【完結】溺愛してくれた王子が記憶喪失になったようです

おのまとぺ

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第二章 シルヴィアの店編

16.王子は責められる【N side】

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「なんだお前は、リゼッタが居なくなったのにもう他の女に手を出しているのか!」

ガハハハッと豪快に笑うオリオンの後ろには、王妃であるマリソンとウィリアムが立っていた。二人の顔付きは硬く、自分に向けられる視線は厳しいものがあった。

オリオンは笑うのを止めてスッと目を細める。

「何事だ、ノア」
「……なんでしょう?」
「私が留守にしている間に落馬したらしいな。記憶喪失になったとウィリアムから聞いたが、本当か?」
「さあ。周囲がそう言うならそうですね」

オリオンは黙り込んでウィリアムとマリソンの方を振り返った。彼らもまた同様に振り向いて道を開けると、奥から小さな老婆が進み出て来た。ひっつめ髪に老眼鏡を掛けた彼女は、かつて自分の乳母をしていたナターシャだった。

確か今は、オリオンの命により、隣国カルナボーンで娼館を切り盛りしているはずだ。

「久しぶりだねぇ」

老婆は懐かしそうに部屋の中を見回す。

「婚約の祝いに来た時以来だね。オリオンがカルナボーンへ出張がてら、店に寄ったんだ。それで話し込んでいた時にウィリアムが来たから……」

事情を聞いて心配になって付いてきた、と静かに説明した。その手には大きな二つの花束が握られている。どこか見覚えのある花たちに首を傾げた。

「ノア、覚えているかい?」
「何のことかな?」
「あんたがリゼッタにプレゼントした花だ。今回アルカディアに来るにあたって、道中に買って来た」
「……そんなものを見ても何も思い出さない」

誰もが、記憶のないことを責めるように言う。
早く話を終わらせて欲しかったが、小さな老婆は距離を詰めて花束を手渡して来た。花の芳香が鼻腔をかすめて、一瞬頭が重たくなる。鈍い痛みがした。

心底鬱陶しいと思った。
たかが婚約者一人逃げ出したぐらいで騒ぎ立てる彼らも。
何も主張せずに自分から去って行った彼女も。

「もう出て行ってくれませんか?僕はリゼッタのことを思い出せません。気持ちのないまま婚約者の振りをするなんて御免だ、だから新しい形としてお互い別の恋人を作ることを提案したんです!」

一気に吐き出すと、少し身体が楽になった。
隣で心配そうな顔をするカーラの腰に手を回して「大丈夫だ」と伝える。その様子を見たオリオンは小声で何か呟くと、怒号を飛ばした。


「息子ながら見損なったぞ!お前は自分の愛する女一人すら守り切ることが出来ないのか!」

憤怒した国王が近付いて来るのを見つめながら殴られるのだろうと頭の隅で思った。それで彼の気が済むのなら良い。

案の定、大きく振り上げられた拳は左の頬に振り下ろされた。手に持っていた花束が舞い上がって、何本かの花は包みから抜け出して視界を横切る。あまりの勢いに後方へ吹き飛ばされたのでベッドフレームに頭を強打して、そのまま眠るように意識が途切れた。

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