遠くて近い世界で

司書Y

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SbM

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「大体の状況は理解した」

 確か、今朝襲われる前には、死んだって構わないと思っていた。自分のしたことの責任をとるなら仕方ない。そう思っていた。
 でも、目の前の黒服の男は死神ではなかったし、よくよく考えると自分はただの被害者だ。
 特大の嫌がらせを残して死んでやろうなんて気は全くなくなっていた。
 そうなると、スイの頭はまた回転を速めていく。特大な嫌がらせは残したまま、生き延びる方法を考える。それは、パズルを解いているようで楽しかった。

「……仕事。頼める?」

 たっぷり5分ほど考えて、スイはアキに向かって言った。
 挑むようにその赤い目を見つめる。

「わっるい顔して……。仕事だって? ま、内容次第だな」

 “内容次第”なんていいながら、面白いことになりそうだ。とアキの顔は言っている。冷たそうな外見に似合わず、弟同様に、面白いことには目がないと言った風情だ。

「うまくいったらこれを……あんたにあげるよ?」

 掌にフラッシュメモリを載せて差しだす。

「だけど……保護ってのはごめんだね」

 頭の中には既に道筋が出来ていた。あとは、ただ、それをどうやって成し遂げるかだ。
 行動理念は一つ。奴らの思い通りにはならない。
 そう、奴らが自分に植え付けたとおり遂行するだけ。

 その衝動に身を任せろ。

 その通りにしてやろうじゃないか。

 言葉には出さずに、スイは心を決めた。

「危険だな。前催眠がいつ消えるかわからない。そもそも消えるかもわからない。そんな状態で野放しにできない」

 スイの想いを他所に、アキは言った。その言葉が、彼自身の仕事のためなのか、スイの事を心配してのことなのか、それはわからない。どっちであったとしても、責めることはできない。

「だから。だ。俺は戦技研のホストコンピュータにハッキングして“解除キー”を手に入れる」

 でも、彼を納得させる方法もスイは考えてあった。
 それは、話には上らなかったが、話している最中から考えていた。

「解除キー……か。あるのか?」

「ないわけはない。でなければ、人体実験には踏み切れないだろ。自分達すら危うくなるんだからな」

 科学者は往々にして自分勝手だ。
 自分の仮説が正しいことを証明することだけに情熱を注ぐ。そこには他人の迷惑などという考え方は存在しない。
 ただし、自分の仮説を証明するために必要なら、どんな労力も厭わない。だから、自分を守るための方法は確保しているはずだ。

「ただ……それには、それなりのPCが必要だ。できれば、自分の部屋に戻りたい。だから……」

 口コミのとんでも話はともかくとして、彼らの能力は散々見せつけられた。これ以上の人選はない。しかも、利害は一致している。

「あんたたちに頼みたいのはそこまでの護衛。それから、完全に集中している間、守ってほしい」
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