〜転移サイボーグの異世界冒険譚〜(旧題 機械仕掛けの異世界漫遊記) VSファンタジー!

五輪茂

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第16章 冒険者な日々〈ヒロトのいない日〉

第105話 side【蒼い疾風】

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 ーー「グオァァァァァァァァァァッ!?」ーー

 仲間を殺したを、怒りのままに蹂躙していたオーガだったが、新たに接近して来た強力な魔力波動に気が付き、そちらの方へと振り返る。
 そこへ、突如として矢が飛来するが、巨大なオーガに取って人の使用する矢など”爪楊枝”と同じ、急所である目さえ守りさえすればどうという事も無い。
 飛来した矢を手にした棍棒で叩き落とした筈のオーガがだったが、思いがけず苦悶の叫び声を上げる事になる。
 
 確かに叩き落とした筈なのだ。だがそう思った瞬間、眉間の辺りに矢が突然し、鋭い矢の細かい破片が顔面を襲い、剥き出しの目の中に突き刺さって激痛をもたらしたのだ。

 オーガは気付かなかった。叩き落とした矢をとして、その死角に隠れた”影矢”の存在に。
 ”視覚”だけでなくの死角を突かれたオーガは、油断故に手痛い一撃を受けてしまったのだ。

 堪らず手にした棍棒を取り落とし、両手で顔面を覆ったオーガに、更なる攻撃が叩き込まれる。

「ィィィィィィィィヤアァァァァァァァァァァァァアアッ!! 」
「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ソニアは握り締めた拳を突き出し、身体ごとオーガの鳩尾に、ゴウナムは渾身の力で右膝側部に大剣を叩き付け、背後に回ったマーニャは、〈熊狼王グリズリーハウンドリーダー〉の時と同じく、最も弱点の露出したアキレス腱部分の切断を試みる。

 しかし  ーーー、

「「「硬ったっ!?」」」

  ーーギャリリッ!ー っと、金属が擦れ合うような耳障りな音が響き、ソニア達の攻撃は弾かれてしまった。
 ヒーツ達の攻撃に比べれば確かにダメージを与えはしたようだが、僅かにたたらを踏ませた程度でまだ倒すには至らない。

「”黒鉄色くろがねいろ”の肌は伊達にじゃないねぇ!? ゴウナム!マーニャ!一旦離れるよっ!! 」

「おうっ!」「うん!」

 先ずは一当て、と様子見も含めた攻撃だったが、それなりに力を込めた一撃を弾かれた事で一旦距離を取るソニア達。

「……ア、アンタ等は…っ!? 」

 絶望の真っ只中、突然飛び込んで来た【蒼い疾風】の姿に、唖然としつつも自分達では全く手も足も出なかった黒いオーガをよろめかせた事に驚きを隠せないヒーツ。

「何やってるんですか! 今の内にケガをした仲間を助けて後退しなさい!! 」

 呆然と目の前の戦いにいたヒーツは、突然かけられた叱責の声に振り向くと、そこに居たのはアーニャだった。

「アンタは【蒼い疾風】の……っ!? 」
「グズグズしてないで急いで!を死なせたいのっ!! 」

 アーニャの厳しい声に ハッとし、我に帰るヒーツ。絶望で光を失いかけていたその瞳に、再び光が灯る。

「……そうだな、悪い、礼を言うよ。マブーシ、離脱するぞ!コ・メーダとシロノを助ける!」
「了解だ!」
「タイワンラー!スパ!ミーソとキシーメを頼む!」
「「了解!」」
「ウィロ!テバサ!動けるか?」
「何とか……!」

 満身創痍ではあるものの、幸運にも死亡者はいない。絶体絶命の窮地に陥って、一人の欠員も出さない事など普通はあり得ない。

「よし、【劔の風】【剣狼】は安全圏まで撤退する!あの人達の邪魔にだけはなるな!」

 ヒーツはもう一度だけチラリと黒鉄色のオーガと、そのオーガを圧倒する格上の者達を見る。
 一瞬だけその口元に苦い悔しさを滲ませるが、それも僅かの間。負傷した仲間達に手を貸しながら、迅速に撤退を開始したのだった。



「アーニャ、あいつ等はもう退いたかい?」
「ええ、最初は呆然としていたみたいだけど、少し叱ったらすぐに負傷した仲間を助けて撤退したわ 」
「そうかい。あのヒーツってヤツは良いリーダーみたいだね 」

 目にダメージを負い、周りが見えない為に滅茶苦茶に手脚を振り回すオーガから目は離さないまま、ソニアはアーニャと会話を交わす。

「さて?取り敢えずの《身体強化》で一当てしてみたけど……、さすがに硬いねぇ?」
「仕方ないわよ姉さん、これだけ大きければ相当大量の魔素を取り込んで、魔力を〈強化〉に変換しているでしょうし 」

 そう、このイオニディアでも”重力”は普通に存在する。
 
 地球における最大の生物と言えばクジラだが、あれ程巨大でも生きていられるのは、海を生存の場とする事で自重を浮力によって支えていられるからだ。事実、水から上がったクジラはその巨体故の自重によって肺が潰れ、呼吸困難になって死んでしまう。
 また、世界的にも有名な日本の特撮怪獣映画などでは、よく巨大怪獣が海から登場するが、もし現実に存在したとしても海から陸に上がった途端にその巨体を支え切れず、重力に引かれた自重によって即座に潰れてしまうらしい。
 にも関わらず、あの【黒殻龍蟲ブラック ドラゴビートル】の様な巨大生物が存在出来る理由こそが、魔力による骨や筋肉などの身体構造の〈強化〉であった。

 魔獣達は、体内に”魔晶石”という物質を持つ。この魔晶石が魔素を吸収して魔力に変換するのだが、魔晶石が大きいほど出力は膨大になっていく。

 生存競争を生き抜く為にも魔獣達はどんどんと体躯を巨大にし、体内の魔晶石を大きくしていくのだが、その為巨大であるほど力も強く、防御力も絶大になっていくのだ。

「じゃあ、姉貴、そろそろのか?」
「ワォ!やっと試せるんだね~!」
「ああ、だけどアタイ達はまだまだ未熟。も短いし短期決戦だよ、イケるね、アーニャ?」
「任せて、姉さん!」
「良し、仕切り直しだよ! 行くよ皆んな!! 」

「「「応っ!! 」」」

 不敵な笑みを浮かべて勢いよく飛び出して行く四人、その身に纏う魔力波動は先程までの比では無い。

 ソニア達【蒼い疾風】の四人は、ヒロトによる【玖珂流魔闘術】の修行によって、今まで無意識のうちに使っていた《身体強化》やその身を流れる魔力を、今やハッキリと理解していた。

 また、元々の本人達の性格によるものに加え、ヒロトの指導によって各々ポジションにとって最も必要とされる奥義を重点的に伸ばして来た。

 例えばソニア、ゴウナムは前衛として通常の《身体強化》に当たる〈四乃牙  ごう〉による筋力の増大は勿論のこと、〈伍乃牙  がい〉によって不可視の”魔力の鎧”を纏い防御力を高め、マーニャであれば敵の目を欺き素早く死角へと動く為に”幻惑の技”〈弐乃牙  うつろ〉と高速移動の為の〈参乃牙  しつ〉を。そしてアーニャは後方から味方をサポートし、戦場の全てを把握し、支配する為に〈壱乃牙  かく〉による意識の拡大や魔法に力を入れて鍛えて来たのだ。

 それだけでは無い、言葉には出さないが、ソニア達はヒロトすらも驚く魔力への親和性と戦闘センスで、呼吸法による魔素の”大量吸収”と体内で変換された魔力をことでの”圧縮”によって、短時間であるならば現在のレベルを超越した《身体強化》を使用する事が出来るまでになっていた。

 そして、その状態の時に限り、インパクトの瞬間に魔力を撃ち込んで威力を上げる〈六乃牙  ごう〉や、武器に魔力を纏わせ切断力を高める〈七乃牙  ざん〉などの、更に上の奥義までも不完全ながらも発動出来るようになっていたのだった。

「マーニャ!もう一度オーガの踵の腱を狙って! ゴウナムは反対側の足の膝を!姉さんは今度こそオーガを地面に叩き伏せて頂戴!」

「「「 分かった!! 」」」

 戦闘時における”司令塔”であるアーニャから、三人へと矢継ぎ早に鋭い指示が飛ぶ。指示を受けた三人は一言了解の声だけを発して別々の三方向に展開、オーガに向け波状攻撃を仕掛ける。
 
 まず始めに攻撃を叩き込んだのは、最も速度を高めたマーニャ。

「行っくよ~~っ! てぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」

 ーーー ギャンッ!! ー

 その刃に纏わせた魔力が、最大級に乗せたスピードと相まって、鋭い斬撃となり今度こそオーガの左脚のアキレス腱を切断する。

「喰らいやがれ、このデカブツがっ!! 」

ーーーギャンッ!ギャリギャリギャリギャリィッ!! ー

 ゴウナムがマーニャの攻撃した反対側、右脚膝側面に大剣を叩き付けるが、五ルグもあるオーガの防御力は伊達では無い。
 だが、ゴウナムは〈七乃牙  斬〉だけではなくスケールから習った「魔刃刀」までも発動させ、”魔力チェーンソー”となった大剣とオーガの黒鉄色の肌の間に生物の肌が立てる音とは思えない様な金属音を上げて火花が爆ぜる。

「硬ってえな! だが!  おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!! 」

 雄叫びを上げるゴウナムが、更に力を込めて大剣を振り切る! と、遂にオーガの防御力を突破して、大木の幹の様な脚の半端までをザックリと斬り裂いて、骨ごと膝を断ち斬ったのだった。

ーー 「ギュアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!?」 ーー

 さっきまでとはまるで違う、突き上げる様な苦悶の悲鳴を叫び散らすオーガ。それもそのはず、このオーガはかなり強力な魔獣であり、今まで他の魔獣の牙も、どのような存在の攻撃も、黒鉄色の肌を抜く事は出来なかったのだ。
 当に”生まれて初めて”の激痛に、パニックを起こしている状態になっている。

「やるねぇ? マーニャもゴウナムも!今度はアタイの番だよっ!」
 
 だが、オーガの不幸はまだまだ終わらない。波状攻撃三枚目、助走をつけた最も攻撃力の高いソニアが驚異的な跳躍力を見せ、脚の激痛に動きを止めたオーガの眼前へと跳び上がったのだ。

「喰らえぇっ!   ィィィィィィィィヤアァァァァァァァァァァァァッ!! 」

 ーーー ボギィンッ!!ーー

 その身を捻りながら跳び上がったソニアは、その捻りによる回転の勢いを助走でつけた勢いに乗せて、オーガの首へと一気に叩き込む。
 更にはインパクトの瞬間〈六乃牙  轟〉によって何倍にも高められた衝撃が一点へと集中し、強固なはずのオーガの脛骨をへし折ったのだった。

 地響きを立てて倒れ込むオーガの巨体。だが、魔獣の生命力は驚異的で、あれ程致命的なダメージを受けたというのに、驚いた事にまだオーガは生き絶えてはいない。
 
 しかし、オーガの倒れ込んだその地点、その顔の位置のすぐ真横に、まるでそこに倒れて来るのをアーニャの姿があった。

「皆んな、お疲れ様。これで…『詰み』よ…っ!」

 既に《身体強化》によって限界まで引き絞られていた弓から、《氷属性》の魔力波動を纏った矢が撃ち放たれる。
 矢は狙いを過たずオーガのへと吸い込まれ……、ーー 『ボンッ!! 』ーー くぐもった破裂音と共に、ビクンッ!っと一度だけオーガは激しく体を痙攣させるが、如何に強靭な体躯を持つオーガといえど、脳を直接破壊されてはさすがに生きてはいられない。
 今度こそその命の灯を消し飛ばされて絶命したのだった……。



「す、すげぇ……っ!アイツ等、鎖も何も使わずに、たった四人であのオーガを倒しちまった……っ!? 」

 撤退し、ソニア達の戦闘の邪魔にならない位置まで後退していたヒーツとマブーシ達の冒険者パーティであったが、遠くからではあるが【蒼い疾風】と黒いオーガの戦いを伺っていたのだ。

 その光景は”圧倒的”の一言に尽きた。
 最初にオーガの視覚を奪っていたとはいえ、自分達の攻撃では、あのオーガの黒鉄色の身体に擦り傷しか付けることは叶わなかったのだ。

 だから牽制しながら必死で逃げ回るしかなかったのだが、あの四人は特に梃子摺る事もなく、ほぼ一方的にオーガを倒してしまったのだ。これを圧倒的と言わずして何と言うのか!?

 しかも、あの四人は《身体強化》は使っていたようだったが、派手な魔法などの類いは一切使っていなかった。つまり、ほぼで、あの絶望的な強さのオーガを圧倒したのだ。

「すげぇ……!? すげぇ!すげぇよっ!! 」

 ヒーツ達の瞳には、幼い頃に見た、自分達の村を助けてくれた冒険者達の背中を見た時の”憧憬”の光が灯っていたのだった……。


~~~~


「……なあ、姉貴? 何でになっちまったんだ?」
「アタイが知る訳ないだろ、アタイにだって サッパリ だよ…」

 黒鉄色のオーガ討伐から二日後、ソニア達は報酬を受け取るべく、王都冒険者ギルド本部へと訪れていた。

 流石にあの巨体ではバラしたところで持ち運ぶことは出来ず、ヒーツやマブーシ達の冒険者パーティを帰還させる時にギルドへと伝言を頼み、自分達は”横取り”を防ぐ為にその場へと残ったのだ。

 冒険者ギルドからの迎えが来るのは翌日ぐらいか?と思っていたのだが、すぐその夜に、何とノアが、セイリアと共に《空間転移》で迎えに来てくれたのだった。

 報せを聞いた職員がセイレンへと報告を上げ、セイレンがセイリアへと連絡してノアに迎えとオーガの回収を頼んで来たのだ。セイリアやノアにしてみてもソニア達は大事な妹分、身内である。
 快く了承し、労いも含めて迎えに来てくれたのだ。

 敬愛するセイリアとノアの労いの言葉に大喜びし、伝言を引き受けてくれたヒーツ達の獲物である青いオーガや馬車もノアに影へと仕舞ってもらい、一足飛びに《空間転移》で王都まで帰って来る事が出来、風呂にも浸かってゆっくりと疲れを癒す事まで出来た。
 その後一日を置いてセイリア達と共に冒険者ギルド本部へと出向いたのだが、モノがモノだけに査定に「もう一日欲しい」と言われ、オーガ二体とオーク達だけを渡して今日改めて顔を出したのだが……。

 待っていたのは、余りにもの出来事だった。

『『『『『、お疲れ様ですっ!! 』』』』』

 《治癒魔法》で負傷した仲間も全快し、勢揃いしたヒーツ&マブーシの冒険者パーティ【劔の風】と【剣狼】のメンバーがズラリと並び、元気良く一斉に頭を下げて挨拶して来たのだ。

「あ、ああ、アンタ達も無事で何よりだったね、怪我の方はもういいのかい?」

 多少面食らいながらもそう返すソニアだったが、ヒーツ達の態度は先日ここで会った時とはまるで違っていた。

「ハイ! ありがとうございます、お陰様で全員無事でした!」
「全部方のお陰です。本当にありがとうございました!」
『『『『『ありがとうございましたぁ!! 』』』』』

「ささっ!方、あちらに席を御用意してあります。カウンターなんぞには俺らが並んでおきますんで、ゆっくりとお寛ぎ下さい 」
「おい!誰か飲み物買って来い!」
「ささっ、どーぞどーぞ!」

 戸惑うソニア達の背中を押して、飲食ブースへと引っ張っていくヒーツ達。

「ちょっ!ちょっとアンタ達、いったいどうしたってのさ!? だいたい何なのさ”って!?」

「先日は分も弁えず、生意気言って申し訳ありませんでした。あれだけ強い方を従える方が、俺たちの知るような酷え貴族であるはずがありません!本当に申し訳ありませんでした!」
「俺たち、方の強さにシビれちまったんですよ!俺たちももっと強くなりたいんです、どうか俺らを舎弟にして下さい!」

『『『『『お願いします!!』』』』』

 一斉に頭を下げてくるヒーツ&マブーシ達一同。

 ヒロトに対する誤解が解けたのは嬉しいが、自分達だってまだまだ未熟な半端者。
 舎弟の自分達に舎弟志願が出来るという訳が分からないこの状況に、すっかり頭を抱えるソニア達。

「「「「どうして、こうなった……っ!? 」」」」

 ヒロトのいないある日の王都での出来事だった。ーーーーーー




~~~~~~


「トーレス、何だいこのオーガは!?アタシはこんな黒鉄色のオーガなんて、八百年生きてて初めて見るよ?」
「私にも分からないよ、お姉ちゃん。今まで通常のオーガよりも大きな亜種の報告はいくつもあったけど、こんな個体は私も初めて見たもの 」

 冒険者ギルド本部の裏手、素材解体所で、ソニア達が討伐し、ノアの影に仕舞って持ち込まれた黒鉄色のオーガの死体を前にして、セイレンとトーレスが話し合う。

「最近、各地の冒険者ギルドに、通常の個体より強力な魔獣の報告が持ち込まれる事が増えて来た事と関係しているのかねえ?」
「う~~ん? 直ぐに結びつけるのはどうかと思うけど、全く無関係、とも言い切れないよねぇ……?」

「『何か』が……、アタシ達にはまだ分からない『何か』が、この世界に起こり始めているのかもしれないね……?」

 答えの出ないまま、議論を続ける妖艶なダークエルフと偽ロリエルフ。彼女等の疑念はいずれ”現実のもの”となるのだが、神ならぬ今の彼女達では分からない。

 ーーーだがそれは、ほんの少しだけ先の事。

 やがて来るかもしれないの予兆に、黒々とした不安を掻き立てられる二人だった……。ーーーーーー













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