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第一章 カプレット家の令嬢

01.ロカルドの苦い夜▼

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「シーア、どうして……」

 ロカルド・ミュンヘンは息も絶え絶えに言葉を搾り出す。その美しい容姿から、学園にファンクラブすら存在する彼の現在の姿を見て、ドン引きする令嬢が何人いるのか。

 私は漏れ出そうになる笑い声を噛み締めた。
 まだ高笑いをするには早すぎる。

「ロカルド様、気分は如何ですか?」
「最悪だ。君はいったい何の目的で、」
「貴方が大人しく地味な女と見下げていた私に、このような仕打ちを受けるなんて誰が想像したでしょう?」
「……こんなことして、タダで済むと思うな!」
「あらまぁ。威勢だけはいつも良いですね」

 薄らと汗の浮かぶ身体は鍛え抜かれて程良く筋肉が付き、理想的であると言えるだろう。私は黒い透かしレースをポケットから取り出してロカルドの淡い花のような色をした突起の片方を掠めた。

「……っう、」

 切ない声が溢れた後、すぐにロカルドは赤面する。

 国内でも有数の名家、ミュンヘン家の長男ともあろう男が両手を縛られて婚約者に弄ばれているなんて。素晴らしい醜態、学園新聞の一面を飾っても良いようなニュースだ。

(堪らないわね…この顔ったらないわ)

 なんとも言えない高揚感が喉の奥から込み上がってくる。私を散々蔑み、見下してきたロカルドが、羞恥心を滲ませながら声を漏らす姿。辛い日々を耐えてきた自分に是非ともこの景色を見せてあげたい。貴女の苦労は報われると教えてあげたい。もちろん、かつて盲目的に彼を愛していた私は、その理想を打ち砕く彼の姿を泣いて否定するだろうけれど。


「こんな状況でもロカルド様は男性としての威厳を保っていらっしゃるのですね。御立派です」

 スッと手を伸ばすと下着越しでも分かる大きく膨らんだ彼自身に触れる。

「あら?布の色が変わっているわ。お漏らしされたのですか?貴方ともあろうお方が、情けない」
「違う!それは生理現象であって決してお前に、」
「便利なお言葉ですね。本当は期待してるんでしょう?」
「ちがっ……ん、あ」

 カリカリと指先で胸の突起を引っ掻くと、ロカルドはもう強気な態度を見せられないようだった。己の雄を大きく揺らしながら反応する彼の姿に私は冷めた目を向ける。

「マリアンヌ様にはこの立派なブツを使ってさしあげたんですか?私の初夜の儀はすっぽかしたようですが」
「あ、あの日は植物園で、用事が…」
「ええ。薔薇の温室でしょう?ロカルド様、お花を愛でるためにお出掛けになったと思っていたけれど、まさかご友人の女体を愛でていたなんて穢らわしい……」
「………っああ!」

 ぎゅっと力を込めて握り締めると、ロカルドの肉棒はビクビクと震えた。こんな状況でも愉しめるなんて、名家の息子となると多様な才能があるようで素晴らしい。

 下着をずり下ろし、早く早くと急かすように手の中で鼓動する塊を扱きながら舌を這わした。与えられる快感に喜ぶようにロカルドは身を捩っている。

「……ど、どうして君がこんな、」
「純潔の私が男の扱いを心得ているかって?」
「ああ。まさか不貞を…!?」
「貴方と一緒にしないでください。私はこの復讐のために、ある親切な方から学んだのです…知識として」
「…っ、シーア……もう、」

 限界を迎えそうな切ない声音に、私はパッと握る手を離した。驚いたロカルドとは裏腹に耐え切れなかった彼の雄は白濁した精をその腹の上に撒き散らした。

「シ…シーア……?」

 私は自分の鞄から赤い口紅を取り出して、ロカルドの白い肌の上に大きくハートマークを描く。それは私の稚拙な復讐が仕上がった合図で、記念すべき初めての作品を記録するために、私はカメラのシャッターを切った。

「やめろ!撮るな!」
「これでもう安心です。婚約破棄は書面で送りますので、サインしたら送り返してくださいね」
「……そんな、破棄だなんて…!」
「マリアンヌ様と婚約し直して下さっても結構ですよ。もうすぐ結婚する彼女が受け入れてくれたら、の話ですが」
「シーア…!紐を解け!」
「心配しなくても貴方のご友人を呼んであります。少しの間、初めての陵辱の余韻に浸ってください」

 罵声を飛ばすロカルドに笑顔を向けて、私は暗く湿気た部屋を後にした。扉の向こうで待つ人物を捉えて、小さく頷く。

 影と同化するように立っていたルシウス・エバートンは音もなく近付いてきた。聡明で無口な彼とはロカルドの友人として面識はあったが、未だに何を考えているのか底知れない恐ろしさはある。

「終わったわ、すべて…滞りなく」
「そう。それは良かった」

 ルシウスの指が、私の頬の輪郭をなぞった。

「本当にあの大人しいシーアなのか?」
「驚いた。貴方までそんなことを言うのね」
「女というのは化粧でここまで化けるんだな」
「化かされる方が悪いのよ」

 手厳しい、と自嘲するように笑うとルシウスは指先に力を入れる。私は、この男は自分の顎を握り潰すのではないかと内心ひやりとした。細められたルシウスの目が私の顔を覗き込む。

「約束通り、キスをさせてくれ」
「正気?他の男に奉仕した唇よ」
「それでも構わない」

 ついばむような浅い口付けを繰り返しながら、ルシウスは私を抱き締めた。親友の婚約者を相手にこのような行為を行うことが彼の趣味なのか、はたまた何か別の事情があるのかは分からない。

 そして、数分後には、彼はロカルドのピンチに駆け付けた親切な友人を演じて部屋の中へ飛び込むのだ。


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