リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第3章〜恋愛編〜

剥がれ落ちるもの

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震えているディオンの手。


「ーーー・・ディオン、震えてるの?」


見上げた先。
涙を流すディオンがいた。


「っっ、なっ、どう、したの、ディオン?」


目を見開く。
静かに涙を流して泣くディオンの姿に、慌てふためくしかなかった。
はらはらと静かに涙を流すディオン。


「でぃ、ディオン、!?えっ、え、何で泣いて!?」


あまりの出来事に、あわあわと私は挙動不審に陥るしかなかった。
流れるディオンの涙を拭う。


「ねぇ、ディオン、一体、どうしたの?私が何かしちゃった??」
「ふぅっ、嬉しい、の、です。」
「え?」
「っっ、ディア様は、この手を振り払わない。だから、嬉しいのです、それが、とてもッ。」
「・・・ディオン。」


泣くディオンが、私の肩に顔を埋める。
濡れる、私の肩。
でも、静かに泣くディオンの事を引きはがそうとは思えなかった。


「っっ、私、は、そんな貴方だから、きっと好きになった。同じ、痛みと、悲しみ、孤独を知っているディア様を。」
「・・・同じ、私と。」
「そう、でしょう?ディア様も私と同じ愛情に餓えた方だ。」
「・・・・。」


同じ、か。
いつも私の心はどこか空洞で、餓えと寒さで渇いていた気がする。
それは、愛情を求めていたから?


「誰かに愛されたい、でも、怖い。捨てられる絶望を、ディア様も知っているから。」
「っっ、」


あぁ、剥がされる。
私の纏った、強固な鎧が。


「・・・そう、だよ。もしも、その与えられた愛を受け入れて失ったら?」


怖い。
その愛を失ってしまった時、私は正気のままでいられるの?


「っっ、私は、怖い。だから、ディオン達の気持ちを受け入れられないよッ!」


初めから無ければ、傷付かない。
でも、ディオン達の愛を受け入れてしまったら?
きっと、怯え続けるのだろう。
この愛の終わりの日が、いつ来るのだろうかと。
毎日不安になってしまう。


「きっと、怖くて、誰も信じられなくて、私は最低な事をしてしまうかも知れない。」


束縛して。
理不尽な要求を言ってしまうかも知れない。
そうなってしまう自分が怖かった。


「私は自分が傷付かないか、そんな事ばかり気にしてるっっ、」


私は最低だ。
今も自分の事だけを必死に守ろうとしている。
ディオンの気持ちから目を逸らして。


「・・・っっ、ディオン、私は、そんなに、強く、無いんだよ。」


必至に虚勢を張って大丈夫だと取り繕った。
信じたい。
でも、信じられない自分自身。
目を瞑った先。


『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』


お父さんが、ざまぁみろと私をあざ笑うかのように口角を上げた。
今も響く、お父さんの声。


『ーーーどうして、お前が生きているんだ?』


私を責め続けている。
なぜ、このままではいけないのだろう?
変化は、嫌い。
今のままが、良いの。


「ーーーっっ、ごめん、なさい。」


恋も愛も分からないと口先だけの言い訳をして、コクヨウの、ディオンの気持ちから目を逸らした。
自分自身を守る為に。


「・・最低、だ、私。」


自分の最低さ加減に反吐が出る。
それでも昨日、コクヨウの行為を拒絶出来なかったのは、しなかったのは私の弱さゆえ。
初めて向けられた愛情を手放せなかったから。


「っっ、ごめん、ね、ディオン。」
「・・・謝らないで、下さい、ディア様。貴方が謝る必要は無いでしょう?」


私の肩から、ディオンが顔を上げる。


「っっ、でも、」
「私も、コクヨウもディア様の中にある闇に気が付いていましたよ?そして、他の皆んなも。」
「あっ、」


昨日コクヨウも言ってたっけ?


『ディア様も僕と同じで、他の誰からも愛されなかった人間なんだと。』


ーーって。


「だから、ですかね?こんなにも、私がディア様に執着するのは。」
「え?」
「愛情に餓えたディア様に愛されたら、きっと私は永遠に離してもらえない。あぁ、それは、なんて幸せな事なんでしょうか。」


ディオンの瞳に熱が孕む。
震えるディオンの指先は、私の頬を撫でた。


「狂おしいほど、私は強く、深く愛されたい。そう、貴方に。」


それを、狂気の愛と人は呼ぶだろう。
狂っている、と。
理解されない、歪な愛情。


「ふふ、私にはお似合いなのかも知れないね?」


でも、そのディオンの狂った愛情を私は心地よく感じてしまった。
ーー・・この、渇いた心が潤っていく。


「・・ディオン、貴方に自分勝手なお願いをしても良い?」
「構いません。何でしょう?」
「あのね?」


もう、良いじゃ無い?
過去に囚われて、立ち止まるのは。


『あいつを殺したお前を、俺は絶対に許さない。幸せになんかするもんかッ!』


お父さん。
私、幸せになって良いよね?


「ーーーディオン、私だけを永遠に愛して?」


泣きながら笑った。
この平穏な日常に立ち止まれないのなら、一緒に闇の中へ落ちれば良い。
そうすれば、お互いしかいなくなる。


「えぇ、喜んで。」


微笑んだディオンからの口付けを受け入れた。
・・ほら、ここは私達だけの愛おしい世界楽園
私の目尻から涙が零れ落ちた。

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