リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第4章〜暗躍編〜

閑話:ある男の自惚れ

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ムルガside



俺達、ーーーー俺は、ギルドランクがCに上がって、自惚れていたんだ。
自分の力を。
ギルドランクCと言う名に驕り、過信してしまっていたんだ。


「おい、見ろよ、ギルドランクCのムルガだぜ!」
「良いよな、ギルドランクC。稼げる金額も良くなるし、俺もギルドランクCに早くなりてぇな。」


俺へ向けられる周りからの憧憬。
その視線は、とても気持ちの良いものだった。
だからこそ、誤解する。
自分は強いと。
特別な人間なんだって。


「・・チッ、中々良い依頼がねぇな。」


どの依頼も旨味がねぇ。
ギルドランクCになったから、受けられる依頼が格段に増えた事は嬉しいが、その分危険が伴う。
金は欲しいが、死にたくはねぇ。
さて、どうするか。


「ムルガさん、どの依頼にしますか?」
「これなんか、楽そうだよな!」
「でも、その依頼だと支払額が少なくないか?」
「うーん、こんなに支払額が少ないなら、この依頼を受けても割に合わないよな。」


俺の取り巻き共がかしましく騒ぐ。
自分の力では、何一つ何もできない俺の腰巾着。
ただ使える駒だからから側に置いている。


「・・・本当、どうするかな。」


見慣れた風景。
いつもと同じ、朝の光景。
それは、いつものようにギルドで受ける依頼を物色していた時だった。
ーーーー・・その女が、俺の前に現れたのは。
女の容姿に目を見張る。


「・・・ほう、良い女じゃねぇか。」


銀色の髪に、薄紫色の瞳。
ギルド内に入った瞬間、緊張にか固くなった表情もそそられた。
あんなべっぴん、なかなか拝めねぇ。
それほどの容姿。


「くく、あんな上物を拝めるなんて滅多にいないぜ。」


周りの連中まで女に見惚れてる。


「どれ、あれほどの上物ならこの俺の女にしてやるか。」


舌舐めずりした。
運が良い。
ろくな依頼は無かったが、あんな良い女を見つけられたんだからな。


「くくく、ギルドランクがCである俺の女になれるんだ。あの女も泣いて喜ぶだろ。」


女なんて、皆同じ。
俺が高ランクであると知れば、靡くだろう。
だから、他の奴らの手垢がつく前に、強引にでも目の前の極上の女を自分の物にしようとした。


「よう、べっぴんな姉ちゃん。用が終わったんたら、これから俺達と遊ぼうぜ。」


だが、どうだ?


「・・・はぁ、お断りしましす。あなた達とは遊びません。忙しいので。」


誘う俺に冷たい目を向ける女。
こちらに全く興味がないと言わんばかりに俺の誘いをあっさりと断りやがる。
こんな屈辱は初めてだった。
この俺がわざわざ声をかけてやったんだぞ?


「あん?ちょっと顔が良いからって、スカしてんじゃねぇぞ!お前は、ただ大人しく俺の言う事だけを聞いてれば良いんだよ!!」


だから、無性にムカついた。
ーーーー・・それが、間違いだとも知らずに。


「分かった・・っっ、!?」


なかなかこちらの誘いに乗らない女に、俺の我慢が限界を迎えた瞬間だった。
目の前の女に、とてつもない寒気を感じたのは。


(・・・っっ、こ、殺される。)


視線が合っているだけ。
ただ視線が合っているだけなのに、身体の震えが止まらず、噴き上げる冷や汗。


「兄貴?」
「一体、どうしたんです?」
「まさか気分でも悪いんですか?」


黙りこくった俺に不審そうに腰巾着どもが何か喚いているが、頭の中には何も入ってこない。
そんな俺に見向きもせず、女はギルドから出て行った。
その瞬間、解かれる強張り。


「ムルガさん!?」
「ちょ、顔が真っ青じゃないですか!本当にどうしたんって言うんです?」
「っっ、うるせぇ!俺に構うな!!」


あんな威圧感があったのに、こいつらは何にも感じなかったのか?
あまりの異様さに、ゾッとする。


「・・・まさか、俺だけにあれだけの威圧を向けたのか?」


あの女に対して湧き上がる恐怖心。
だがーーーー


「・・・もし、あの女をーーーー」


俺が手に入れられたら。
それは、俺の胸の中に響く暗く甘い誘惑。
一滴の黒い染みが、俺の心の中にゆっくりと確実に広がっていった。


「・・?ムルガさん?」
「おい、しばらく依頼は受けねぇ。その代わり、あの女の事を調べて、監視しろ。」
「へ?」
「ムルガさん、あの女の事、本気なんですか?」
「良いから、言う事を聞け!」


喧しい奴らを一括し、あの女の事を調べて周辺を監視させた。


「どうやら、このまま迷宮に入るみたいだな。」


あの日から数日。
手下に監視させていたあの女、ディアレンシア・ソウルが数人の奴隷を購入し、レベル上げに勤しんでいたと思ったら、迷宮の方向へと向うとの連絡が入った。
どうやら、今度は購入した奴隷達と迷宮攻略に勤しむらしい。
女達の後をつけながら、思案する。


「ムルガさん、このまま俺達も迷宮に入るんですか?」
「迷宮に入る用意なんてしてませんよ?」
「うるせぇ、俺たちの実力なら問題ないだろ!今日さえ凌げば、迷宮に入るのに必要な物を揃える事も出来るんだよ!」


及び腰の奴らをひと睨みして黙らせた。


「良いから、黙って俺について来い。あんまり喧しいと、あの女にバレるだろうが。」


絶対に、あの女の事は俺が手に入れて見せる。
俺は知らない。
この時の決断が、自分の人生の分岐点となる事を。

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