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第五章 侯爵と薔薇の園編

37.パラノイアと泡沫

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アーサーと私の寝室問題はいつの間にか、メイドたちの間でも小さな論争を生んでいるようだった。

「いえ、私はお二人の問題だからと口を出さなかったのですが…ユーリが不思議がるものですから」

イシスは掃除道具を片手に申し訳なさそうな顔をする。
べつに寝室が分かれていても私たちはよくお互いの部屋を行き来していたから、特に何も気にしていなかった。アーサーは屋敷に居るときは睡眠以外の時間をほぼ仕事に充てていて、私が側に居ることでその妨げになる可能性もあったし。

しかし、夜を共にしていない事実がメイド間でも問題視されていることに何とも言えない気持ちになる。


「………どうしたら良いか分からないの」
「え?」
「アーサーが何を求めているのか分からなくて」
「……奥様、」

私自身、自分のことが不憫に思える。
やはり信頼を失ったことが原因なのだろうか?
それとも倦怠期とかマンネリ的なそれ?

「こういう時は……」
「……うん?」
「勝負下着じゃないでしょうか!」
「…………」

張り切って目を輝かせるイシスを見て絶句した。
まさか、母親ぐらいの年齢の彼女の口からそのような言葉が出てくるとは思わなかった。勝負下着とはつまり、レースで出来たスケスケのブラとか、股が開いた意味不明のセクシーパンティのことだろうか。

それを私がアーサーの前で着用すると?

「……あまり期待できないわ」
「いいえ。私は過去にこの作戦で恋人との仲を回復して熱い夜を過ごしたこともあるんです…!」
「第一、そんなもの持っていないし…」
「買いに行きましょう!有給を申請します!」

鼻息荒く私の手を握るイシスを見て、彼女を巻き込んでしまったことに対する不安と自責の念が込み上げて来た。熱心に話を聞いてくれるイシスを拒絶するわけにもいかないし、試す価値はあるのだろうか…?

「じゃあ、久しぶりにキャサリンも呼ばない?」
「それは名案です!さっそく手紙を書きますね」
「みんなで会えるのは楽しみだわ」

なんとかお茶会をメインイベントにすることで、勝負下着の購入は避けたい。私が紐パンやベビードールを着たところで豚に真珠もいいところだ。アーサーがドン引きすることはあっても、大興奮して飛び付いてくるなんて想像し難い。

彼がそんな単純な男ならここまで苦労しないのだ。

嬉しそうに床を掃くイシスを見ながら、久しぶりに会うキャサリンのことを考えた。元気にしているだろうか?結婚してから一度会ったけれど、王室の行事があると言ってすぐ解散してしまった。今度はゆっくり時間が取れると良いけれど。


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