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L's rule. Side Hisui.
ちゃんと両方面倒見てよ? 1
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窓を開けるともう、雨は止んでいた。昨日は見えなかった太陽が雲間から見える。白い雲と青い空のコントラストが鮮やかでスイは思わず目を細めた。
サンダルを履いてベランダに出ると、雨粒が太陽の光を反射して、街がきらきらと輝いている。その色がいつもより鮮やかに見えるのはきっと錯覚ではない。
世界は昨日までと違っている。いや、きっと、変わったのは世界ではなく自分の方なのだとスイは思う。
「……こんなに……」
綺麗だったっけ?
と、声に出さずに自分自身に問いかける。
久しぶりの青空だからではない。雨で大気が洗われたからでもない。
きっと、自分に絡まっていた鎖の一本が外れたからなのだろう。
「んっ」
声を出して、両手を上に上げて伸びをする。水分をいっぱいに含んだ朝の空気を大きく吸い込む。
痛いところや、ぎしぎしときしむところはあるけれど、朝の空気は気持ちいい。そんなものの全部、アキがくれたものだと思うと、顔が勝手ににやけてしまう。身体に残っている甘ったるい気だるさとか、余韻とか、痛みとか、そんなものを幸せだと思える時が来るなんて、数か月前の自分には想像もつかなかった。
昨夜のことを思い出す。
結局悩んだけれど、うまくなんてできなかった。隠し通すことなんて不可能だった。
アキに不快な思いをさせてしまったし、自分の過去をこの先もアキにまで背負わせることになってしまった。
でも、アキは優しかった。
嫌な思いをしても、全部包み込んでくれた。大切に、大切に触れて、甘やかして、溶かして、何もかもアキに色に染めてくれた。
あんなに心地のいいセックスなんてしたことがなかった。
今までは恐怖でしかなかった性交渉へのイメージが全部書き換えられてしまった。過去の傷を忘れることなんてできないけれど、あれがセックスではなかったとスイは理解した。あれはただの暴力だったのだと、アキに教えてもらった。
身体に触れるアキの指先を、深いキスと唾液の味を、身体の中で脈打つ熱を、思い出して、ほう。と、ため息を漏らす。思い出すだけで、身体の芯が熱くなる。素直に、また、したいと思える。
そう思えるようになったことが、とても幸せだった。
「……アキの……」
そ。と、下腹部に触れる。未だに違和感。というには、甘い感覚がそこに残っているような感じがする。アキが来ていた場所。満たされた感覚を思うと、その場所から焦燥感にも似た何かが湧き上がってくる。
ばたん。
不意に、ベランダの下の方から音が聞こえた。マンションの前の通りに止まっていたタクシーのドアが閉まった音だ。何でもない日常の音に、けれど、スイは大きくびくりと。身体を跳ねさせた。
「俺……。いま」
何考えてた?
日常の音に、思索? 否、妄想の世界から引き戻されて、スイは思わず赤面した。昨日まで、考えないように努めてはいたけれど、それでも怖くて堪らなかったのに、今、確かにスイは思っていた。
今すぐにでも。
と。
昨夜。というよりも、時間的にはもう、今日になっているような時間までアキの腕の中にいたのに、もう『次』のことを考えている自分が堪らなく恥ずかしくなる。
「うそ……だろ?」
勝手に顔が熱くなる。
現金にもほどがあると思う。
アキは変ではなかったと言ってくれたけれど、明らかに自分はおかしいと思う。
叫んで逃げ出したい衝動を抑えて、スイは大きく左右に顔を振ってから、両手で自分の頬を叩いた。そのまま両手で顔を抑えて、冷静になれ! と、自分自身に言い聞かせる。
「せ……洗濯物干そう」
そもそも、ベランダに出たのは洗濯物を干そうと思ったからだった。だから、大きく深呼吸して、洗濯物が置いてあるはずのベランダのサッシの方を振り返った。
「あ……」
サンダルを履いてベランダに出ると、雨粒が太陽の光を反射して、街がきらきらと輝いている。その色がいつもより鮮やかに見えるのはきっと錯覚ではない。
世界は昨日までと違っている。いや、きっと、変わったのは世界ではなく自分の方なのだとスイは思う。
「……こんなに……」
綺麗だったっけ?
と、声に出さずに自分自身に問いかける。
久しぶりの青空だからではない。雨で大気が洗われたからでもない。
きっと、自分に絡まっていた鎖の一本が外れたからなのだろう。
「んっ」
声を出して、両手を上に上げて伸びをする。水分をいっぱいに含んだ朝の空気を大きく吸い込む。
痛いところや、ぎしぎしときしむところはあるけれど、朝の空気は気持ちいい。そんなものの全部、アキがくれたものだと思うと、顔が勝手ににやけてしまう。身体に残っている甘ったるい気だるさとか、余韻とか、痛みとか、そんなものを幸せだと思える時が来るなんて、数か月前の自分には想像もつかなかった。
昨夜のことを思い出す。
結局悩んだけれど、うまくなんてできなかった。隠し通すことなんて不可能だった。
アキに不快な思いをさせてしまったし、自分の過去をこの先もアキにまで背負わせることになってしまった。
でも、アキは優しかった。
嫌な思いをしても、全部包み込んでくれた。大切に、大切に触れて、甘やかして、溶かして、何もかもアキに色に染めてくれた。
あんなに心地のいいセックスなんてしたことがなかった。
今までは恐怖でしかなかった性交渉へのイメージが全部書き換えられてしまった。過去の傷を忘れることなんてできないけれど、あれがセックスではなかったとスイは理解した。あれはただの暴力だったのだと、アキに教えてもらった。
身体に触れるアキの指先を、深いキスと唾液の味を、身体の中で脈打つ熱を、思い出して、ほう。と、ため息を漏らす。思い出すだけで、身体の芯が熱くなる。素直に、また、したいと思える。
そう思えるようになったことが、とても幸せだった。
「……アキの……」
そ。と、下腹部に触れる。未だに違和感。というには、甘い感覚がそこに残っているような感じがする。アキが来ていた場所。満たされた感覚を思うと、その場所から焦燥感にも似た何かが湧き上がってくる。
ばたん。
不意に、ベランダの下の方から音が聞こえた。マンションの前の通りに止まっていたタクシーのドアが閉まった音だ。何でもない日常の音に、けれど、スイは大きくびくりと。身体を跳ねさせた。
「俺……。いま」
何考えてた?
日常の音に、思索? 否、妄想の世界から引き戻されて、スイは思わず赤面した。昨日まで、考えないように努めてはいたけれど、それでも怖くて堪らなかったのに、今、確かにスイは思っていた。
今すぐにでも。
と。
昨夜。というよりも、時間的にはもう、今日になっているような時間までアキの腕の中にいたのに、もう『次』のことを考えている自分が堪らなく恥ずかしくなる。
「うそ……だろ?」
勝手に顔が熱くなる。
現金にもほどがあると思う。
アキは変ではなかったと言ってくれたけれど、明らかに自分はおかしいと思う。
叫んで逃げ出したい衝動を抑えて、スイは大きく左右に顔を振ってから、両手で自分の頬を叩いた。そのまま両手で顔を抑えて、冷静になれ! と、自分自身に言い聞かせる。
「せ……洗濯物干そう」
そもそも、ベランダに出たのは洗濯物を干そうと思ったからだった。だから、大きく深呼吸して、洗濯物が置いてあるはずのベランダのサッシの方を振り返った。
「あ……」
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