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「ああ。うん。あれ。ね。……無理。こっちも仕事なんで」
バカにするような口調でアキが応える。まるで、挑発しているようだ。というより、挑発しているのだろう。アキは決して頭の悪い男ではない。数の不利を覆してことを優位に進めるための計算。などということは、スイにとっては改めて考えるまでもない当たり前のことだった。
催眠療法事件で四犀会の力が弱まっているのをいいことに、菱川が最近この街の均衡を乱そうとしている。と、情報屋であるスイの所にもいろいろと噂は流れて来る。近々大きな“イベント”があるとかないとか。
この件について完全に沈黙を貫いている川和組に反して、四犀会はかなり殺気だっている。さらに、普段は舐められっぱなしの警察も今回ばかりは見て見ぬふりとはいかないらしい。
「サツか? それとも……四犀会か?」
アキのクライアントにスイは少し心当たりがあった。
四犀会はあり得ない。催眠療法事件の直後なのだ。さらにアキには軍関係の組織を毛嫌いしている風がある。だから、内調はないだろう。だとすれば、警察か。理由は省くが、川和組はないだろうと想像がついた。
「さあ? どっちでも同じくない?」
「てめぇ! こっちがおとなしくしてればいい気になりやがって!!」
頭の悪そうな怒号を上げて、中の一人が発砲した。消音器すら付けていない。この部屋は川和組と四犀会の“縄張り”の中間あたりに位置している。そんなところで暴力沙汰を起こす以上、双方との抗争に発展しても構わない、またはそうなる危険性を冒してでも奪い返さないとならない何かがあるということだ。
「あ~あ。何もしないで帰ってくれたら、こっちも深追いはしないつもりだったのに」
ため息交じりにアキが呟いた瞬間、5人のうち二人が音もなく崩れた。一人はスイの投げナイフで。もう一人は無音で近づいたユキに一瞬で首を折られて。
「……っ野郎!」
叫んだ男もユキに腕を後ろにねじあげられて声を失う。
「まだ、間に合うよ? 帰ったら?」
あの大型犬のような顔とは全くの別人がそこにいた。口調の気軽さとは対照的に冷たく凍てついたような黒い瞳が怒気をたっぷりと含んで睨みつける。
「今日は、こういう気分じゃないんだよ。すげーいい日だったのに邪魔しないでくれる?」
こういう気分じゃない。と、言葉とは裏腹に、今すぐにでもその首を圧し折ってしまいそうな表情に一瞬躊躇った後、残りの二人がユキに銃を向ける。
「ヤれ! “あれ”は殺した後で探せばいい」
放たれた銃弾がユキに命中することはなかった。発砲されることは想定済みだったのだろう。くるりと体勢を入れ替えて拘束した男を盾代わりにする。
その男を盾にしたまま、発砲してきた片方の男に近付き、そいつに向かってその身体を投げ出すと、同時にもう一人の男のテンプルにユキのつま先が刺さる。仲間の死体を投げつけられた男が銃を構える前にスイのナイフが頸動脈を貫いた。
「でるよ!」
二人の連携で倒れた5人をそのままに、ユキに促されるままドアを潜ると、外にはさらに8人の男が立っていた。
まさか、この短時間で5人の仲間がやられるとは思っていなかったのだろう。全員が緩みきった表情で、銃を降ろし、タバコをふかしている者すらいた。
「てめぇ!」
殆ど意味のない叫び声を上げた男が銃を構える前にユキが一人。サプレッサー付きの銃でアキが一人。投げナイフでスイが一人。殆ど一瞬のうちに三人が崩れ落ちた。
人数は少なくはないが、殆ど素人に毛が生えた程度の相手だ。このまま何もなく終わると、スイも思っていた。
その時だった。
バカにするような口調でアキが応える。まるで、挑発しているようだ。というより、挑発しているのだろう。アキは決して頭の悪い男ではない。数の不利を覆してことを優位に進めるための計算。などということは、スイにとっては改めて考えるまでもない当たり前のことだった。
催眠療法事件で四犀会の力が弱まっているのをいいことに、菱川が最近この街の均衡を乱そうとしている。と、情報屋であるスイの所にもいろいろと噂は流れて来る。近々大きな“イベント”があるとかないとか。
この件について完全に沈黙を貫いている川和組に反して、四犀会はかなり殺気だっている。さらに、普段は舐められっぱなしの警察も今回ばかりは見て見ぬふりとはいかないらしい。
「サツか? それとも……四犀会か?」
アキのクライアントにスイは少し心当たりがあった。
四犀会はあり得ない。催眠療法事件の直後なのだ。さらにアキには軍関係の組織を毛嫌いしている風がある。だから、内調はないだろう。だとすれば、警察か。理由は省くが、川和組はないだろうと想像がついた。
「さあ? どっちでも同じくない?」
「てめぇ! こっちがおとなしくしてればいい気になりやがって!!」
頭の悪そうな怒号を上げて、中の一人が発砲した。消音器すら付けていない。この部屋は川和組と四犀会の“縄張り”の中間あたりに位置している。そんなところで暴力沙汰を起こす以上、双方との抗争に発展しても構わない、またはそうなる危険性を冒してでも奪い返さないとならない何かがあるということだ。
「あ~あ。何もしないで帰ってくれたら、こっちも深追いはしないつもりだったのに」
ため息交じりにアキが呟いた瞬間、5人のうち二人が音もなく崩れた。一人はスイの投げナイフで。もう一人は無音で近づいたユキに一瞬で首を折られて。
「……っ野郎!」
叫んだ男もユキに腕を後ろにねじあげられて声を失う。
「まだ、間に合うよ? 帰ったら?」
あの大型犬のような顔とは全くの別人がそこにいた。口調の気軽さとは対照的に冷たく凍てついたような黒い瞳が怒気をたっぷりと含んで睨みつける。
「今日は、こういう気分じゃないんだよ。すげーいい日だったのに邪魔しないでくれる?」
こういう気分じゃない。と、言葉とは裏腹に、今すぐにでもその首を圧し折ってしまいそうな表情に一瞬躊躇った後、残りの二人がユキに銃を向ける。
「ヤれ! “あれ”は殺した後で探せばいい」
放たれた銃弾がユキに命中することはなかった。発砲されることは想定済みだったのだろう。くるりと体勢を入れ替えて拘束した男を盾代わりにする。
その男を盾にしたまま、発砲してきた片方の男に近付き、そいつに向かってその身体を投げ出すと、同時にもう一人の男のテンプルにユキのつま先が刺さる。仲間の死体を投げつけられた男が銃を構える前にスイのナイフが頸動脈を貫いた。
「でるよ!」
二人の連携で倒れた5人をそのままに、ユキに促されるままドアを潜ると、外にはさらに8人の男が立っていた。
まさか、この短時間で5人の仲間がやられるとは思っていなかったのだろう。全員が緩みきった表情で、銃を降ろし、タバコをふかしている者すらいた。
「てめぇ!」
殆ど意味のない叫び声を上げた男が銃を構える前にユキが一人。サプレッサー付きの銃でアキが一人。投げナイフでスイが一人。殆ど一瞬のうちに三人が崩れ落ちた。
人数は少なくはないが、殆ど素人に毛が生えた程度の相手だ。このまま何もなく終わると、スイも思っていた。
その時だった。
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