遠くて近い世界で

司書Y

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L's rule. Side Akiha.

可愛い人が俺を尊死させようとしてきます 2

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「……あのさ。アキ君」

 いま、二人きりだけど? と、聞きたかったが、“そういう意味で”二人の時なんだろうと、思い直す。恥ずかしがり屋で、意地っ張りのスイに無理を言っても、意地をはるだけで、そういう時でも呼んでくれなくなりそうだ。

「なに?」

「……あの……昨夜……俺さ。その……」

 言いづらそうに口籠るスイ。少し不安げな顔にまた何か気を回しすぎているんじゃないかと心配になる。スイは人付き合いが苦手で頭がいいわりに他人の感情を変な方向に誤解することがあるからだ。

「……へ……変じゃなかったかな?」

 問いかける表情は、恥ずかしがっている。という感じではなかった。どちらかというと、不安? そんな感じだ。

「なんで? めちゃくちゃ可愛かったけど?」

 だから、アキは感じたままに答えた。
 何もおかしいところなんてなかった。アキを受け入れようと必死になってくれている顔も、愛撫に返す素直な反応も、繋がった瞬間の幸せそうな表情も、堪えきれない甘い声も、蜂蜜みたいな甘い唇も、香りも。控えめに言っても最高だった。

「……いや。その……あんなこと話した……後なのにあんなに……その……き……もちよくて……。俺……おかしいのかなって。アキ君……変に思ってないかなってさ」

 うそだろ?
 何言ってんだ、この人は。

 またしても、アキは声に出さずに頭を抱えた。この可愛い人は自分を殺す気だろうか。と、本気で思う。
 もう、耐えられなくなって、アキはスイをぎゅううっと抱き締めた。

「アキ……君?」

 突然の熱烈な抱擁に苦しげにスイが身を捩る。

「気持ちよかった? ホントに?」

 抱きしめたまま耳元に囁くと、“ひゃ”と小さく声を漏らして、スイが身を竦めた。

「俺といて。幸せ? スイさんの言ってた呪い。ちゃんと、とけた?」

 多分、嬉しくて、声は上ずっていたと思う。幸せすぎて、涙が出そうだ。そんな顔は見られたくなくて、抱き締める腕にさらに力が籠った。

「アキ君……苦しいよ……」

 苦しいと言いながらも、スイの声はちっとも嫌そうではなかった。

「ありがと。アキ君。名前呼んでくれて。すごく……安心できた。すごく……幸せだった」

 もぞもぞと動いてスイの腕がアキの背中に回る。それからぎゅっとアキの背を抱いてくれる。
 本当に幸福な時間だった。
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