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第19章 ヒロト先生の新型ゴーレム開発日誌 1
第155話
しおりを挟むーーー 〈鑑定〉…っ!?
ワイワイと盛り上がるセイリアやゼルド達を余所に、俺は慌ててメイガネーノが新たに取り出してきた魔道具に向かい、〈鑑定〉さんに仕事をお願いする。
ーー 振動式相互音声発生装置(試作型)
制作者 メイガネーノ・ドージッコ
メイガネーノ・ドージッコが制作した、イオニディア第四期文明における初の通信装置。
蜂系魔獣の翅を使用し、その共振作用を利用することで魔力波動を振動に変換し、音声情報の送受信を可能にいしている。
しかし、まだ試作型の為に振動が安定していない。また使用されている魔晶石が低ランクで出力も低く、かつ魔獣の翅も品質が[粗悪]である為、振動が不十分であり、実用性は低い。
現在の有効通信限界は二十キロメートル。
………やっぱりかっ!?
ゼルド達はあの魔道具をただ単純に"マイク"と"スピーカー"としてしか捉えていないらしく、お互いが口や耳を魔道具に近付けては「あ"~~っ!」とか「聞こえた、聞こえた!」とかを楽しそうに繰り返しているが、全員年齢がまだ十代のため、モニターディスプレイの前できゃいきゃいとはしゃぎ、盛り上がるその姿は、まるでカラオケに遊びに来た高校生達のようだ。
あ~~っ、もう!何で、気付かないんだよ、お前等っ!?
「なあ、お前達?その魔道具がどんな意味を持っているか分かっているか?」
「どんな意味って…、喋った言葉をそのままこっちから聞くことができる魔道具だろ?面白いよな!なー!」
「こぉの、おたんちんっ!! 」
「ぶべらっ!? 」
やっぱり全員分かってないっ!? 女の子達に打つける訳にもいかないので、代表としてこのイライラをゼルドに打つけておく。
「痛ってえぇぇっ!? いきなり何すんだよ教官っ!」
「えぇい、喧しいっ!………ノアっ!! 」
理不尽な俺のイライラをその身に受けることになったゼルドは、頭を押さえながら抗議の声を上げるが、そんなゼルドの抗議をサクッと切り捨てて、契約精霊であるノアを呼び出す。
俺の呼び掛けと共に足下の影がスゥッと濃い闇色となり、僅かに波打ったあとに小さな影、"黒猫"が飛び出して来た。
「お、おひょびでごひゃいまふか我ふぁ主!? やみひぇーれーノア、まひゃりこひまひた!! 」
口を大きく開けれないようだが、それでもモゴモゴと一生懸命にいつもの口上を述べるノアだったが…。またカスが口の周りに付いてるし、バレてるからな?
「また学院長室でお呼ばれしてたのか?いいからまず口の中のクッキーを飲み込んでから喋れ 」
「…!? ひゃ、そにょような!」
「いいから……! 」
「ふ、ふぁい!? 」
ングングングッ!と早口で咀嚼して、急いで飲み込もうとするノア。しかし、慌てで食べればそこはやっぱりお約束。
「んっがっフッフゥッ!?」
「まーったく…、ほら、これ飲めよ 」
「んふぅ!? んくっんくっんっんっ!」
しかし、コイツ本当に上級精霊の威厳とかサッパリ無くなったよな……。
パサパサするクッキーを急いで飲み込もうとした為に、喉に詰まらせてしまったノアの背中をトントンと叩いてやりながら、アイテムボックスから出した紅茶を渡してやると、 肉球のついた小さな猫の前脚で器用にカップを持って、一気に紅茶を飲み干した。
だが、喉に詰まらせた時にあのセリフを言うのは買い物に行くのにサイフを忘れたり、お魚を泥棒した猫を裸足で追いかけていく"フ○田さんちの愉快な若奥様"の方である。
お前はどっちかってーと、その後ろでリンゴやミカンからポンって出て来て、お尻をフリフリしてる方だろうに。…体の色は正反対だけど。
『「未来を作る、技じゅ…」』
『や~め~な~さ~いっ!それだけは本気でシャレになんないからっ!? 』
いかん!アイがとんでもないボケをかます前に、さっさと話を進めなければ!?
「悪かったなノア、寛いでるところを呼んじまって 」
「ぷフゥ!にゃ、にゃにを仰います我が主、私の方こそ申し訳ありませんでした!…して、改めて御用は何でしたでしょうか?」
紅茶で口の中のクッキーを全て飲み込んだノアが改めて頭を下げて呼んだ理由を尋ねてくる。
「ああ、ちょっと手伝って欲しいことが出来てな……と、その前に……。メイガネーノ、この魔道具のこの輪っかの部分の魔獣の翅と、取り付けてある魔晶石はすぐに交換できるか? 」
「……あっ、ハイ!すぐに出来ますよ!」
俺とノアのやり取りを、ポカン、とした顔で見ていたメイガネーノに質問すると、そう答えが返ってきた。
「じゃあ、コレとこれを使って、新しくその魔道具に付け替えてもらえるか?」
「はい!お安いご用です!」
アイテムボックスから魔獣素材の"翅"と中級クラスの魔晶石を出してメイガネーノに渡すと、メイガネーノは"ポイ"の部分の留め金を外して張られていた翅を交換し、台座部分の魔晶石も手早く取り替えた。
「スゴい……!この翅って私が使った〈ハニービー〉の翅よりもかなり上等の素材ですよね?かなり高ランクの魔獣の物じゃないですか?」
「ああ、翅は〈ワスプ・レックス〉、魔晶石は〈スパイク・ウルフ〉のヤツ…だったと思う 」
「ワ、〈ワスプ・レックス〉!?〈スパイク・ウルフ〉ぅっ!? そ、そんな高ランク魔獣の素材どうやって!? 」
「どう?って、普通に狩っただけだぞ?」
「ふ、普通…に?だけ…って……っ!? 」
俺の答えに目を丸くして絶句してしまったメイガネーノ。あ…、一応〈ランクB〉とかだったっけ?
「ああ!アレなぁ~、針とか飛ばして来るのがウゼェんだよなぁ~ 」
そんなメイガネーノとは対照的に、先日の【魔の森】での強化訓練の時のことを思い出しているのか、ウンウンと頷きながらゼルドがしみじみと呟くが、それを聞いていたクローレシアがゼルドに向かって疑問を口にする。
「ちょっと待って欲しい、その口ぶりだとゼルドも討伐したことがあるように聞こえるけれど?」
「したぜ?ま、近衛騎士団の皆んなと一緒にだけどな。一匹だけならソロでも狩れるだろうが、さすがに群れになると俺ひとりだけじゃ無理だな 」
「「な……っ!? 」」
クローレシアからの疑問に、まるで何でもないことのようにあっけらかんとして高ランク魔獣の討伐経験がある、と答えるゼルド。
だが、そのゼルドからの思いがけない言葉を聞いたクローレシアとメイガネーノは驚きのあまり固まってしまう。が、二人の驚きはそれだけでは終わらなかった。何故なら、更に驚愕の一言がゼルドの口から告げられたからだ。
「吃驚したか?でもな、一匹だけなら俺よりセイリアの方が余裕だろうし、たぶんラーナも狩れるぞ?」
「うむ、一匹だけなら問題無い 」
「はい、大丈夫です 」
ゼルドの言葉に、セイリアはニヤリとやや自信を込めて。ラーナちゃんは静かに肯定の笑みを見せた。
「「……っ!!!? 」」
クローレシアとメイガネーノの二人はもう、驚き過ぎて声も出ないようだ。
無理もない、うっかりしていたが、〈ワスプ・レックス〉は〈ランクB〉に分類される魔獣。本当ならばエリートとはいえ学生がソロで討伐できるような魔獣ではないのだ。
そりゃあ吃驚もするだろう、ゼルドやセイリアが"強い"とはいっても、所詮学生レベルの話。本来ならば実際に依頼を受けて、様々な経験を積んだ本当の意味での高ランク冒険者と同じことが出来るはずもない…。ただし、ゼルド達の場合は"先日までは"、の注釈が付くが。
セイリア、ゼルド、ラーナちゃんの三人は、〈大襲来〉や「特別強化訓練」で数々の魔獣を討伐し、今や三人共がLv60以上の者ばかり。ゼルドの言う通り群れを相手にするのはまだ厳しいだろうが、もともと日々しっかりとした鍛練を積み重ねていたこともあって、急激に上がったレベルに振り回される事もなく、一匹だけならば危なげなく狩ることが出来くらい実力が上がっている。
「ちなみにそこの教官は群れだろうと全然余裕だろうけどな。何しろ武神の爺ちゃんとレン婆ちゃん二人いっぺんに相手して互角かそれ以上だったからな!」
「「な…っ‼︎‼︎⁉︎ 」」
しかしここでもゼルドクオリティ、ま~た余計なことまで口走りやがった⁉︎
「おいゼルド⁉︎ お前はまた要らんことまでっ!」
「あっ!やべっ⁉︎ …で、でもよ教官、どうせまた、これからトンでもねぇコトをまたやらかすつもりなんだろ?だ、だったらクローレシアも王族だし、一緒にやるメイガネーノにもある程度教えておいた方がいいんじゃねえか?」
うっかりミスを、慌てて言い繕うゼルドだったが…、ふむ?まあ一理ある…か?
「"とんでもない"とか"またやらかす"は余計だ!が、まあ、お前の言うことももっともだな。これから先、いちいち驚かれたり説明するのも面倒だ、ある程度までならいいかな?」
「だろっ? 」
「まあでも、それは後からだ。…ノア、待たせて悪かったな 」
驚き過ぎて半ば茫然自失となっているクローレシアとメイガネーノへの情報開示は取り敢えず後回しにして、まずは実験を済ませてしまうべく、呼び出したはいいが足元に控えて所在無げにしていたノアに声をかける。
「いえ、お気になさらないで下さい我が主。して、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「ああ、やってもらいたいことは、そんなに難しいことじゃない。いつも通り《空間転移》で俺を運んで欲しいだけだ 」
「……それくらいならばお安い御用ですが…?それが"実験"とやらになるのですか?」
黒猫の姿のままのノアが、首をコテンと傾けながら、アーモンドのようにパッチリとした黄金色の瞳で俺を見上げながら聞いてくる。
ーーーくっ!ノアのくせに、か、可愛いじゃないか…っ! 最近なんだかあざと過ぎるくらい仕草が可愛くなってきてないか?
「あ、ああ、そこのメイガネーノが面白い魔道具を開発してたもんでな、その実験だ。よし、メイガネーノ、良い素材に取り替えて性能が上がったか試験してみてくれ 」
「あ、はい!」
メイガネーノから魔道具の片方を受け取り魔力波動を流す。同じようにもう片方を持ったメイガネーノが魔力波動を流し魔道具を起動させると、その口を近付けて…、
「あー、あー、どうですか?聞こえますかー 」
ーー 『ビ… ぁー、あー、どぅ…でズか… ビィ… 聞こ …すか… 』ーー
おおっ⁉︎ まだまだ接触の悪いスピーカーのようだが、さっきまでのに比べればノイズも少ないし、ちゃんと聞こえるようになったな!
「わ?すごいです!やっぱり良い素材だと性能が上がるなぁ…、私のお小遣いと親方さんのお手伝いのお給料だけだと、こんなに良い素材は揃えられないんですよね… 」
「そうか…、でもまあ心配するな、これからは俺だっているし、いいスポンサーを紹介してやるからな 」
「いいスポンサー…ですか?」
「ああ、だがまず実験だ。メイガネーノ、これから俺が何回かこちらからこの魔道具を使ってみるから、どんな感じだったか全部記録しておいてくれ 」
「…?はぁ、分かりました 」
「頼んだぞ。よし、ノアやってくれ 」
「承知致しました、我が主 」
トプンッと目の前が闇に包まれて真っ暗になり、次に明るくなった途端に吹き付ける少し強い風。
「ととと……っ⁉︎ ここは…、どこかの塔の上か…?」
「はい、魔術学院より約十ケルグ(キロ)ほど離れた場所にある教会の尖塔でございます 」
ノアの《空間転移》で闇を潜り抜け、跳んだ先はこの世界では一般的な教会の塔の上だった。ちなみに祀ってるのはアフィラマゼンダだそうで…。大丈夫か?
「そうか、じゃあ試験一回目行ってみるか。ーー「あーあー、テステス。聞こえるか、メイガネーノ?」ーー 」
ーー『ビィ…はぃ…!聞こえ…ビビ…ますよ…!』ーー
うん、少々途切れるみたいだが、問題はなさそうだ。よし、この調子でどんどん行ってみよう!
「よしノア、次だ。次もまた十ケルグくらいの刻みで頼む 」
「承知致しました 」
そうして、俺とノアは、幾度となく《空間転移》を繰り返して魔術学院から離れて行きながら、魔道具からの声が殆んど聞き取れなくまで実験を繰り返したのだった ーーーー 。
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※カクヨムでも連載しています
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