外れまでやってきた。

 そう、いよいよお待ちかねの【シーヴ柿】の砂糖精製実験の為だ。
 
 最初はキムチェの自宅の庭でやろうかと思ってたんだが、流石にの漂う中でやりたくはない。それに、まだきちんと結果が出るまでは、何となく内緒にしておきたかったのだ。

「ヒロ兄ちゃん、こんな所に何しに来たの?」
「ん? ああ、ちょっと実験をしにな? 」
「実験?」
「まあ見てろって 」

 キムチェには昨日、【シーヴ柿】のことを伝えたが、その事をまだ知らないチェヂミは、いったい何の為に俺がここに来たのか分からずに、可愛らしく首を傾げている。

 教えてやってもいいんだが、何も知らないままの方が、後からの楽しみは大きいだろうと敢えて教えない事にする。

『じゃあ、アイ、よろしく頼むよ 』
『イエス、マイマスター 』

 《地属性》魔法の地形操作でを生成し、アイテムボックスから大鍋とタライを取り出す。

 大鍋の方はカマドに乗せ、タライの中に採取した【シーヴ柿】の実を入れていく。

「……!? ヒロ兄ちゃん、これ、【シーヴ柿】やん!? コレ、すっごく渋くて食べられへんよ!? 」

 【シーヴ柿】を見たチェヂミが、慌ててそう言って”待った”をかけて来るが、俺は前に秀真からの旅の途中で作った”ジャーキー”をアイテムボックスから取り出して、ニッコリ笑いながらチェヂミに渡してやる。

「フッフッフッ! 大丈夫、大丈夫! ほら、コレをやるから、まぁ取り敢えずはそこで食べながら見てろよ 」
「うん……、でも絶対美味しくないよ?」

 チェヂミ自身も、一度は食べられないか試してみたことがあるんだろう。
 たぶん、俺が”ガッカリ”しないように と一生懸命なのだ。

 だが、ここまで【シーヴ柿】に対して否定的ならば、成功した時のギャップが却って面白い。
 いつもニコニコと美味しそうに食べるチェヂミには珍しく、心配そうな顔でモソモソとジャーキーを食べるチェヂミを横目(ピアスモニター)で見ながら、ひとりのだった。

「クスクスクス……!」
「どうしたんだ、キムチェ?」
「いえ、ヒロト様、何か? 何だか笑い方がにそっくりですよ? 」
「な……っ!? …………すいません、調子に乗りました。心の底から深く深く反省します 」
「そこまで!? 」

 マジです! そこまでですよ! ”朱に交われば赤くなる”とは言うが、あのの一角であるレイナルドと同じ様な笑顔とは……っ!?

 真剣に、心から反省しなければ……っ!?

 ……さて、海より深く反省したところで、そろそろ本気で作業に取り掛かろう。

 先程大鍋と一緒に取り出したタライの中の【シーヴ柿】に、《風属性》魔法の極小《竜巻トルネード》に、無数の《風刃エアカッター》を同時発動させてタライの中を掻き回す。
 要は”魔法式ミキサー”だな。それをタライの中の【シーヴ柿】がペースト状に近くなるまで撹拌してやる。

 次は、半液状化した【シーヴ柿】を大鍋の方へと移動させ、アイが《土人形創造クリエイトゴーレム》や《追加装備オプション》で使用する〈圧縮〉を使い、果汁と絞りカスを完全に分離する。

 ここまでやれば後は簡単、カマドに火をべ、ジャムを作る時の様に、トロ火でゆっくりと水分を飛ばして濃縮していくだけだ。
 おっと!事を忘れちゃいけないな。

 アイが管理してくれるから、焦げ付いてしまわないように火力の調節、〈流体操作〉でかき混ぜる手間も要らないから、簡単なもんだ。

 その間はピクニックマットを広げ、カーフや紅茶、御茶請けには少し塩味の効いたお菓子をつまみながら、キムチェやチェヂミとたわい無いお喋りをして過ごす。

 そうしている内に、鼻をヒクつかせたチェヂミが、スンスンと鼻を鳴らして、辺りの匂いを気にしだした。

「……甘い…? ヒロ兄ちゃん、何だか甘くていい匂いがするよ…っ!? 」

 チェヂミがワクワクとした顔で表情を輝かせて俺を見上げてくる。

 無理も無い、チェヂミが言った通り、さっきから俺達の周りには、あの熱を加えた時の砂糖独特の、甘い香りが漂っていたのだから。
 ……よくわからない? 嗅いだ事は無いか? そうかなぁ、たぶんある筈だぞ? ほら、縁日の屋台の、綿の匂いだよ。…………分かっただろ?

 実はチェヂミにバレないように、鍋の周りにも風の結界を作って、匂いだけ上空高くに飛ばしていたのを、ついさっき解除したのだ。
 キムチェやチェヂミは狐の獣人、匂いには敏感だから、そのままだとバレちゃうしな。

 大鍋をカマドから下ろして中を見ると、底の方に褐色をしたのりペースト状の物が出来上がっていた。

 箸の先にひと掬い、まず自分でを兼ねた味見をしてみる。……うん、そのもの…ではないけど、味はちゃんと砂糖だ!後は有害な成分が含まれていないか?どうかなんだが……。

『マスター、経口採取による成分検査の結果ですが、有害な物質は一切検出されませんでした。おめでとうございます、念願のお砂糖ですね!』

 ……っしゃあっ!! 思わず拳を握り締めて、小さくガッツポーズを取ってしまった。
 興味深々で俺の様子を覗き込んでいた二人にも、鍋から箸で掬い、よく冷ましてから渡してやる。

「あっまぁ~~~~~~~~~~いっ!? 」
「こ、これはっ!あの…、あんな渋いだけだった【シーヴ柿】が、本当にお砂糖になるなんてっ!? 」

 チェヂミはただ無邪気に甘味を楽しみ、キムチェは驚きに目を見開いていた。
 

 ぃよおぉっっしっ! これでカーフの良さを知ってもらう為の一般布教と、『喫茶店』の実現が更に前進だ!
 
 だが、それだけじゃ無い、前にも言ったが、今はまだ塩とは違って砂糖は百パーセント輸入の為に高価な貴重品だが、【シーヴ柿】の分布や植生を調べて果樹園に出来れば、ロードベルク国内での国産化、大量生産、安定供給まで可能になるかもしれない。

 そうすれば、砂糖の価格も下がり、一般の庶民層でも充分に手が届く調味料になるはずだ。

 しかも、業腹な話だが、現在は砂糖の輸入先の八割を、【ロゼルダ商国家連合】が占めているそうなので、ロードベルクで砂糖が生産出来る様になれば、ロゼルダに対して大打撃を与えることまで出来るかもしれないのだ!

 ……っーか、絶対やるな、あの陛下なら。

 砂糖に関しては、ロゼルダのほぼ独占状態らしいので、そうなった時の、あのグソークのクソジジイや【十大評議員】どもの顔が見ものだろうな。

 王都に帰ったら、またVIP達を集めて、しっかり報告しないとな? クックックックッ ーーーー。

 横で何度も鍋の中に箸を突っ込んでははしゃいでいるチェヂミを見ながら、俺は今後の展開(悪企み)をあれこれと考えるのだった……。




 あの後、まだ二日酔いでくたばっていたサムゲータさんに《清浄クリーン》の魔法をかけて強制復帰させ、銘名【シーヴ糖】の事を伝えたんだが、初めはなかなか信用してもらえなかった。
 そこで、家の台所を借りて実演して見せると、キムチェと同様に目を見開いて驚いていた。

 そして、信用してもらったところで、この事は王都に帰り次第ジオン陛下に報告すること、そうなった場合、【シーヴ糖】の事はになるだろうこと、今後アソノ村は今までとは比べ物にならないくらい豊かになる反面、今までの生活とはガラリと変わってしまうであろう事を伝えると、緊張した面持ちで沈黙してしまった。

 ただ、ジオン陛下は特権階級よりも民の生活を第一に考える方だから、きっと悪い様にはならない、と伝えると、厳しい表情ながらも頷いてくれていた。

 まあ、絶対無いとは思うが、の場合は俺が”全力で”抗議武力行使するけどな。

 
 


 サムゲータさんが、”考える時間が欲しい”との事だったので、キムチェと二人、散歩がてらカーフを見にいく事にした。

「なあ、キムチェ。大事な、真面目な話があるんだが、聞いてくれるか?」

 少し悩んだが、真っ赤に色付いた実の成るカーフ畑をキムチェと並んで歩きながら、俺はここ暫くずっと考えていた事をキムチェに伝える事に決めた。

「はっ、はい!(ま、まさかコレって!この流れは!きゃ~~~~~~っ!?)」

「……キムチェ、砂糖の目処が立って、本当に「喫茶店」を開店出来るかもしれない。でな、出来ればお前にその「喫茶店」の店長になって欲しいんだ。まだまだカーフの知名度は低いし、最初はかなり苦労もすると思う。けど、給料は俺が責任を持って今より必ず多く出せるよう約束する。もし本当に開店の運びとなったら、俺のところに来てくれないか…………? 」

「……………………(ガッカリ…)」

「ど、どうしたんだキムチェ!? 何だか物凄く顔になってるけど!? ……やっぱり嫌だったか?」
「……ふぅ、……いえ、嫌じゃありませんよ?私も、ここ暫くヒロト様とカーフの研究をするのがスゴく楽しみでした。そうですね、本当に「喫茶店」を開店出来ることになった時には、是非ヒロト様に雇って頂くことにします。 宜しくお願いしますね、?」

「……!?  そうか!ありがとうキムチェ。俺も楽しかったんだ。だから、あの楽しさを分かち合えるキムチェに、是非、店長になって欲しくてさ!よし、絶対に『喫茶店』を、二人で成功させような!! 」
「はい、オーナー。ふふっ…!(今はまだ、それでいいわ。ずっとお側に居る事には違い無いんだし。でも、いつかは……っ!!)」


 茶目っ気たっぷりに俺のことを『オーナー』と呼ぶキムチェの横顔を、西陽が美しく照らす。
 またひとつ、やりたい事の実現に向けて、期待に胸を膨らませる俺なのだった……。





 ーー でも、なんでキムチェが『オーナー』って言った時、微妙に背中が 冷やっとしたんだろうな? う~~ん、謎だ…………? ーー





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