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第四章 奥様、その恋全力で応援します!
番外編 公爵家の一大事3
しおりを挟むとんでもない秘密を知ってしまった。
恋人であるユミルが昨夜自分を呼び出して打ち明けたのは「奥様が妊娠しているようだ」という内容で、誰にも言わないでほしいという頼みにとりあえず頷いて見せたが、内容が内容なので言いたくても言えない。
残り少ない準備期間を考慮して、空いた時間でレミリアの知り合いである乳母を頼ったりしてみたが、彼女もまたあんぐりと口を開けて倒れそうな勢いだった。産後の相談はぜひとも私に、という強い申し出を受けたので、ユミルは安心したようだ。
そして、気付けば、もう水曜日。
予定日とされる日曜日まで残すところ三日となっていた。
「あの………ホークスさん」
「ん?」
書類から顔を上げないままに聞き返す。今日も今日とて徹夜明けなのか、ホークスは疲労感たっぷりの表情で下を向いている。仕事人間とはまさに彼のような人を言うのだろう。
ユミルも指摘していたが、おそらくホークスは妻であるレミリアの妊娠を知らない。知らぬままに父になるというのは変な話だが、この様子だと話し合う時間すらなかったのだろう。
公爵家の当主が気の毒になる。明るい性格の彼女は、ユミルとフィルの結婚の報告も自分のことのように喜んでくれたから。
「ホークスさん、日曜日はお休みですよね?」
壁際に貼られたカレンダーには丸が付いておらず、つまりその日は仕事がないことを意味している。客人対応や裁判が入っている日は予定が書き込まれているはずだし、フィルの出勤日もまた赤いペンで丸がされているはずだった。
「あぁ、うん。お前は休みで良い」
「え?ホークスさんは?」
ふぁ、と欠伸を噛み殺しながらホークスは「役場に出す書類を作らないと」と言う。フィルは慌てて立ち上がった拍子に机の角に手をぶつけた。
「いや、俺がやりますよ!」
「良いよべつに。結婚するんだろう?ユミルのためにも家に居てやれ。雇い主である俺が言うのも変な話だが、休日の少ない仕事だし、たまには家のことなんかをやった方が……」
「ホークスさん!!」
自分の拳がブルブル震えているのを感じる。
本当にどの面でそんな話を、と言って聞かせたい。こっちが何を言おうが生返事を返すだけでまったく我が身を顧みないのに、フィルのことを気遣うような発言をされても困る。
「この際だから言わせてください。ホークスさん、レミリアさんを不幸にしてますよ」
「………随分な物言いだな」
ようやく書類から顔を上げた弁護士は凄むように目を細める。恐怖で竦みそうになる脚を奮い立たせて、フィルは視線を受け止めた。
「俺は貴方のために言ってるんです。従業員の心配をする前に自分のことを考えてください。そんなんで親になれると思ってるんですか!?」
「…………親?」
「………あ、」
重たい沈黙が流れた。
明らかに空気がこの部屋だけ重い。
組んだ手を額にくっ付けるホークスの表情まで見えないものの、急に黙るあたり、彼自身の中で何か葛藤が起こっているのだろう。ユミルから頼まれた「誰にも言わないで」の誰にもの部分にホークスが含まれるかどうかを考えてみる。当事者ではあるが、おそらく含まれる。たぶん、これはフィルの大失態。
「あ、あの……ホークスさん……」
声を掛けた矢先、ゆらっとホークスが立ち上がった。何とも言えない顔。茫然自失のような、信じられないといったような。
「えっと、どこへ………?」
「レミリアに会いに行く」
止められる雰囲気ではなかった。
自分の不甲斐なさに頭を抱えること数分、フィルは正直にすべてを告白するべく事務所を出てユミルを探すことにした。
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