【完結】初夜をすっぽかされたので私の好きにさせていただきます

おのまとぺ

文字の大きさ
33 / 76
第三章 エバートン家の令息(ルシウスside)

33.羨望のその先



 ロカルドへの復讐計画を練るために、シーアがエバートン家へ訪れて来た。大泣きで話にならなかったらどうしようかと心配していたので、意外にも気丈に振る舞う様子を見て驚いた。

 出したコーヒーは気分が進まなかったのか、それとも好みではなかったのか、ほとんどカップに残っていた。

「アマンダ、明日は甘い飲み物を出してほしい」
「丁度先日届いたアッサムの茶葉があります。濃厚なコクがあるのでミルクティーにすると女性は好まれるかと」
「分かった。それで頼むよ、ありがとう」

 礼を伝えると、長年エバートンに身を置くメイド長は深々と頭を下げる。

 シーアは気に入ってくれるだろうか。楽しい話ではないから、飲み食いが進まないのも仕方ないことだが、僅かでも彼女の顔に喜びが見られるなら十分だと思った。



 ◇◇◇



「ロカルドともしたことがないの」
「意外だな、本当?」
「ええ。初めては好きな人が良いから」

 ピシャリと言い放って、シーアは再び考え事を始めた。

 思わず、伸ばしかけた手を止める。
 べつにキスをしようとしたわけではないが、意気込む彼女の肩に手を添えるぐらいは許されるかと思った。それをキスと誤解されたことは不本意だけれど、お陰でシーアがまったく自分に好意など抱いていないことはよく分かった。

 悲しくないわけがない。
 しかし、悲しむ権利などない。

 彼女の幸せを奪って、憎しみの種を植え付けた。今まで愛していた人間を恨むことが、どんなに苦しいことなのか。清らかな心に復讐心という強く淀んだ感情を抱えるのは、シーア自身も抵抗があったはずだ。


「家まで送らせてくれないか?」
「いつもご丁寧にありがとう。でも、大丈夫よ」
「分かった」

 ぺこりと頭を下げて去って行く後ろ姿を玄関から見送った。

 淡い茶色の髪が風に乗って揺れている。どんよりと曇った空は決して天気が良いとは言えず、しかし、そんな空の下でもどうしてかシーアだけは輝いて見えた。

 ロカルド・ミュンヘンになりたいと、ずっと思っていた。彼が婚約者としてシーアの存在を明かした瞬間から、羨ましくて堪らなかった。不貞を働いた男としてシーアに憎まれている今だって、その心をここまで動かすことが出来るロカルドに対して嫉妬した。

(初めては好きな人、か………)

 三年間想い続けたロカルドともしたことがないキスを容易に好きでもない他人に捧げることなど出来ない、と彼女は言った。それは当然だろう。

 どうしたらシーアに警戒を解いてもらえるのか。

 仕方のないことだが、傷心の彼女との距離を縮めるのはかなり難しい話で、未だに自分を見る目は完全に他人へ向けるそれだった。この上さらに、親の命令で彼女を騙して結婚をでっち上げた悪党という冠を被るのだから、彼女からキスを許される日なんて永遠に来ないように思えた。


感想 15

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!

星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。 ……のに。 「お腹すいた」 そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。 強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。 手当てすれば「危ない」と囲い込み、 看病すれば抱きしめて離さず、 ついには―― 「君が、俺の帰る場所」 拾ってない。飼ってない。 ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。 無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の 距離感バグ甘々ラブコメ、開幕! ⭐︎完結済ー本編8話+後日談9話⭐︎