31 / 76
第三章 エバートン家の令息(ルシウスside)
31.カプレット家への訪問
しおりを挟むシーア・カプレットの家は静かな住宅街の一画にあった。
そよそよと風に吹かれてしなる木々を横目に、車を降りて玄関の呼び鈴を鳴らす。すぐに返答があって、人の良さそうな使用人が出て来た。エバートンの名前を出すと一瞬ハッとしたような顔をした彼女は、慌てて中へ入るようにと促す。
応接室に通されて、出された紅茶を見つめながら、これから打ち明ける内容を頭で整理した。
わざとらしい演技はせずに、あくまでも事実を淡々と。
語ることは少なくても良い。こちらには写真がある。
「……お待たせしました。ルシウス様」
控えめなノックの後でシーアが顔を覗かせた。
三年前よりも幾分か大人びた雰囲気の彼女に、動揺が表に出ないように気を引き締める。自分が仕組んだとはいえ、こんなに美しい婚約者が居るのに指一本触れないどころか、他の令嬢たちの尻を追い掛けるロカルドのことが理解出来ないと思った。
席に着いて不思議そうにこちらを見るシーアの前に写真を差し出すと、その目が大きく見開かれた。
「これ、は……?」
「君の婚約者にはどうやら他に想い人が居るらしい」
「え?」
「彼女は同じクラスのマリアンヌだ。ロカルドと彼女は遅くまで二人で過ごしている」
「どうして…貴方がそんなことを…?」
涙を溜めて驚愕した表情を浮かべるシーアは、写真から顔を上げずにそう尋ねた。
「個人的な理由で君に協力したいと思っている」
「協力……?」
「つまり、復讐するなら手を貸したいと」
「………っ!」
復讐という強い言葉に驚いたのか、シーアはその瞳を揺らした。涙の粒が机の上に落下する。自分の行いへの後悔と、そこまでロカルドのことを想っていたのだという悲痛な感情が心の中で混ざった。
ロカルドは知っていたのだろうか。
彼自身が婚約者からどれほど愛されていたのかを。
「今すぐ返答する必要はない。決意が出来たら呼んでくれ」
「……ルシウス様、」
「ルシウスで良い。どうした?」
「私は彼の婚約者として、今日まで生きて来ました」
「………、」
「私の三年間は…無駄だったのでしょうか?」
答えることなど出来るはずもなかった。
ただ、静かに涙を流すシーアの前に、エバートンの住所が書かれた小さな紙切れを置いて部屋を後にした。泣き続ける小さな身体を抱き締める資格もなければ、励ましの言葉を掛けることも憚られた。
罪悪感だけが、沈んだ心の中で黒く渦巻いていた。
直接的ではないにせよ、その涙の原因を作ったのは自分。
62
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる