遠くて近い世界で

司書Y

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 ◇エレベータ:翡翠◇

 連れていかれた先は地下に降りるエレベータになっていた。箱の側面は鏡張りになっていて、天井から金色の照明が照らしている。廊下と違って妙に眩しい。
 その中でも、プリン頭はスイの腕を離そうとしなかった。警戒しているのか、別の意図があるのか分からない。酷く鬱陶しい。その上、ずっと、じろじろと嘗め回すような視線を感じるから、鳥肌が立ちそうになった。

「なあ。あんたさ。それ。本当に天然なん?」

 スイの手を掴んでいるのと反対の手が髪に延びる。触られそうになって、思わず逃げだそうとする身体と、逃げたら不審に思われるという理性が鬩ぎ合って、スイはびくり。と、大袈裟に身体を揺らして身構えた。

「……へえ。なんか、処女みてえ」

 強張るスイを無視してその手が髪に触れる。
 気持ちが悪い。最悪の気分。
 吐きたいくらいだ。
 それでも、歯を食いしばって耐える。
 こんなふうに厭らしい目で見られるのにはどうしてもなれることができない。自分が中性的なのは理解している。希少種なのも分かっている。だから、こそこそと身を隠していないと、こんなふうに扱われることが稀にある。しかし、どうしてもなれることなんてできない。
 そんなときの相手の顔は必ず記憶の中のあの男の顔とダブるからだ。

「……惜しかったか?」

 するり。と、髪を梳いた手が肩に触れた。不快感にもう少しで手を払いのけてしまうところだった。
 けれど、それは実行に移されることはなかった。

 ぽん。と、機械音がエレベータがどこかに到着したことを告げたからだ。
 続いてエレベータのドアが開く。
 その先は廊下ではなくそのままフロアになっていた。
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