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第19章 ヒロト先生の新型ゴーレム開発日誌 1
第153話
しおりを挟む「…なんだ、中は結構キレイにしてあるじゃないか 」
クラスメイトどころか、そのクラスの担任である教師自体が率先してメイガネーノをイジメる側に回っている、という、本来なら絶対にあってはならない事実が発覚し、怒り心頭のセイリアを何とか宥めすかして取り敢えずメイガネーノの"工房"へと足を踏み入れた。
メイガネーノは錬金術科に通う魔道具職人希望の発明家、地球で言うなら所謂「理系女子」である。しかも"あわてん坊"で"ドジっ娘"属性。
俺の完全なる思い込みかもしれないが、そういう女の子ってのは料理や掃除などの家事一般はたいてい苦手だよな~、なんて思っていたんだが?
そんな俺の勝手な先入観や、廃屋一歩手前の外観に反して、工房の中は意外や意外、塵や埃が舞うことも無く、きちんと掃除や整頓が為され綺麗に保たれていた。
「えへへ、ありがとうございます。実は…、本当は片付けとか苦手だったんですけど…、【御宝屋】で働き始めた最初に、ベゼルの親方さんから『工房は職人の心の鏡だ、きちんと整理整頓しやがれ!』って怒られちゃいまして。それからはきちんと片付けをするようになりました 」
やっぱりか、でも仕事先の親方に叱られて出来るようになったと。しかし、さすがはベゼルの親方、『工房は職人の心の鏡』名言だな。
工房の中が汚れているか綺麗に掃除されているか?雑多なままかきちんと整理整頓されているか?それはその職人の仕事に対する意識や姿勢の顕れそのものじゃないかと俺は思う。
工具など、何処に何があるか判らないような環境で造られた物など、どんなに高価な材料を使おうと碌なモノが出来るはずが無い。
例えて言うなら、どんなに良い高級食材を使った料理だろうと、碌に掃除もされてないような厨房で作られた料理なんぞ食いたくもないだろ?そういうことだ。
「そうか、良い師匠に弟子入りを出来て良かったな 」
「はい!えへへ 」
うん、メイガネーノだって、やっぱり若い女の子だ。泣いてるより元気に笑っている顔の方が良いに決まっている。
見てろよ~~!えこ贔屓のクソ教師が!絶対メイガネーノに土下座で詫びを入れさせてやるからな!!
ってコトで、その為にはまず"実績"を作らなきゃならない。工房の中に視線を巡らせれば、まず目に付いたのはつい最近見たばかりの拵えによく似た短剣が数本、机の上に並べてあった。
その内のひとつを手に取って鞘から抜き出し、前にやった通り魔力波動を流してみると、今度は直角に折れ曲がるのではなく、刃渡り十五センチ、両刃でダガーのような形状の刀身が、三十センチほどの細長い鉄の棒のような状態へと変化した。
「ほう…!この前のヤツも良かったけど、これはもっと良いな!」
もともとメイガネーノの魔道具に目を付けた理由、魔法だけではなく機械式に【魔導強化外殻】を再現する為の"異世界式人工筋肉"と成り得る可能性があったからだ。
その観点から見れば、こちらの形状が"伸縮"するものの方がより目的とするモノに近い。
刀身が棒状に変化した短剣を手の中で玩びながら、ひとり悦に浸っていると、メイガネーノが驚いた声を上げた。
「えっ!こ、コレが良いんですか!? 先生とかには『武器である短剣の刃をわざわざ失くしてどうするんだ?』って散々嫌味を言われたんですけど…… 」
「教官、ドージッコ二回生には悪いがさすがに俺もコレは同意見だぜ?せっかくの武器の利点を潰してるだけだと思うんだが、何処が"良い"んだ?」
なるほどな、実際に戦闘を経験したからこそ、刃が失くなるのはいただけない、と?
「ま~ったく!だから、今までの常識だけで物を考えるな、ってーの!コレ"単体"じゃなくて、"部品"として考えたらめちゃくちゃ良いんだよ。…でもなゼルド、これ考え方を変えると単体でもかなりイケるぞ?」
「考え方~ぁ?」
「そうだ、例えば街を警邏する警備兵の補助武器とかな?」
「はぁ?警備兵の補助武器?それこそ何で?」
本気で分からないらしく、首を傾げているゼルド。まだ分からないのか?
「あのなぁ…、王都の警備兵ってのは、チンピラや酔っ払いのいざこざ程度にもだんびら振り回して、問答無用で斬り伏せるのか?」
「いやいや、さすがにそんな訳ゃあねーだろうが、ちゃんと素手や捕縛用の………ああっ!?そういうことか!」
「そういうことだ 」
「え?え?えっ!? 何なんですか会長!何が"そういうこと"なんですか~~っ!? 」
俺の言葉に対して得心がいったゼルドと、全く意味が分からずにキョロキョロと俺とゼルドの間で何度も視線を往復させるメイガネーノ。まあ、この辺は実際に戦闘経験があるか無いか?で違ってくるからしょうがないな。全く戦闘とは無縁のメイガネーノでは分かりようすもないだろう。
「"分かった"んだろゼルド?メイガネーノに説明してやれよ 」
「む?また俺かよ!?…まあいいけどよ… 」
魔力波動を一旦止めて、短剣の状態に戻ったそれをゼルドに手渡すと、今度はゼルドが魔力波動を流して変化させたものをメイガネーノの前に差し出しながら話し始めた。
「いいか、ドージッコ二回生、警備兵は街の治安を守るために剣を装備してる。だが、これは相手が武器を持っている為だが、目的はあくまで鎮圧、捕まえることで、必ずしも斬るためじゃない。分かるか? 」
「はい……?」
「兵士達は毎日のように厳しい訓練を積んだ"対人戦闘"のプロだ。だが、殺してしまわないように手加減して捕まえるのは実は結構大変なんだ。そんな時、コレならどうだ?素手では武器の攻撃を受け止めることは難しいが、コレなら充分に受け止めることが出来るうえに、間違って傷付けてしまう危険性も少なくて済む。ま、骨折くらいはするかもしれないけどな?おまけに小型だから携帯の邪魔にはならないし、普段は短剣としても使用出来る。教官が言った通り、なかなか…いや、かなりいいぞコレは!」
「…コレが……っ!? 」
メイガネーノに説明しながら、手の中の魔道具を何度も変形させて、はしゃいだ声を上げるゼルド。
まるで自分がその有用性を見出したみたいに言ってるが、お前最初は『何処が良いんだ?』って言ってたからな?……まあいいけど。
もう分かると思うが、俺が提示した短剣型魔道具の用途とは、所謂"警棒"である。
武器、という物は大きく二種類に分けられる。【殺傷兵器】と【非殺傷兵器】だ。
【殺傷兵器】とは通常の武器全般を指すが、【非殺傷兵器】とは殺害を目的とせず、あくまで鎮圧を目的とした兵器のことだ。
代表的な物として、催涙弾やスタングレネード、通常の弾丸と交換して使用するゴムスタン弾などがあるが、"警棒"も立派にこの部類に入る優秀な【非殺傷兵器】だ。
この世界は地球に比べて危険が多く、自分の身はまず自分自身で守らなければならないので、ナイフや短剣などの護身用の武器は持っていて当たり前だったりする。ヘタをすればナイフ程度なら子供でも持っているくらいだ。
しかし、それは治安を守る側からすれば頭の痛い話でしかない。なにしろどんな理由を付けたとしても武器は武器、いつ何処で、護身用の為のはずの武器が凶器に変わったとしてもおかしくはないのだ。
また、最初から凶器として持ち歩いている者がいたとしても、それを判別する方法も無く、規制することも出来ない。
結局、事件が起こってから対処するしかなく、その場合、ほぼ必ず相手は武器を持っている、と。
それでなくとも街中のそこかしこには冒険者がいて、堂々と武器を持って歩いているのだから、そんな連中を相手に『殺さずに捕まえろ』なんて無理ゲーもいいところだ。
「本…当に?皆んなに笑われてバカにされたコレ…が?う、うう…っ!グスッ、嬉しいよぉ………っ!」
失敗作だと思っていた魔道具への思わぬ高評価に、思わず涙ぐむメイガネーノ。俺からも陛下に進言するつもりだし、実際に携帯出来るコンパクトな打撃武器、この装備は警備兵の負傷率を減らすことに多いに貢献してくれるはずだ。
ま、正式採用されるには重量や適切な長さ、材質など、まだ数回のトライアルは必要だろうが、『王国警備隊正式採用装備の開発者』という金看板は、メイガネーノに魔道具職人としてこれ以上無い"箔"となるだろう。
意図的に必要以上の劣等生のレッテルを貼り、無能だと切り捨てた生徒が自分の知らない所でこれ以上無い功績を上げる……。その担任教師の顔は知らないが、相当に慌てるんだろうなぁ……、ケケケッ!
当初俺が考えていた計画とは少しズレるが、まあ結果オーライだろう。
さて、"メイガネーノ イメージアップ作戦"の方法が、思わぬところでアッという間に解決したので、本来の目的の方に考えを戻そうか。
「良かったな、メイガネーノ。ところで……、コレってもっと細くすることって可能か?」
「ありがとうございます、クーガ先生!……あ、はい、大丈夫です。〈魔術回路〉は柄の方に刻んでありますので出来ると思います!」
「じゃあ、もっと細くして何本も複数繋げることは?」
「何本もですか?……可能だと思います。細くすればその分変形に使う魔力は減りますし、増やしたいなら使用する魔力の量を増やせばいいと思います 」
おおっ!? いいね、だんだん道筋が見えて来たな!
出来れば一本をワイヤー並みに細くしたい。さらにそれを複数縒り合わせた物を束ねることで、"異世界式人工筋肉"を開発することが出来るはずだ。
「そりゃいいな、出来るだけ細く、複数を同時に変形させたいんだ。その方向で研究してくれるか?」
「はい!任せて下さい。頑張りますっ!! 」
さっきの魔道具を認められたことがよほど嬉しかったのか、胸の前で両手を握りしめて、笑顔のまま フンス!と元気いっぱいに気合いを入れるメイガネーノ。
うんうん、女の子はやっぱり笑っている顔が一番だよな。
「ねぇねぇ、ドージッコ。コレはいったい何?」
俺とゼルド、メイガネーノだけが短剣の話で盛り上がっていたのがつまらなかったのか、セイリアとラーナちゃん、クローレシアの三人は部屋の中にある魔道具をアレコレと物色していたようだが、あるひとつの魔道具に目が留ったようだ。
その魔道具は大きさがB5サイズほどで台座が付き、ぱっと見、女性が化粧を施す際の卓上鏡のような形をしているが、鏡となる部分は反射はせず、磨りガラスか透明度の低い水晶板のように半透明の造りになっている。
う~~ん、何だ?いったいどんな効果のある魔道具なのか、ここからではまったく判別出来ないが……?
「ああ、それはですね~!」
クローレシアの方へと歩いて行ったメイガネーノは、魔道具のすぐ横に置かれていた懐中電灯?のような形をした物を手に取る……って、あれ?懐中電灯には何か紐のような物が着いてるな?
で、そのコードは……、さっきの鏡のような形をした魔道具に繋がっているようだ。
「クローレシア先輩、その台座に付いている魔晶石に魔力波動を流してみて下さい 」
「……? 分かった。………こう?」
クローレシアはメイガネーノの指示通り、台座に付いている二センチくらいの小さな魔晶石に触れて魔力波動を流した。すると………、
ーーー ブウゥゥンッ ーーー
低い振動音と共に鏡型の魔道具の板の部分が微かに光り……何かが浮かび上がって来た?
全員が魔道具の前に集まり、浮かび上がって来た絵?いや、映像を見る。
「これは…何処かの部屋の絵?いやに写実的な絵だな…あれ?でも、これ………ってって、えっ!絵がう、動いたぁっ!? 」
どれほどリアルでも、ただの絵であると思い込んでいたセイリアが、素っ頓狂な叫び声を上げた。
皆んなが見つめる中で、まるで部屋の中を眺め回すように、画面の中の映像が右に左にと動き始めたからだ。
ーーーー そう、皆んなが見つめているこれは画面、そして映っているのは映像だ。
ふとメイガネーノの方を見れば、彼女は悪戯が成功した子供のような顔で笑っていた。
『マスター、これって………っ!』
『ああ、間違いない。これは、"カメラ"と"モニター"だ…!? どうやら俺達は、筋肉と心臓に続いて、目まで見つけたようだぞ……!』
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