33 / 68
第二章 ウロボリア王立騎士団
30 原因と究明
しおりを挟む「なに?つまり、貴方はローズの夫で、彼女がプラムを産む前に恋人同士だったけれどすれ違いで別れたってこと?それで騎士団で二人は運命の再会を……!?」
「そうですね。おっしゃる通りです。さすがローズのご友人、理解が早くて助かりますね」
「んまぁ…!そんな小説みたいな!」
驚きのあまり空いた口が塞がらないメリルを見ながら、私は胃がキリキリ痛んだ。
私が口を開いて事情を説明する前に、フランはすらすらと私たちの出会いから、プラムが彼を「パパ」と呼ぶ理由までを完璧に話してみせた。もちろんそれは殆どがでっち上げの壮大な空想物語だ。
時折私が視線を投げ掛けて、冗談も大概にしろと伝えようとしたけれど、フランはその度に作り物の笑顔を返すだけで聞き入れてはくれなかった。というか、そんな顔が出来るならば家でも愛想良くしてほしい。
「はぁ~しかし、プラムのお父さんに関しては今まで一度もローズが口を割らなかっただけに意外だったわ。てっきり行きずりの男が相手だと思ってたけど、随分と良い男じゃないの!しかも騎士ですって?」
「はい。二人が生活に困らないぐらいには支えていけると思います。家のことはローズに任せっきりですが」
すまないね、と穏やかな顔で言われては私も曖昧に頷くしかない。彼がこんなに演技上手とは知らなかった。
確かに資金面で援助は受けているけれど、実際は家の外に掃いて捨てるほど愛人がいると教えてあげればメリルの評価もきっと変わることだろう。
(外面は良いのね………)
私は呆れた顔でフランを眺める。
本当に底が知れない男だ。
◇◇◇
結局、昼食をレストランで済ませた後、メリルたちを交えて三時間ほどコデグの港を散策した。
ほとんどの間は公園で走り回る子供たちを観察する時間で、駆け回る三人は皆揃って嬉しそうに笑顔を見せていた。プラムも久しぶりにバニラとサルートに会えて良かったみたいだ。
ダースの一推しであるコテグの港から見る夕焼けは、確かに美しかった。赤く染まった空の下、追いかけっこをする子供たちを眺めてフッと口元を緩める。
「もしかすると、ローズさんやフランさんには仕事でまたお会いすることになるかもしれません」
口数の少ないバートンが別れ際にそう言った。
理解出来ない私にメリルが説明を添える。
「バートンは今、魔物の研究で王都とマルイーズを行き来しているの。なんでも、採取した細胞から本来の姿や魔物になった時期なんかを知ることが出来る装置を作ってるんですって」
「へぇ。研究も日々進んでいるんですね」
「ええ、魔物同士は共鳴しますから、最終的には人工的に共鳴を起こして魔物を誘き寄せることが目的です」
「………それは、必要なんですか?」
珍しくフランが否定的な声音で質問した。
前を向いていたバートンがフランを振り返る。フランはただ視線をプラムたちの方に投げ掛けたままで「悪く思わないでください」と前置きして話し始めた。
「魔物を狩るためには、そうした装置は役立つのかもしれません。だけど僕は、そもそも魔物になるに至った原因を解明した方が良いと思います。最近の増え方は尋常じゃない」
バートンは深く頷いて見せた。
「はい。フランさんのような考えを持つ研究者も居ます。ですが……魔物が魔物になる由縁は複雑です。自然に発生するものだと唱える者も居れば、黒魔法の影響だと言う者も居る」
「だから消していくしかないと?」
「発生する数は着実に減っているのです。討伐を行なって浄化すれば危険性も消える。今はまだ、研究は貴方の望むところまでは到達していない」
「………そうですか、」
それっきりフランは黙った。
私は話の続きをもっと詳しく聞きたかったけれど、残念ながらそのタイミングで子供たちの方から声が掛かって、ままごとのお客さんとして駆り出された。
振り返った先でフランの表情は見えなくて、強く吹いた風が黒い前髪を揺らしても、俯いた顔がこちらを向くことはなかった。
211
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?
あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。
理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。
レイアは妹への処罰を伝える。
「あなたも婚約解消しなさい」
【完結】君を愛することはないと言われた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら~義母と義妹の策略でいわれなき冤罪に苦しむ私が幸せな王太子妃になるまで~
綾森れん
ファンタジー
侯爵令嬢ロミルダは王太子と婚約している。王太子は容姿こそ美しいが冷徹な青年。
ロミルダは茶会の折り王太子から、
「君を愛することはない」
と宣言されてしまう。
だが王太子は、悪い魔女の魔法で猫の姿にされてしまった。
義母と義妹の策略で、ロミルダにはいわれなき冤罪がかけられる。国王からの沙汰を待つ間、ロミルダは一匹の猫(実は王太子)を拾った。
優しい猫好き令嬢ロミルダは、猫になった王太子を彼とは知らずにかわいがる。
ロミルダの愛情にふれて心の厚い氷が解けた王太子は、ロミルダに夢中になっていく。
魔法が解けた王太子は、義母と義妹の処罰を決定すると共に、ロミルダを溺愛する。
これは「愛することはない」と宣言された令嬢が、持ち前の前向きさと心優しさで婚約者を虜にし、愛されて幸せになる物語である。
【第16回恋愛小説大賞参加中です。投票で作品を応援お願いします!】
※他サイトでも『猫殿下とおっとり令嬢 ~君を愛することはないなんて嘘であった~ 冤罪に陥れられた侯爵令嬢が猫ちゃんを拾ったら幸せな王太子妃になりました!?』のタイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる