〜転移サイボーグの異世界冒険譚〜(旧題 機械仕掛けの異世界漫遊記) VSファンタジー!

五輪茂

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第16章 冒険者な日々〈ヒロトのいない日〉

第101話 side【蒼い疾風】

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ーーザワザワザワザワーーガヤガヤガヤガヤ…… ーーーー

「オークの群の討伐、報酬は(100Bベルク)金貨一枚か……、ボチボチだな… ーーー」
「え~と、魔法薬の素材採集依頼っと…… ーーー 」
「おい、この護衛依頼なんてどうだ?ーーーー」

 早朝の冒険者ギルドは一段と騒がしい。より割りの良い依頼を求めて、冒険者達がまだ日も明けきらない内から殺到するからだ。

 受けられる依頼のランクに依って報酬額は違ってくる為、当然ながら低ランクの冒険者達ほどいつも懐具合は厳しい。
 その為割りの良い依頼は競争率が高く、時にはどちらがその依頼を受けるのかで取り合いが発生し、冒険者同士での諍いが起きる事などしょっちゅうだ。

 しかし、王都の冒険者ギルド本部ではその様子が少し違っていた。
 確かに依頼を求めて来た冒険者達でロビーが混雑しているには違い無いが、既に日は上り切り、辺りはすっかり陽の光に照らされているにも関わらず、”デイジマ”や”ハマーン・マース”などの地方都市で見られたとまで言われるほどの、まるで日本の”朝の通勤ラッシュ”を思わせる様な混雑が、ここ王都では見られない。

 これには理由があって、人口九十万人を誇る王都は大陸でも指折りの大都市であり、その規模は広大である。それに加え、駅馬車程度の交通機関はあるものの、庶民レベルでの一般的な移動手段はほぼ徒歩、歩くしか無いのだ。

 冒険者ギルド本部は王都のほぼ中央にある為、徒歩であればもしも王都の端からだと最低でも二時間はかかる。
 そうなるとまだ空が真っ暗な時間帯に宿を出発しなければ、とてもではないが割りの良い依頼が残っている様な早朝には到着する事は出来ない。

 その為、救済策と利便性を兼ねて、実は王都には本部の他にあと二箇所、”新市街”の東と西に冒険者ギルドの出張所が作られているのだ。

 また、”本部”では〈ランクD〉上位から、”出張所”では〈ランクD〉下位まで、と受けられる依頼もランク分けされている為、〈ランクD〉以上の冒険者達は”本部”の方に、駆け出しなどそれ以下のランクの冒険者達は”出張所”の方へと流れる為に、朝の混雑が緩和されているのだ。

 また、”出張所”が”新市街”にあるのには、利便性や移動に関して以外にもう一点理由がある。
 先程も言ったが依頼のランクに依って達成報酬の額が違う為、低ランクの者達ほど収入は低い。その為、少しでも出費を抑える為にその多くが料金が安い安宿か、家賃の安い家を借りるなどして物価が安く、住むのにあまり金のかからない、下町である”新市街”に住んでいるので、”出張所”は”新市街”にあった方が何かと都合が良いのだ。

 翻って”本部”のある場所は”旧市街”。こちらは言ってみれば「高級住宅街」である。つまりは一定以上の収入がある高ランク冒険者達しか住んでいない為、低ランク向けの依頼を貼り出しても意味が無い。
 同じ意味で、低ランクの者が集まる”出張所”に高ランク依頼を貼り出したとしても、依頼を受けられる者が皆無の為こちらも意味が無いのだ。

 ちなみにこの”出張所”が初めて出来たのは三百年ほど前。広がり続ける王都、増え続ける人口に対する対策として登場したのだが、当初は出張所も新市街に一箇所しかなく、また貼り出す依頼のランクを分けるという事はしていなかった。

 二箇所に別れた事で多少の緩和はされたものの、さらに王都は拡張、人口も増え続けて、いよいよ対処が難しくなってきた時に、二百年前、かの冒険者ギルドの誇る魔導具研究の第一人者であり、ロリエルフである『トーレス・キマリス』が現在の方式を考案したのだ。

 以来、より良い依頼を求める朝の混雑自体は無くならないものの、ランクによって依頼内容も絞り込まれている為、受付嬢を始めとするギルド職員達の負担が グッと減り処理速度が上がった為に、結果として冒険者達を捌くスピードも上がって混雑が緩和されるという結果に繋がった、という経緯があったりする。

 現在は東西だけでなく”北側”にも出張所を増設する計画まで持ち上がっていて、魔導具研究の成果と相まって、今ではトーレスのことを『冒険者ギルドの頭脳』とまで呼び称する者まで居るほどである。
 だがその実態は、己の研究の為に対価として自分の肉体を賭けようとしたり、研究対象としてヒロトを解剖しようとしたりと、相当マッドで研究以外では全くのポンコツである事は、ギルド職員の中で知らない者はいなかったりする残念な女性である。

 まあ、そんな考案者であるトーレスの残念具合はともかく、冒険者ギルド本部は、新市街にある出張所よりも、さらに混雑していなかった。 

 何故なら、ー 伝説級 ーと呼ばれる〈ランクS〉や ー 超絶級 ーと称される〈ランクA〉依頼は基本的に”指名依頼”になってくる為、そもそも掲示板に張り出される事は無く、わざわざ朝一番に焦って来る必要も無い。
 
 結果として張り出されている依頼書は〈ランクD〉上位から〈ランクB〉までになるのだが、ー 超一流 ーと呼ばれる〈ランクB〉からは冒険者としての実力と依頼難度が極端に跳ね上がる為、例えワンランク上までが引き受けられる依頼の上限だとしても〈ランクC〉に位置する冒険者達でも余程の経験と実力のある者達ぐらいしか手を出そうとはしない。

 その為、”本部”に朝一番に顔を出すようなのは〈ランクC~D〉の、所謂中堅どころの冒険者達だけになるので、早朝と言えどもそれほど混雑はしていないのだ。
 
 
「う~~ん? どれかになりそうな良い依頼はないかねぇ……?」

 そんな中堅どころの冒険者達に混じり、依頼書の貼られた掲示板の上に視線を走らせているソニア。
 見ればソニアだけで無く、他の【蒼い疾風ブルーソニック】の面々、ゴウナム、アーニャ、マーニャも、壁一面を使った掲示板のあちこちに散って依頼書を眺めていた。
 
「『自分達の実力を見極めた上で依頼を受けるのも訓練』ってレイナルド様も言ってたけど……、正直、今自分達が?がよく分かんないんだよねぇ………?」
「ソニア姉!これ、これなんかどう!? 」

 依頼書を眺めながら、そんなことを考えていたソニアの元に、一枚の依頼書を剥がしてマーニャが持ってきた。

「ん? 依頼ランクは〈ランクC〉『”亜種”らしき大型のオーガの討伐』?報酬は(300Bベルク)、金貨三枚 か…? イイねぇ、報酬はともかく、討伐目標が大型のオーガってのがイイじゃないか!”亜種”ってのも期待出来そうだね!」
「でしょでしょ!コレやっつけたらヒロト兄ィ褒めてくれるよねっ!」

 冒険者にとって最も重要なはずの報酬を、”ともかく”で済ますソニア。
 しかも報酬額は金貨三枚(300B)日本円にしておよそ三十万円である。これは王都の一般家庭であれば贅沢しなければ三ヶ月は暮らせる金額であり、それなりには大金なのだが。

 暫く前であればソニア達【蒼い疾風ブルーソニック】は〈ランクE〉、報酬が金貨で支払われる様な依頼などとてもではないが受ける事など出来はしなかった。
 達成報酬も高額の物でも銀貨が精々で、武器や防具など、何より装備にお金がかかる為、出費を抑える為にいつも安宿で四人で雑魚寝が当たり前の生活だった。
 また、獣人族はそれがどんな種族であっても健啖家が多く。つまりよく食べるのだ。依頼の度に野生の猪や鹿を狩り、自分達で干し肉などの保存食も作って凌いではいたものの、収入に対して食費の占める割合が相当に多かったのだ。
 やがて”冒険”の為だった依頼の受注は、いつの間にか生活の為、金の為の受注となり、ある日割りの良い護衛任務と引き受けた依頼で、いくらレベルは低くとも予想外の大人数だった野盗達に苦戦し、あわや、というところをヒロト達に助けられた。

 しかし、そこでソニアがヒロトに一目惚れし、強くなって相応しい女になりたいと頼み込み訓練を受けた事で、ソニア達はもともと高かった獣人族の身体能力に加え、その身体能力任せの戦い方ではない技術を身に付け始め、レベル以上の実力を発揮し始めた事で(本人達の意思とは無関係だが)見事〈ランクC〉へと飛び級での昇格を果たしたのだ。
 
 また、既に婚約者であったセイリアにも認められた事で、あれ程困窮していた生活までが一変、今では王都でも指折りの御屋敷に個室まで貰い、専属のメイドが身の回りのお世話までしてくれるという夢の様な生活へと変わった。

 装備その他に関しても先日の王太子との模擬戦の褒美に、大量の金貨を王様から下賜された為に懐具合もこの上なく温かい。そうでなくともヒロトから好きに使えと何十枚もの金貨を渡されている為に、依頼については『如何に訓練になるか?』こそが重要で、本来最も重要なはずの報酬に関しては大して頓着していないのだ。

 とはいえ、ソニア達は自分達がそうなれたのは全てヒロトによる指導のお陰、また飛び級での昇格もソニアに代わりヒロトが【蒼い疾風】のリーダーになった事でのとしか思っておらず、かつて【蒼豹族】の集落に於いて最強を誇ったソニアといえど、とてもではないが自分達が強いなどとは思ってもいない。

 それもそのはず、何せ身の回りに居るのが屈強と名高い「秀真のサムライ」ダークエルフの若武者に、セイリアがかの【黒き武神】、英雄の孫だというだけでも驚いたのに、【微笑みの剣鬼】【炎禍の魔女】に続いて【黒き武神】御本人まで現れて、とうとうこの国の国王である【英雄王の末裔】という、幼い頃に寝物語に聞いて憧れた伝説の英雄達に次々と出会ってしまったからだ。
 
 そればかりかソニアが惚れ込んだヒロトの真の実力は、驚くことに冒険者ギルド三千年の歴史の中でも僅かに三人目となる〈ランクSS〉。
 幸か不幸か、これでは自分達が強いだなどと自惚れる事は、とてもではないが出来はしない。

 そんな訳で、ヒロトが己の趣味と実益を兼ねてキムチェと共に出かけて王都不在の現在、ソニア達【蒼い疾風】の面々は、自主訓練も兼ねて自分達だけで依頼を受ける為に冒険者ギルド本部へと来ていたのだった。

「あれ?マーニャ、姉貴、何か良い依頼見付かったのか?」

 オーガ討伐の依頼にはしゃぐ二人を見付け、それぞれ別個に探していたゴウナムとアーニャが戻って来た。

「まあねー♪ そっちは何か良いのはあった?」
「特に無かったわ。マーニャは…ふうん、オーガ”亜種”の討伐ね?良いんじゃないかしら?」
「でっしょお~! これならヒロト兄ィも褒めてくれると思わない?」
「だな!なかなかがありそうだぜ!」
「良っし!決まりだね、じゃあさっそくこの依頼を受けて ーーーー 」

 
「なあ!アンタ等、最近の【蒼い疾風】だろ?ちょっといいか?」

 どこまでも報酬では無く”ヒロトに褒めてもらえるかどうか?”で盛り上がるソニア達。きっと彼女等の頭の中では、王都へと帰って来たヒロトに、『よ~~しよしよし!』と頭を撫でくり回して貰いながら褒めてもらう自分達の姿を想像しているに違いない。
 そんなソニア達に、声をかけてくる十人程の一団があった。


「そうだけど……、何だいオタク等は? アタイ達はこれからこの依頼を受けて出発するところなんだけど?」
「すまねえな、の事で、ちょっくら相談があるんだよ。ここで突っ立ったまんまってのもアレなんで、あっちで話を聞いちゃあくれねぇか?」

 そう言って、飲食ブースの方を指し示す男達。
 怪訝に思うソニア達だったが、男達の態度は言葉使いはともかく丁寧だ。見れば男達はヒト族や獣人族の混成で、よくあるヒト族以外を蔑視する様な雰囲気も無い。
 声をかけて来た意図はよく分からないが、それ程急いでいる訳でも無い。話ぐらいは聞いてやるか?とゴウナム達の方を見れば、無言で頷いていた。

 取り敢えず、アイコンタクトのみで警戒レベルだけを上げ、、飲食ブースに向かいながら無言のままヒロトから習った〈クーガ流魔闘術〉の呼吸法で体内の魔力を静かに練り上げる。

「時間を取らせてすまねえな、俺達は〈ランクD〉パーティ【つるぎの風】で俺はリーダーのヒーツ。こっちは同じく〈ランクD〉の【剣狼】で、そいつはリーダーのマブーシ。宜しく頼む。その蒼髪、アンタ等が噂の【蒼い疾風】だろ? ”飛び級”で昇格したスゴ腕って有名だぜ?そんなアンタ等を見込んで頼みがあるんだ 」

 リーダーらしき二人が同じテーブルに付き、残りのメンバー達はその後ろのテーブルにそれぞれ座り、こちらを見ている。
 ソニア達はいつでも立ち上がれる様に浅く椅子に腰掛けて相槌を打つ。

「そりゃどうも…。お察しの通りアタイ等が〈ランクB〉パーティ【蒼い疾風】で間違い無いよ。ま、と言っても〈ランクB〉なのはリーダーだけで、アタイ等はギリギリ〈ランクC〉なんだけどね? 申し訳無いがリーダーはで不在でね、アタイはサブリーダーのソニアだ。……で、そのヒーツさんとマブーシさんがアタイ等にいったい何の用だい?」

 ”依頼を譲って欲しい”とかだろうか?と、ヒーツとマブーシと名乗る男達の”頼み”に当たりをつけるソニア。

「いや、逆にリーダーが不在なのは、返って都合が良い。頼みと言うのはアンタ等が受けようとしてるその依頼に、俺達も参加させて欲しいんだよ。だが、俺達はランクアップの為の実績が欲しいだけでね?達成報酬は全部アンタ等が持って行ってくれて構わない。その代わり、アンタ等が、俺達がリーダーの男を………………!」


 しかし、男達の口から出て来た言葉は、ソニア達が予想だにしなかった言葉だった…………。ーーーーーー








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