リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第12章〜獣人編〜

閑話:本能と忠誠(後編)

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ロウエンside



彼女の笑みに、わざとなのだと知る。
わざと、こうして2人の行為を自分に見せているのだと。


「ーーーあの方の全てを、愚かにも自分が独占出来ると思っていたのか?」


冷たく告げるのは彼女のもう1人の夫、ディオン。
容赦ない言葉を、俺に突き付けてくる。


「身の程を弁えろ。あの方は、決して、お前だけのモノにはならない。」


俺の願いは、叶わないんだと。


「あ、ぁぁぁぁ、」


がくりと膝を付き、頭を掻きむしる。
こんな現実、残酷だ。
自分の頬に涙が零れ落ちていくのを感じながら、ゆっくりと耳と目を塞いでいく。


「コクヨウ、ディオン、しばらくロウエンと2人にしてくれる?」


どれだけ、そのままの状態でいたのか。


「ディア様!?」
「それはっっ、」
「コクヨウ?ディオン?」
「・・・分かり、ました。」
「はい、ディア様。」


ぼんやりとする意識の中、そんな3人の声が聞こえていた。
入り口にいる俺の隣を横切る気配。


「ロウエン?」


そっと、俺の肩に彼女が触れた。
びくりと身体を跳ねさせ、恐る恐る顔を上げれば、俺の事を優しい眼差しで見下ろす愛おしい彼女がいて。
俺は残酷な夢を見ていたのだろうか?
疑問が頭の隅を掠めるが。


「ふふ、せっかくお風呂に入って綺麗にしたのに台無しね?」


彼女から香る独特な匂いが、先ほどまでの残酷な光景は真実なのだと俺に知らしめてくる。


「ロウエン、私はこんな女よ。」


頬に触れる彼女の手。


「私はとっくの昔に壊れてしまっているから、普通の愛情じゃ満足なんか出来ないの。だから、貴方が望む愛情は返せないわ。」


彼女の口元が吊り上がる。


「私にとって、全員が特別で、等しく大事な存在。愛おしい存在なんだよ?」


だから、俺1人だけのモノにならないと。
等しく愛させろと告げられる。


「もしも、コクヨウ達を傷付けたり、殺したりしたら貴方を許さない。私の手で、殺してあげる。」


初めて、彼女の中の狂気を見た。


「ロウエン、どうする?このまま私のモノになるか、消えるか決めて?」


決断するのは俺なんだと笑う。
天国と地獄
俺が足を踏み入れたのは、どっちだったんだろう?


「ロウーーー」


強引に彼女の唇を奪い、その場に押し倒す。
酷い女だ。
このまま離れてしまえ。
なのにーー


「・・ねぇ、このキスは、どういう意味なの、ロウエン?」


彼女の瞳に屈してしまう。
絡み合う視線。


「聞かなくても、あんたには俺の出す答えは分かっているんだろう?」
「ふふ、」


当然とばかりに、彼女は微笑む。


「酷い女だな、あんた。」
「そうね?それでも、そんな私の事を貴方は欲し、こうして組み敷いているんでしょう?」


俺の選択だと彼女は突き放す。
いつもそうだ。
大事な選択は俺に全て任せ、自分は何もしない。


「私は、どちらでも構わないのよ?」


俺だけに求めさせる。


「なぁ、言ったよな?『もしも、コクヨウ達を傷付けたり、殺したりしたら貴方を許さない。私の手で、殺してあげる。』って。」
「・・?えぇ、言ったわ。」
「なら、俺の時も相手を殺してくれるか?俺の為にも、怒ってくれるのか、あんたは?」


彼女の特別になりたかった。
でも、それは叶わぬ夢で、願いだと知る。
なら、せめて。


「ーーーっっ、彼等と同じぐらいの愛情を、俺にもくれるか?」


同じぐらいの愛情が欲しい。


「ふふ、そうね?考えておいてあげる。」


酷い女。
憎たらしくて、愛おしい。
相反する気持ちを抱え、俺の目からぼろぼろと涙が零れ落ちていく。


「泣くくらい辛いなら、私を捨てても良いのよ?」
「っっ、」


俺の頬を撫でる手に、目をきつく瞑る。
この日。
この時、俺は選択した。


「何があっても絶対に離さない。」


彼女のモノになると。
泣きながら華奢な身体を組み敷き、彼女のモノになる事を了承するしかなかった。
逃さぬ様、彼女の手をきつく押さえて、甘い味を味わっていく。


「・・ロウエン、手が痛いわ。」


上がる批難の声。


「もう少し、私に優しくして?」


告げるのは、魔性の声。
その声に。
彼女から香る甘いに俺は囚われ、抜け出す事の出来ない蟻地獄へと落ちていく。
指示に従い、彼女を縫い留めていた手の力を緩める。


「ふふ、良い子ね?」


満足げに笑う彼女の命令に無条件に従ってしまうのは、獣人族に刻まれた強者への絶対服従が理由なのだろうか?
それともーーー


「ロウエン、私の可愛い子。私だけのモノ。」


俺が彼女に支配され、このまま囚われてしまいたいと思っているから?
分からない。


「ふふ、ちゃんと私の言う事を聞いたご褒美をあげるわ。」


目の前で俺を惑わす彼女の考えも。
自分の気持ちさえ。


「ロウエン、永遠に私だけの事を考えて?」


俺の支配者は、嫣然と微笑んだ。
魔性の華。
永遠の、俺の支配者。


「ーーーディア様は、先にルーベルン国にあるお屋敷に戻られました。」


次に目覚めた時、消えていた彼女の姿。
ベットに甘い自身の残り香と、呆然とする俺だけを置き去りにして。


『ロウエン、永遠に私だけの事を考えて?』


君の事だけを考えるよ。
例え、俺が君の夫や側にいる人達とは違い、ただの玩具の1人なのだとしても。


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