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第一章 マルイーズの穢れた聖女

09 祝杯の夜

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「それでは皆さん、色々ありましたがローズさんとフランくんのお陰で無事に討伐を終えることが出来ました。我が第三班にこのような栄光をもたらしてくれた二人に……」
「はいはい、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
「………クレアさん、私の台詞です」

 ボソリと呟きつつ、フィリップもグラスを掲げる。

 港町であるプリオールにはそれはそれは数多くの飲み屋が軒を連ねており、そのほとんどが新鮮な海鮮を得意とするものだから、私たちは店選びに時間を要した。

 結局、魔術師ラメールの知り合いがやっているという、こじんまりとした隠れ家的な店で集まって今こうして杯を交わしている。

 フィリップとラメールはホットのワインを、クレアとダースとフランはビールを、といった風に皆が頼むものにも個性が表れていて面白い。あまりにもクレアが勧めるものだから、私も押しに負けてビールを頼んでしまった。


「どうよ、ローズ!久しぶりのアルコールは?」

 酔っ払いのごとく肩を組んでクレアが尋ねる。

「うーん……なんだか苦いわね」
「お子ちゃまみたいなこと言うねぇ~」
「なんだ?ローズは下戸か?」
「禁酒してたらしいの。何年振り?」
「四年ぐらいかしら…?」
「それって子供のためってこと?」

 そうそう、と頷いたところで驚いた顔でこちらを見るフランが目に入った。そんなにビックリするようなことだろうか。聞かれてなかったから言っていなかっただけで、べつに私は娘が居ることを皆に秘密にしたかったわけではない。

「ローズさんはお母さんなんですね。きっと賢くて素直な良い娘さんに育つことでしょう。貴女は優しい人だから」
「フィリップさん、コメントが先生って感じ!」
「私が先生ならクレアさんは落第ですよ」
「そんなぁ!」

 大袈裟に反応してクレアはゲラゲラ笑う。
 ダースがその後ろでビールの追加を頼んだ。

「そういえば旦那さんはよく遠征に賛成したなぁ。俺が亭主だったら奥さんが何日も家空けて危険な旅に出るのは耐えられねーよぉ」
「ダース、アンタ結構乙女なとこもあんだねぇ」

 ダースの言葉にラメールが突っ込むと、一同はまた爆笑の渦に飲まれた。恥ずかしそうに首を竦めた大男は「俺は結婚に夢見てんだ」と小さく言い添える。

 なんだかその姿が可愛らしくて、私は誤解を解くために口を開いた。

「夫は、居ないんです」
「んえ?」
「未婚で娘を産んだので、一人で育てています。あ、でもべつに困ってはないですよ!支えてくれる友人も居ますし、二人だけど毎日楽しくって……」
「何歳なんだ?」

 しんみりとした空気になりそうで慌てて続けた説明に、被せるようにフランが言葉を発した。顔を向けると黒い髪の隙間から鋭い瞳が覗いている。

「……三歳になりますけど…?」
「そうか。あんた、偉いな」
「いえ、そんな………」

 そこで、待ちに待ったサーモンのレモンハーブ焼きが運ばれて来たので、一度話は打ち切りになった。

 渡された皿を受け渡しながら、それっきり黙ってしまったフランの方を見る。まさか彼からお褒めの言葉をもらうことになるとは思わなかった。自分の子供を育てるのは当たり前のことで、それを誰かに、特に私のことをあまり知らない他人から偉いと言われるのは不思議な感じがした。

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