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Internally Flawless
01 矜持 07
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「スイさん、まってよ」
もう一度腕を掴んで、スイを止める。
そうしてユキを見つめた翡翠色の瞳は、今度は泣きそうに潤んでいた。
「ごめん。こんな風に……喧嘩したかったわけじゃないんだけど」
きっと、アキの前では必死で耐えていたのだと思う。スイにも譲れないものがあると、アキにも分かってほしかったんだろう。
「あの言い方は兄貴も悪いと思う。……けどさ」
スイを引きとめる、上手な言葉が見つからなくて、ユキは口籠った。
こういう時に自分は子供だと思う。不器用な自分がもどかしい。
「あ。いや。……その出てくとか。そういうことじゃなくて……。潜入捜査だから、警察側の人間と接触があることがばれると面倒だからと思って。最初からしばらくは家を出るつもりだったから」
本気で出て行くつもりがないことにはほっとする。しかし、一体何時までのことになるのだろうと思うと、また、心配になる。もしこのまま、スイが何カ月も戻ってこないようなことになったら。どうすればいいのだろう。
「……スイさん」
その情けない気持ちが伝わってしまったのか、スイが少しだけ笑いかけてくれた。
「ちゃんと、連絡はするよ」
そう言って、その細い指が、優しく頬を撫でる。いつも通りの少し冷たいスイの指。
「あ。そうだ。……これ、住所」
小さく折りたたんだ紙片をユキの手に握らせて、その手がそのままユキの手を握りしめる。
「ごめん。でも、俺は二人の『家政婦』でいるのは嫌なんだ。自分ができることで、二人の『仕事』の役に立てるなら、それをしたい。ちゃんと二人の仲間なんだって胸を張っていたい。だから、行くよ」
スイは笑っていたけれど、泣いているようだった。
スイの言いたいことも、ユキには良く分かった。だから、もう、止めることはできなかった。
「……わかった。でも、本当に気を付けて。ターゲットになるとかそういうこと抜きにしても、情報を嗅ぎまわってたら、危険なんだからな。……てか、ターゲットになれば、とりあえず傷つけられることはないかもしれないけど、警察に関係してるってバレたら、そっちのがヤバいんだから」
スイが握った自分の右手に、左手を重ねて、少し強い口調でユキが言うと、こくり。と、素直にスイが頷いた。
「ありがと」
寂しそうに笑ってから、背伸びしてユキの頬にキスをする。
「本当に連絡してよ?」
そのユキの言葉にも、スイはこくり。と、頷く。
「絶対。毎日だよ?」
念押しすると、ようやく寂しそうにではなく、少しおかしそうに笑ってくれた。
「わかった。ちゃんと、連絡する」
その頬に手を触れて、少し上を向かせてから、キスをする。唇は少し冷たかった。
「じゃ、行ってきます」
出て行く間際の言葉が、『行ってきます』だったことに、少しだけ救われた気がするユキだった。
もう一度腕を掴んで、スイを止める。
そうしてユキを見つめた翡翠色の瞳は、今度は泣きそうに潤んでいた。
「ごめん。こんな風に……喧嘩したかったわけじゃないんだけど」
きっと、アキの前では必死で耐えていたのだと思う。スイにも譲れないものがあると、アキにも分かってほしかったんだろう。
「あの言い方は兄貴も悪いと思う。……けどさ」
スイを引きとめる、上手な言葉が見つからなくて、ユキは口籠った。
こういう時に自分は子供だと思う。不器用な自分がもどかしい。
「あ。いや。……その出てくとか。そういうことじゃなくて……。潜入捜査だから、警察側の人間と接触があることがばれると面倒だからと思って。最初からしばらくは家を出るつもりだったから」
本気で出て行くつもりがないことにはほっとする。しかし、一体何時までのことになるのだろうと思うと、また、心配になる。もしこのまま、スイが何カ月も戻ってこないようなことになったら。どうすればいいのだろう。
「……スイさん」
その情けない気持ちが伝わってしまったのか、スイが少しだけ笑いかけてくれた。
「ちゃんと、連絡はするよ」
そう言って、その細い指が、優しく頬を撫でる。いつも通りの少し冷たいスイの指。
「あ。そうだ。……これ、住所」
小さく折りたたんだ紙片をユキの手に握らせて、その手がそのままユキの手を握りしめる。
「ごめん。でも、俺は二人の『家政婦』でいるのは嫌なんだ。自分ができることで、二人の『仕事』の役に立てるなら、それをしたい。ちゃんと二人の仲間なんだって胸を張っていたい。だから、行くよ」
スイは笑っていたけれど、泣いているようだった。
スイの言いたいことも、ユキには良く分かった。だから、もう、止めることはできなかった。
「……わかった。でも、本当に気を付けて。ターゲットになるとかそういうこと抜きにしても、情報を嗅ぎまわってたら、危険なんだからな。……てか、ターゲットになれば、とりあえず傷つけられることはないかもしれないけど、警察に関係してるってバレたら、そっちのがヤバいんだから」
スイが握った自分の右手に、左手を重ねて、少し強い口調でユキが言うと、こくり。と、素直にスイが頷いた。
「ありがと」
寂しそうに笑ってから、背伸びしてユキの頬にキスをする。
「本当に連絡してよ?」
そのユキの言葉にも、スイはこくり。と、頷く。
「絶対。毎日だよ?」
念押しすると、ようやく寂しそうにではなく、少しおかしそうに笑ってくれた。
「わかった。ちゃんと、連絡する」
その頬に手を触れて、少し上を向かせてから、キスをする。唇は少し冷たかった。
「じゃ、行ってきます」
出て行く間際の言葉が、『行ってきます』だったことに、少しだけ救われた気がするユキだった。
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