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Internally Flawless
02 瑣末 04
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「ん。そだな」
思わずため息が出そうになるのを飲みこむ。
アキは、目立たないような黒いスーツを着ていた。いつもと違って、ちゃんとネクタイもしている。それから、メガネではなくサングラスをしていた。警備の仕事の時は大抵そうだ。視線を悟られることを警戒しているのだ。
目立つ格好をしているわけではない。けれど、彼はその売れっ子というモデルの女性よりずっと人目を引いた。と、少なくともスイには見えた。
「レイの所に殺人予告が来たんだってさ。その警備の人、警察の人じゃないらしいんだけどさ。男に美人だって思ったの初めてだよ。アルビノっていうの? 髪も、瞳もめっちゃ綺麗だし。あの人がここにいたら、俺絶対モデル頼むよ! だから、スイさんだけじゃないんだってー」
その時のアキの姿を思い出す。ちらりと見ただけだった。向こうは気付いてもいなかったと思う。なんだか、それが、彼との本当の距離の様で切なかった。
「てかさ。ケンジ君。ゲイなの? 綺麗なモデルさんいっぱいいたのに、警備の人って……」
話をなんとか逸らしたかった。不自然じゃないように。アキの話をしていたら、きっと気持ちが表情に出てしまうと思った。でも、あまり人との会話が得意ではないスイにはうまくいかなかった。
「ゲイってわけでもないけど……。レイも好きだし。別にモデルじゃなくても、可愛い女の子は大好きだし。でも、男でも別に抵抗ないよ。てか。性別とか、どうでもよくない? 綺麗なもんは綺麗だし」
ケンジが別の方向に話を逸らしてくれたので、スイはほっとした。そのまま、その流れに乗っかることにする。アキの話をこれ以上していたくはなかった。
「博愛主義?」
少しからかうように言うと、にこっとケンジが笑った。
人懐っこい笑顔だった。普通の大学生ってこんな感じなのかな。と思う。スイの周りにはあまり『普通の人』がいない。多分、ユキや志狼と同じくらいの年だとは思うけれど、二人とはかなり違っていると思う。
「そ。俺は美しいものなら、何でも好きなの! 美術に命捧げてるからね! だからさ、スイさん今度飲みに行こうよ」
「はあ?」
話のつながりがよくわからない。今時の若い人ってこんなのが普通なんだろうか。変なヤツだと思う。でも、人懐っこくて、悪い印象はない。もちろん、それは仕事仲間として、という意味でだが。
「それって、どんな流れだよ」
だから、スイは笑いながら答える。
「ナンパしようかという流れです!」
きっぱりと、言い切られて、不覚にもいっそ潔いと思ってしまった。
「何言ってんの。ケンジ君何歳? 大学生ってことは……20歳くらい? 俺、28だよ? おっさんなんてナンパしてないで、可愛い女の子いっぱいいるだろ?」
苦笑すると、いきなり両手を握られた。触れられるのは嫌いだけど、それを顔に出さないように注意する。別に振り払ってもよかったかな。と、思ったのは一拍置いてからだった。
「愛があれば歳の差なんて!」
だから、その手をぽいっと振り払って、スイは立ち上がった。
「5年後に出直してきなさい」
PCをスリープモードにしてから、その隣に置いておいたタバコを取って、歩き出す。
これ以上しゃべっているとなにかボロを出してしまいそうな気がしたし、親しくない相手と長く会話をしているのは正直不快だったから、逃げ出したのだ。
「美人は三日で慣れるっていうけど、慣れちゃったら俺くらいじゃだめなのか……な」
一人ごとのように呟いているケンジを残して、スイはタバコを吸うために喫煙所に向かった。
思わずため息が出そうになるのを飲みこむ。
アキは、目立たないような黒いスーツを着ていた。いつもと違って、ちゃんとネクタイもしている。それから、メガネではなくサングラスをしていた。警備の仕事の時は大抵そうだ。視線を悟られることを警戒しているのだ。
目立つ格好をしているわけではない。けれど、彼はその売れっ子というモデルの女性よりずっと人目を引いた。と、少なくともスイには見えた。
「レイの所に殺人予告が来たんだってさ。その警備の人、警察の人じゃないらしいんだけどさ。男に美人だって思ったの初めてだよ。アルビノっていうの? 髪も、瞳もめっちゃ綺麗だし。あの人がここにいたら、俺絶対モデル頼むよ! だから、スイさんだけじゃないんだってー」
その時のアキの姿を思い出す。ちらりと見ただけだった。向こうは気付いてもいなかったと思う。なんだか、それが、彼との本当の距離の様で切なかった。
「てかさ。ケンジ君。ゲイなの? 綺麗なモデルさんいっぱいいたのに、警備の人って……」
話をなんとか逸らしたかった。不自然じゃないように。アキの話をしていたら、きっと気持ちが表情に出てしまうと思った。でも、あまり人との会話が得意ではないスイにはうまくいかなかった。
「ゲイってわけでもないけど……。レイも好きだし。別にモデルじゃなくても、可愛い女の子は大好きだし。でも、男でも別に抵抗ないよ。てか。性別とか、どうでもよくない? 綺麗なもんは綺麗だし」
ケンジが別の方向に話を逸らしてくれたので、スイはほっとした。そのまま、その流れに乗っかることにする。アキの話をこれ以上していたくはなかった。
「博愛主義?」
少しからかうように言うと、にこっとケンジが笑った。
人懐っこい笑顔だった。普通の大学生ってこんな感じなのかな。と思う。スイの周りにはあまり『普通の人』がいない。多分、ユキや志狼と同じくらいの年だとは思うけれど、二人とはかなり違っていると思う。
「そ。俺は美しいものなら、何でも好きなの! 美術に命捧げてるからね! だからさ、スイさん今度飲みに行こうよ」
「はあ?」
話のつながりがよくわからない。今時の若い人ってこんなのが普通なんだろうか。変なヤツだと思う。でも、人懐っこくて、悪い印象はない。もちろん、それは仕事仲間として、という意味でだが。
「それって、どんな流れだよ」
だから、スイは笑いながら答える。
「ナンパしようかという流れです!」
きっぱりと、言い切られて、不覚にもいっそ潔いと思ってしまった。
「何言ってんの。ケンジ君何歳? 大学生ってことは……20歳くらい? 俺、28だよ? おっさんなんてナンパしてないで、可愛い女の子いっぱいいるだろ?」
苦笑すると、いきなり両手を握られた。触れられるのは嫌いだけど、それを顔に出さないように注意する。別に振り払ってもよかったかな。と、思ったのは一拍置いてからだった。
「愛があれば歳の差なんて!」
だから、その手をぽいっと振り払って、スイは立ち上がった。
「5年後に出直してきなさい」
PCをスリープモードにしてから、その隣に置いておいたタバコを取って、歩き出す。
これ以上しゃべっているとなにかボロを出してしまいそうな気がしたし、親しくない相手と長く会話をしているのは正直不快だったから、逃げ出したのだ。
「美人は三日で慣れるっていうけど、慣れちゃったら俺くらいじゃだめなのか……な」
一人ごとのように呟いているケンジを残して、スイはタバコを吸うために喫煙所に向かった。
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