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第一章 女王とその奴隷
43.レースと紐
しおりを挟む「ねぇ、この前洗濯機の後ろを掃除していたら、女物のパンツが出てきたんだけど」
「うげーどんなやつ?」
「黒いレースの後ろが紐みたいなの」
私は飲んでいた紅茶が変な場所に入って盛大に咽せました。
大丈夫?と背中を摩ってくれるイザベラに頭を下げつつ、深呼吸を繰り返します。私の部屋に上がった二人はピザを買って来てくれていたので、部屋の中は美味しい匂いでいっぱいです。
そして話題は自然と共通の話、つまりミュンヘン男爵家における労働に移りました。はじめは給料払いが良いとか、屋敷が古いといった内容だったのが、だんだんと当主であるロカルドの恋愛事情へと移り、ついにはイザベラから先ほどの発言が飛び出すに至ったのです。
「ロカルド様って結構キツい感じの女がタイプなのかなぁ。顔は良いけど女の陰がないから不思議だったんだよ」
「そうよねぇ。まさかオデットぐらいの年上が好きとか?」
「え、じゃあその紐パンもオデットの…!?」
きゃいきゃいと盛り上がる兄妹を前に、落ちていた下着が自分のものであるとは言い出せませんでした。
ミュンヘンの屋敷に滞在していた間、夜間に洗濯機を借りて自分の衣類を洗っていたのですが、まさか紛失したと思っていた仕事用の下着がそんな場所にあったなんて。
その落とし物をどうしたのかと聞くと、イザベラは当然といった顔で「ロカルド様に返したわ」と言います。頭が痛くなるのを感じながら私はピザの箱を片付けに掛かりました。
思い返すのは今日の仕事終わりにロカルドと交わした会話。
誰でも良いなら先まで進めたい、と彼は申し出ました。それはつまり、今まで手淫やキスに留まっていたのをもう少し変えたいという意味かと思います。
一度は超えてしまった主人と下女としての線引きですが、あれは事故的なものであって私の記憶にはありません。しかし、おそらくはっきりと覚えているようなロカルドを前に「無かったことにしましょう」とは言いずらいものです。
とりあえず承諾したものの、自分がどう振る舞えば良いのか、今からすでに不安でした。
「そう言えばさ、俺たちが前に勤めてた伯爵家で本当にあった話なんだけど、独身のおっさん当主が若いメイドとデキてたらしい」
「………!」
自分のことではないのに、驚きで肩が震えました。
「はぁ?気持ち悪いね。雇われてるからってメイドも断れないんだろうね。かわいそうだわ」
「ミュンヘンに関してはその点心配なさそうだけど。というか、イザベラはロカルド様になら迫られたいんだろ?」
「まぁね、だって良い男でしょう?」
「狡いよなぁ。金持ちってだけで一個ステータス上がるのに、その上高身長であの顔面だもん。父親が犯罪者ってぐらいじゃハンデが足りないだろうよ」
「あの……」
恐る恐る声を発すると、イザベラとアドルフは「どうしたの?」と二人揃ってこちらを見ます。
「ミュンヘンのお話はもう止めませんか?旦那様もお父様のことはすごく重く受け止めているようでしたし、本人が居ない場所でそういった話をするのは……」
「アンナは真面目だなー本人の前で話せないからこういう場所で話題にするんだよ。まぁ、良いや。お前の家だし、家主に従うとするか」
それからは三人でカードゲームをしたり、ヴィラモンテでおすすめの店を紹介し合ったりして過ごしました。
この場に居ないとはいえ、主人のことを悪く言うのは気が引けます。私は愚鈍ではあるものの、最低限の常識と雇用主への忠誠心は持ち合わせているのです。
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