遠くて近い世界で

司書Y

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 そして、最大の問題が残っている。
 この場所を知る方法が、彼らにないということだ。 
 アキのスマートフォンはここへ来る前に破壊された。GPSで辿られるのを警戒しているのだろう。実際、スマートフォンの電源がONになっていれば、スイがすぐに場所を割り出してくれたはずだ。しかし、その方法は使えない。

 しかし、何故だろうか。それに関しては大丈夫だと確信にも似た思いがアキの中にあった。スイがなんとかしてくれる。
 彼は魔法使いなのだ。
 きっと、思いもよらない方法で自分を探しだす。

 そこまで考えて、急に痛みだした傷にアキは奥歯を噛みしめる。痛みには慣れているつもりでいたけれど、正直ことが起こったとき、動けるかどうかはあやしい。
 それでも、そんな痛みより、自分が二人を危険に晒しているのだということがアキには一番痛かった。

 ユキ。スイさんに迷惑かけてるんだろうな。

 冷静なスイと駄々をこねるユキ。容易に想像ができる。自分のことになるとユキが完全に冷静さを失うことは分かっていたから。冷静に状況を判断して行動するスイとは真逆のタイプだ。きっと、スイはユキを止めるのに苦労したことだろうと思う。
 でも、だからこそ、二人は相性がいいとも思う。だから、もし自分がいなくなったら、スイがユキのそばにいてやってほしいと思った。

 やだって、言われちまったな。
 スイさんなら、きっと、ユキを任せられると思ったんだけどな……。
 あの流れなら、普通さ。任せとけって流れだろ?
 なんでだよ?
 スイさん。

 気を抜くと、ふ。と消えてしまいそうになる意識の中で、スイと交わした会話がよみがえって来る。もちろん。こんなこと他の誰にも頼んだことなんてない。
 スイだからだ。
 あの、大人で、冷静で、頭が切れて、不器用で、寂しがりで、孤独で、優しいスイだからだ。

 可愛い妹ならともかく、ごつい弟じゃ駄目だったか?

 頭に浮かんだ自分の考えにアキは苦笑した。

 それでも、ごついけど可愛い弟なんだけどな。

 今度は最後に泣きそうな顔で自分を見つめるユキの顔が浮かぶ。
 戦闘能力は高くても、そのほかはまだ手のかかる子供のようなユキ。難しいことを考える事が苦手で、思ったらすぐ行動に移してしまって、物をすぐになくすユキ。
 自分がいなくなったら、弟はどうなるのだろう。

 初めて会った日のスイのような目をするようになるのだろうか。
 まるで、警戒心の強い小動物のように、全身の毛を逆立てて“近づくな”と警告を発するようになるのだろうか。
 ずっと離れ離れになっていたユキをようやく探し出して、再会したあの日、アキのことが誰なのか分からずに警戒心を剥き出しにしたあの時のユキにもどってしまうのだろうか。

 スイさん。頼むよ。ユキを……。

 ふと、自分のことを語るスイを思い出す。初めて会った日と同じ、どこか脅えた目をしていた。

 そんな顔……すんなよ。
 俺たちはずっと……。

 がしゃーん!

 意識が途切れそうになったアキをその音が現実に引き戻した。
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