48 / 73
本編
46.最期の日
しおりを挟むあれから、ずっと頭が重たい。
一時間ほどの点滴を終えて私は父と共に自分の家へ帰宅した。国王と王妃からは自分たちの親族がこのような犯罪を犯したことに対する謝罪を受けた。レナードも同じように後悔を滲ませた言葉を述べて、私に頭を下げた。
その顔を見ることなんて出来なかった。
私は自分の行動を恥じていたから。
今、この場にマルクスが居たら、意地悪な彼は私のことを「堅物令嬢」だけでなく「無知で愚か」と付け加えるだろう。
本当にその通りで、私は何の警戒もしていなかった。レナードへの好意を忘れられないままにデリックと仮初の恋人契約を結び、関係が発展しないのを良いことにダラダラとその遊びを続けた。
結果がこの通り。
(みんな呆れているわよね……)
ベッドに横たわった状態で片手を上げてみる。カーテンの隙間から差し込む朝日が、腕に柔らかな影を落とす。
今日、国王夫妻は王宮にドット公爵家を招待する。急なことではあるけれど、表彰ということできっと彼らは浮かれて来るはずだし、そうでなくともこの国で爵位を受けている以上、私たちはガストラの王家に逆らうことなど出来ない。
ノックの音がして、遠慮がちな父の声がした。
「………イメルダ、おはよう。起きてるか?」
「おはようございます」
「今日は私も協力者として王宮に出向くことになっているが、お前は一人で留守番させて大丈夫か?」
「あの……私も行きます」
「ダメだ」
父は扉を開けて部屋へ入って来た。
私の枕元に歩み寄って、身を屈める。
「昨日の今日だ。何か危険があったらどうする」
「でも…マルクスたちの最期は見届けたいです」
「イメルダ、」
「私は…私を貶めて、私の大切な人たちを侮辱したドット公爵家の行く末を……この目で見届けたいのです」
父ヒンスはもう何も言わなかった。
私の目をじっと見つめた後、諦めたように頷く。
私は感謝を示して、決戦に向かうために身支度を始めた。狼狽えない。怯えない。何を言われても、私は自分の声を信じて行動するだけ。誰にも脅されたりしない。
◇◇◇
一つの高貴な公爵家が今日、終わりを迎える。
すべて思惑通りに進むのだろうかという心配はあった。コーネリウス国王はきっとマルクスの父であるベンジャミンをはじめとして、その母キーラ、そしてマルクス本人に加えてシシーも呼び出しているのだろう。
認めるのだろうか?
自らの罪を、その場で。
宮殿に到着すると、レナード本人が出迎えてくれた。
父ヒンスと何か言葉を交わしてこちらに近づいて来る。
「おはよう…イメルダ。体調はどう?」
「もう平気。心配掛けて、ごめんなさい」
「……君が謝ることじゃないよ」
それっきり会話らしい会話は生まれず、私たちは沈黙を間に挟めたままで並んで国王たちが待つ謁見室へと向かった。
部屋の中にはすでにコーネリウス国王とその妻フェリスが待機していて、フェリスはこんな時なのに例によってあの子猫を抱いていたので私は驚いた。
レナードが何か言いたそうな様子で母親を見ていたけれど、今日もお花畑に居るような彼女はその視線を勘違いしたのかこちらに向けてにこやかに手を振っている。
その場には、国王が呼んだのか、一部の貴族たちも集結していた。口の堅い者たちを選んだのか、それとも今回の件に関係する者たちなのか。そして、護衛の数も通常より多く感じる。何かあった時に備えてのことだろう。
「国王陛下及び王妃殿下、ドット公爵家の皆様がいらっしゃいました」
「うむ………案内せよ」
ギィッと扉が開いて先頭に立つベンジャミン・ドットが部屋へと入って来る。
誇らしげな顔で入場した彼は、その瞬間、自分たちを取り巻く群衆の多さに驚いたようだった。決して好意的ではない私たちの視線にも気付いたのかもしれない。
続いて入って来たキーラも、腕を組んで入って来たマルクスとシシーもギョッとした顔でキョロキョロしている。ベンジャミンが急いで振り返った先で、案内役の男が部屋の扉を閉める重たい音がした。
「これより、ドット公爵家に対する公開尋問を執り行う」
国王の発した声が部屋の空気を震わせた。
233
あなたにおすすめの小説
恋した殿下、愛のない婚約は今日で終わりです
百門一新
恋愛
旧題:恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります
せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。
読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。
「私は君を愛することはないだろう。
しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」
結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。
この人は何を言っているのかしら?
そんなことは言われなくても分かっている。
私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。
私も貴方を愛さない……
侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。
そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。
記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。
この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。
それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。
そんな私は初夜を迎えることになる。
その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……
よくある記憶喪失の話です。
誤字脱字、申し訳ありません。
ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる