魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第一章 魔法学校のポンコツ先生

02 プリンシパル王立魔法学校



 家からバスに乗ること三十分。

 プリンシパル王立魔法学校は記憶と変わらぬ姿でそこに建っていた。三階建ての校舎の上では赤い屋根が太陽の光を受けて輝いている。あの屋根の高さまで飛べるかどうかを学生たちは飛行術のクラスで競い合っていたっけ。

(懐かしいわ………)

 視界に入る黒いローブの学生たち。
 戻って来た。どういうわけか、再び。

 思えばあれは悪い夢だったのかもしれない。コレットは自分が採用されて一年生のクラスを受け持つまでの予知夢のようなものを見ていて、その夢のラストがたまたま自分の死という最悪の展開で終わっただけ。

 そう思えば、なんとなく納得は出来る。


「おはようございまーす!」

 ガララッと勢いよく職員室の扉を開けた先で、先生たちが一斉にこちらを見る。そんなに声が大きかっただろうか、と恥ずかしくなりながら副校長であるマルティーナ・プッチの元へと向かった。届いた手紙によると、初日は一番初めにプッチからの面談があると書かれていたのだ。

「おはようございます、コレットさん。元気の良さは満点、マナーの良さは六十点ね」

「六十点?」

 コレットはショックに打たれながら副校長の顔を見た。赤い縁ありの眼鏡に三日月のような細い顎、長い黒髪を頭の上で一つにまとめた年配の女性。

「ええ。スカートの丈が規定よりも三センチ短いわ。膝が隠れるぐらいの丈が理想的だと書かれていたはずです」

「あ………はい」

「プリンシパル王立魔法学校に通う生徒は十五歳から十八歳までの若い男女。だけれど異性を意識するには十分な年齢ですよ。気を引き締めなさい」

「すみません……」

「貴女が今日から受け持つクラスはピカピカの一年生たちです。今まで担任していた先生が産休で休まれることになったから、急遽人員を募集しました」

「はい。魔法史のパウラ・バス先生ですよね?」

 コレットは記憶を探りながら返事を返す。
 説明をしていたマルティーナが顔を上げた。

「………先任の名前はお渡しした紙には記載していませんが?」

「えっ?」

「プライバシーに関わることなので、お名前は伏せていたはずです。どなたから聞いたのかしら?」

「えっと……その……」

 慌てふためくコレットの後ろで豪快な笑い声が響く。振り返ると、魔獣生態学のルピナス・アーベルがそこに立っていた。屈強なクマのような太い腕には盛り上がった筋肉が見える。

 ルピナスはよく日に焼けた顔でニカッと笑うと、コレットの肩をバンバン叩いた。

「プッチ副校長、この新人に休職しているパウラの話をしたのはボクですよ!さっき道に迷ったところを助けてあげたんで」

「あら、それはご苦労様でしたね。アーベル先生には500パルポイントを付与します」

「おっしゃ……!感謝します!」

 フイッとプッチは職員室の壁に向かって手を振った。目を向けると、壁には何かのボードが掛かっていて、横一列に並んだ小さな文字の上にはそれぞれ、細長い試験管のようなものがくっ付いている。コレットが見守る中で、中央に位置する試験管の一つに輝く粉が追加された。

(そうだ、パルポイント!)

 プリンシパル王立魔法学校に勤務する教員は月々の給料と別にパルポイントと呼ばれる評価点に従って特別給を受け取ることが出来る。それは仲間への協力や校内の美化活動への参加など、何かしらの学校への貢献によって与えられるもので、コレットも得点集めのためによくゴミ拾いをしていた。

 覚えている。こんなことまで細かに。


「クラインさん? どうかしましたか?」

 眉を寄せて訝しむマルティーナ・プッチを前に、コレットは慌てて顔の前で手を振った。「問題ないなら説明を続けます」と副校長は分厚いファイルを手渡す。鈍器として使えそうなそのファイルをしげしげと眺めていると、プッチの声がした。

「それは貴女が受け持つクラスの生徒名簿です。それぞれの生徒の特性や内申が掲載されていますから、記憶したら処分してくださいね」

「え、記憶……?」

「脳に焼き付けてください。魔法を使うのは禁止ですよ。あ、そういえば貴女……」

「………はい?」

 何か思い出したようにプッチは長方形の板を取り出す。透明な水晶で出来た板は、彼女が指を這わせると青い光を発して、複雑な文字を映し出した。

 こちらからは読み取れない文字の羅列に二度三度と目を通して、副校長は息を吐く。あまり芳しくない反応を不安に思っていると、信じられない言葉が聞こえた。

「使いたくても使えないんですね、記憶魔法」

「えっと……? どういう意味ですか?」

 コレットの前でプッチは目を逸らす。
 そして、極めて気の毒そうな顔で笑った。

「コレット・クライン先生。貴女の魔力はゼロです」

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