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Internally Flawless
20 敵地 6
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「あー。えと。とにかく……山田……さんだっけ? そのままじゃ風邪ひくから。えっと。リンちゃん。このフロアの更衣室使えるよね? たしか、シャワー室もついてたはずだし」
金髪の青年がリンに問う。
「多分。大丈夫だと思います。総務の方に聞いてきます」
ぺこりと頭を下げて、リンは走り出した。
「ホント、レイに代わって謝るよ。お詫びと言っちゃなんだけど、スタイリストの子に何か着替え見繕ってもらってくる。アキ君、ここ頼む」
金髪の青年はアキにひらりと手を振って、背中を向けた。それから、何かを思い出したようにもう一度振り返る。
「知り合いってのはバレたくないんだろ? リンちゃんにも口止めしといたほうがいいよ」
また背中を向けて、青年は歩きだした。
彼も警察経由で雇われたハウンドだ。きっと、アキやスイの立場を理解しているのだろう。
「……スイさん。ごめん。ついかっとなった……隠しときたかったよな」
ぼそりと、アキが言う。
視線はカズの去って行った方を見つめたままだった。
「や……。いいよ。も、今日にもこっちの『仕事』は終わるし。……その。うれし……かったし」
横に並んで、ぎゅっ。と、アキの服の袖を握って、答える。最後の言葉は自分でも分かるくらいに小さな声だったから、アキに届いたかどうかはわからなかった。
それから、しばしの沈黙。言うべきか、言わないでおくべきか、スイは躊躇っていた。仕事をしている以上、守らなければならない決まりがある。警察の捜査である以上、情報漏洩は服務規程違反だ。けれど、やはり、約束を破りたくはなかった。
「アキ君。俺……アキ君の顔。ちゃんと思い浮かべたよ……でも、やっぱり、やらないわけにはいかない」
だから、スイは『何を』の部分を省いて言った。それから、アキの顔を見上げると、一瞬険しい表情をしてから、彼はため息をついた。
「そうなると、思ってた」
仕方ないとアキが苦笑する。
「でも、約束は守ってくれたから、仕方ないか」
諦めたような表情に申し訳なくなる。きっと同じ立場だったら、スイだって心配すると思う。
「出来る限りの対策はするから……なにも言えなくて、ごめん」
袖を握っていた手にアキの手が重なる。その手はとても温かかった。
助けてほしいとは言わない。気になることも、怖いことも、やりきれないこともあるけれど、自分もハウンドだ。彼に別の仕事がある以上、助けを求めるわけにはいかないし、多分、この仕事は代わることも、手伝うこともできない。
「気をつけて」
一度ぎゅっとスイの手を握ってから、その手が離れる。
温もりが離れてしまったのが切なく思えて、口を開きかけた時、後ろからぱたぱたと足音がした。
「スイさん。更衣室使っていいそうです。案内しますね」
振り返ると、そこには息を切らせたリンがいた。
「……うん。上着、後で返します」
アキに向き直って言う。わざと作った他人行儀な言葉にアキは少しだけスイに視線を寄越してから、金髪の青年が向かった方を見た。
「カズさんが帰ってきたら、そっちに行くように言うから」
その言葉に頷いて、リンに続いて歩き出す。
振り向きたかった。けれど、スイは振り向きはしなかった。
金髪の青年がリンに問う。
「多分。大丈夫だと思います。総務の方に聞いてきます」
ぺこりと頭を下げて、リンは走り出した。
「ホント、レイに代わって謝るよ。お詫びと言っちゃなんだけど、スタイリストの子に何か着替え見繕ってもらってくる。アキ君、ここ頼む」
金髪の青年はアキにひらりと手を振って、背中を向けた。それから、何かを思い出したようにもう一度振り返る。
「知り合いってのはバレたくないんだろ? リンちゃんにも口止めしといたほうがいいよ」
また背中を向けて、青年は歩きだした。
彼も警察経由で雇われたハウンドだ。きっと、アキやスイの立場を理解しているのだろう。
「……スイさん。ごめん。ついかっとなった……隠しときたかったよな」
ぼそりと、アキが言う。
視線はカズの去って行った方を見つめたままだった。
「や……。いいよ。も、今日にもこっちの『仕事』は終わるし。……その。うれし……かったし」
横に並んで、ぎゅっ。と、アキの服の袖を握って、答える。最後の言葉は自分でも分かるくらいに小さな声だったから、アキに届いたかどうかはわからなかった。
それから、しばしの沈黙。言うべきか、言わないでおくべきか、スイは躊躇っていた。仕事をしている以上、守らなければならない決まりがある。警察の捜査である以上、情報漏洩は服務規程違反だ。けれど、やはり、約束を破りたくはなかった。
「アキ君。俺……アキ君の顔。ちゃんと思い浮かべたよ……でも、やっぱり、やらないわけにはいかない」
だから、スイは『何を』の部分を省いて言った。それから、アキの顔を見上げると、一瞬険しい表情をしてから、彼はため息をついた。
「そうなると、思ってた」
仕方ないとアキが苦笑する。
「でも、約束は守ってくれたから、仕方ないか」
諦めたような表情に申し訳なくなる。きっと同じ立場だったら、スイだって心配すると思う。
「出来る限りの対策はするから……なにも言えなくて、ごめん」
袖を握っていた手にアキの手が重なる。その手はとても温かかった。
助けてほしいとは言わない。気になることも、怖いことも、やりきれないこともあるけれど、自分もハウンドだ。彼に別の仕事がある以上、助けを求めるわけにはいかないし、多分、この仕事は代わることも、手伝うこともできない。
「気をつけて」
一度ぎゅっとスイの手を握ってから、その手が離れる。
温もりが離れてしまったのが切なく思えて、口を開きかけた時、後ろからぱたぱたと足音がした。
「スイさん。更衣室使っていいそうです。案内しますね」
振り返ると、そこには息を切らせたリンがいた。
「……うん。上着、後で返します」
アキに向き直って言う。わざと作った他人行儀な言葉にアキは少しだけスイに視線を寄越してから、金髪の青年が向かった方を見た。
「カズさんが帰ってきたら、そっちに行くように言うから」
その言葉に頷いて、リンに続いて歩き出す。
振り向きたかった。けれど、スイは振り向きはしなかった。
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