ヒーローは異世界でお巡りさんに就職したようです。

五輪茂

文字の大きさ
20 / 22
報告書 2

日報 19

しおりを挟む

「異世界……です、か?」

 よく分かっていないのか、キョトンとした顔で救人の顔を見返すシスティーナ。

 ここは教会の食堂。

 あれから変身を解いた救人達は、駆け付けた警備隊に後始末を任せ、大慌てで傷付いたミーナを治療院へと運び込んで治療を頼んでから、教会へと帰って来たのだ。

 〈次空震〉による"湧き"によって、モンスター達が街中に溢れた事によって、初級の治癒魔法が使える教会の者は皆、出払っていて誰もおらず、『ちょうどいい』とばかりに救人は自分の身の上をシスティーナに説明したのだった。

 これはキルバインの「ヒーローには、その正体を知る協力者のヒロインが居る』という言葉に従った訳ではないが、変に怪しまれるよりは正直に話してしまった方が良い。と救人も考えたからだった。

 ただ、話を切り出すまでは非常に気不味かった。何しろ絶対に正体がバレていないと思っていたのに、システィーナには完全にバレていたのだから、恥ずかしい事この上ない。

 なぜ?そう思ったそこのアナタ、ちょっと考えてみてほしい。

 顔を隠してハッチャケちゃってた自分の行動や言動が、すべてアナタだと家族や友人にバレていたとしたら?

 その行動のハッチャケっぷりによって恥ずかしさの度合いは変わるのだろうが、救人がのは"正義の味方の変身ヒーロー"である。
 
 アナタは友人知人の前で、でヒーローを熱演出来るだろうか?
 いくら顔を隠していようが、正体がバレているならばそれは素顔と同じ。

 残念ながら、救人はそこに羞恥心を感じないような鋼鉄のハートの持ち主ではなかった。

 最初から知られている事が分かっているならまだいい。だが、知らないと思っていて思いっ切り見栄を切り、カッコイイポーズまで決めちゃったのだから、これは恥ずかしい。すっごく恥ずかしい!メチャクチャ恥ずかしい‼︎ 空前絶後に恥ずか………‼︎ 

「だから五月蝿いっての‼︎ 」
「キャ…ッ! ど、どうしたんですかキュウトさん…⁉︎ 」
「あっ!ああ、いや、ナンデモアリマセン…… 」

 ーーほらほら、ナレーションにツッコミを入れるよりも説明、説明!

「くっそー、覚えてろよ………。あー、うん。よく分からないかもしれないけど、俺は"こことは別の世界"で産まれて育ったんだ 」
「不思議なお話しですが、は初めて見ました。ですから、私はキュウトさんのお話しを信じます。キュウトさんの居た世界では、皆さんああして"変身"なさるんですか?」
「いや、俺が特別なんだ。俺の家系は代々あの力、【魔装鎧】の力を使って、世の中を乱そうとする奴等と戦い、陰ながら平和を守る『正義の味方』だったんだよ。だからあの力は特別。俺にしか使えないんだ 」
「そうなんですか⁉︎ 『正義の味方』、陰ながら平和を守るなんて、素晴らしいですね!」
「えっ⁉︎ あ、いや、その職業って訳では…、その……… 」

 システィーナの弾けるようなその笑顔と、尊敬の念に溢れたキラキラとした視線から背けるように視線を逸らす救人。ゴニョゴニョと言葉も尻すぼみになっていく。

 ーーそう、『正義の味方』は職業ではないっ‼︎

 もしも『正義の味方』が職業ならば、24時間365日の年中無休、それが例え夜中であろうと「お呼びとあらば即参上!」と出勤しなければならないブラック企業も真っ青な仕事になってしまう。
 
 しかも残業休日手当などの各種手当も無し、超過労働手当も無し。怪我をしようと労災すら使えないのだ。
 
 なので『正義の味方』といえば、なのである!

 だが、生きている以上はどうしたって食べていかねばならず、当然お金がかかる。
 ならば天草家はどうやって日々の糧を得ていたのか?

 実は……、天草家はあくせく働かなくて済むほどの相当ななのだ。

 そもそも天草家の成り立ちは千年前、平安時代まで遡る。初代であるキルバインと天草響子が異世界より降り立ち、人々を悩ませる魑魅魍魎を退治するために、時の退魔組織【陰陽寮】に所属した所から始まる。

 その後朝廷から幕府へと権力機構は数々変わったが、天草家は時の政府に協力して、陰から日本の平和を守ってきた。
 そして、その過程で報酬、または褒賞として得た宝や土地を数多く所持しているのだ。

 明治維新以降は政府に仕えることはなく、報酬、褒賞の類いによる収入は無くなったが、今までに得た土地を使っての賃貸マンションや駐車場の経営などで、黙っていてもお金が入って来るのようになっている。

 果ては過去から現在に至るまでに助けた権力者や財閥などから、資金援助まで受けている為、一般家庭を装ってはいるが月々の収入はそこ等のセレブなど目ではない程だったりする。

 ただ、救人が小さい頃に学校などで「お父さんのお仕事は?」と聞かれた時に「お父さんはお仕事してません!」と答えさせる訳にもいかず、一応、名前ばかりの"自営業"を名乗ってはいたのだが。

 無職であるのに収入はガッポリ。普通なら誰もが羨む状況なのだが、これが『正義の味方』の実態となると非常に聞こえが悪いのは何故だろう?

 救人がシスティーナの汚れを知らない無垢な瞳に耐え切れず目を背けてしまったのはそんな理由だったりする。
 
「で、まあ、何故こんな話をしたかと言うと、今後もああいった事件があった時には変身して人助けをしようと思ってるんで、システィーナさんには周りに俺のが正体がバレないように協力して欲しいんだ。……いいかな? 」

「素晴らしいです!この世界でもキュウトさんは『正義の味方』をなさるおつもりなんですね!まるでお伽話の勇者様のようです…! ああ、女神様、素晴らしい方を遣わして下さってありがとうございます!」

 ーー いやいやシスティーナさん?その少年は確かに勇者の血筋ですが、半分は魔王様なんですよ?(笑)


「だ~~か~~ら~~っ!五月蝿いっての~~~~~~~~っ‼︎ 」


 ーー ツッコミもいいけど救人君?バーサーク・ボアの討伐証明部位は切り取ったのかな?

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!忘れてたぁ~~~~~~っ⁉︎ 」

 ーー あ~~あ。(笑)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...