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ディアブロとの関係性。
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◆◇◆
ある日のことだった。
「フィーナ。少しの間、姿を消す……サバトだ」
ディアブロは、いつものように部屋の暗がりから現れ、肩をすくめた。
「面倒な集まりだが、出席しなければならない決まりでね」
「……そっか。行ってらっしゃい」
わたしは微笑んで見せたけれど、心の奥に、冷たい風が吹き抜けていくような感覚が残った。
部屋にひとり残されたわたしは、思わずつぶやく。
「ディアブロ……もう、行った?」
返事は、もちろんない。
「ふふ……何やってるんだろ、私」
誰もいない部屋でぽつりと声を出す自分が、ひどく滑稽に思えて、そっと唇を噛んだ。
(ああ、私――依存してるんだ、あの悪魔に)
知らず知らずのうちに、寂しさを埋めるように彼に語りかけていた。心を許し、寄りかかっていた。
(それは許されない。私は……復讐のためだけに契約したはずなのに)
◆◇◆
一方その頃――
悪魔たちの集う“黒のサバト”では、ディアブロの登場にざわめきが広がっていた。
「おい、本当に来たぞ! ディアブロだ!」
「人間界で“贄”と戯れてるって噂、マジなんかね?」
「ディアブロ様…本当に素敵…今日は誰が持ち帰られるのかしら」
「わたしあの方になら何をされてもいいわ」
艶やかな黒い羽根を持つ悪魔たちがざわつき、女たちは黄色い声を上げながら名を呼ぶ。
だがディアブロは一切目もくれず、玉座のような椅子にふんぞり返った。
その姿に、ある古参の悪魔がゆっくりと近づいてくる。
「……相変わらず、派手な登場だな。だが今回は、少々様子が違うようだ」
男は低く笑いながら続けた。
「噂では、お前が契約した家が約束を破ったとかで、その報復に“贄”を使って遊んでるって話だった。そこまでは、お前らしいって皆笑ってたが――」
男の声色が変わる。
「……人間界で、お前を見たって奴がいた。“贄”を守るような目で見ていた、と。信じがたいが、実は俺も見たんだ――その顔を」
ディアブロの眉がわずかに動いた。
「それがどうした。何が言いたい」
「まさかとは思うが……贄に肩入れしてるんじゃないか? ――エルフィンのようにな」
空気が一瞬、凍りつく。エルフィンは人間に恋をしてー、
“羽落とし”をした悪魔だ。
悪魔にとってそれは、最大の裏切り。力の象徴である羽根を捨て、人間になるという恥辱の極み。
その名を出した瞬間、ディアブロの周囲に凄まじい魔力の渦が巻き起こった。
「……誰に口をきいてる?」
その声は、空間を切り裂くほどに冷たく低い。
「ま、待て、ディアブロ。俺はただ、お前があの“人間”に――」
「黙れ」
低く呟いた瞬間、空間が弾け、男は膝をついて呻いた。魔力に押さえつけられ、全身を焼かれるような苦痛に、声すら出せない。
他の悪魔たちが息を呑む中、ディアブロは冷えた声で告げた。
「俺が“誰をどう扱おう”が、お前に関係があるとでも?」
やがて力を緩めると、男は肩で息をしながら、かすれた声で呟く。
「す、すまん……俺の勘違いだった。お前ほどの悪魔が、そんなはずないよな……」
ディアブロはそれ以上なにも言わず、冷たい笑みを浮かべながら立ち上がる。
「興が醒めた。もう帰る」
そのまま、サバトの場を後にした。
◆◇◆
――だが。
彼は、すぐにはフィーナのもとへ戻れなかった。
胸の奥に渦巻く苛立ちと、戸惑いと、妙な空虚感。
(俺が……フィーナに? 冗談だ)
人間なんて、玩具にすぎない。利用し、終われば捨てるもの。フィーナに対しては、“贄”として魂が熟れれば熟れるほど旨味が増すと目をかけているだけ――そう、ただそれだけのはずだった。
それなのに、あの言葉が――なぜか、引っかかって離れない。
◆◇◆
数日後。ようやくスザンヌ家へ戻ったディアブロは、笑顔で出迎えたフィーナを見て、一瞬、胸がゆるむのを感じた。
安堵している自分に、すぐに気づく。
(……笑ってんじゃねぇよ、俺)
その感情が気に入らなくて、わざと冷たく笑い返した。いつもより、わざとらしく距離を置くように。
フィーナは、すぐにその異変に気づいた。
(……ディアブロ、様子が変)
けれど、問いただすことはしなかった。ただ、気づかぬふりをして――黙って受け入れた。
そして――その翌日。
「失礼します。新しい侍女見習い、サナと申します。本日よりフィーナ様とアンナ様の補佐につかせていただきます」
茶色い髪の静かな瞳を持つ少女が、丁寧に頭を下げる。
その直後、どこか懐かしい声が、背後から聞こえた。
「初めまして、お嬢様。私はクラリスと申します。基本的にはお部屋の掃除やお食事の配膳を担当いたしますので、頻繁に出入りさせていただくことになります。どうぞ、よろしくお願いいたします」
前回はクラリスが、私とアンナの補佐として“見習い”の立場だった。
だが今回は、その役目が“サナ”に変わっていた。
(つまり――そういうことね。この“サナ”という子……この子が王子様の“密偵”)
クラリスは補佐の任を外れ、暮らしを支える役に。代わって現れた見慣れぬ少女。整いすぎた礼儀、無駄のない動き――見ればわかる。
今、すべての駒が――再び、揃い始めている。
ある日のことだった。
「フィーナ。少しの間、姿を消す……サバトだ」
ディアブロは、いつものように部屋の暗がりから現れ、肩をすくめた。
「面倒な集まりだが、出席しなければならない決まりでね」
「……そっか。行ってらっしゃい」
わたしは微笑んで見せたけれど、心の奥に、冷たい風が吹き抜けていくような感覚が残った。
部屋にひとり残されたわたしは、思わずつぶやく。
「ディアブロ……もう、行った?」
返事は、もちろんない。
「ふふ……何やってるんだろ、私」
誰もいない部屋でぽつりと声を出す自分が、ひどく滑稽に思えて、そっと唇を噛んだ。
(ああ、私――依存してるんだ、あの悪魔に)
知らず知らずのうちに、寂しさを埋めるように彼に語りかけていた。心を許し、寄りかかっていた。
(それは許されない。私は……復讐のためだけに契約したはずなのに)
◆◇◆
一方その頃――
悪魔たちの集う“黒のサバト”では、ディアブロの登場にざわめきが広がっていた。
「おい、本当に来たぞ! ディアブロだ!」
「人間界で“贄”と戯れてるって噂、マジなんかね?」
「ディアブロ様…本当に素敵…今日は誰が持ち帰られるのかしら」
「わたしあの方になら何をされてもいいわ」
艶やかな黒い羽根を持つ悪魔たちがざわつき、女たちは黄色い声を上げながら名を呼ぶ。
だがディアブロは一切目もくれず、玉座のような椅子にふんぞり返った。
その姿に、ある古参の悪魔がゆっくりと近づいてくる。
「……相変わらず、派手な登場だな。だが今回は、少々様子が違うようだ」
男は低く笑いながら続けた。
「噂では、お前が契約した家が約束を破ったとかで、その報復に“贄”を使って遊んでるって話だった。そこまでは、お前らしいって皆笑ってたが――」
男の声色が変わる。
「……人間界で、お前を見たって奴がいた。“贄”を守るような目で見ていた、と。信じがたいが、実は俺も見たんだ――その顔を」
ディアブロの眉がわずかに動いた。
「それがどうした。何が言いたい」
「まさかとは思うが……贄に肩入れしてるんじゃないか? ――エルフィンのようにな」
空気が一瞬、凍りつく。エルフィンは人間に恋をしてー、
“羽落とし”をした悪魔だ。
悪魔にとってそれは、最大の裏切り。力の象徴である羽根を捨て、人間になるという恥辱の極み。
その名を出した瞬間、ディアブロの周囲に凄まじい魔力の渦が巻き起こった。
「……誰に口をきいてる?」
その声は、空間を切り裂くほどに冷たく低い。
「ま、待て、ディアブロ。俺はただ、お前があの“人間”に――」
「黙れ」
低く呟いた瞬間、空間が弾け、男は膝をついて呻いた。魔力に押さえつけられ、全身を焼かれるような苦痛に、声すら出せない。
他の悪魔たちが息を呑む中、ディアブロは冷えた声で告げた。
「俺が“誰をどう扱おう”が、お前に関係があるとでも?」
やがて力を緩めると、男は肩で息をしながら、かすれた声で呟く。
「す、すまん……俺の勘違いだった。お前ほどの悪魔が、そんなはずないよな……」
ディアブロはそれ以上なにも言わず、冷たい笑みを浮かべながら立ち上がる。
「興が醒めた。もう帰る」
そのまま、サバトの場を後にした。
◆◇◆
――だが。
彼は、すぐにはフィーナのもとへ戻れなかった。
胸の奥に渦巻く苛立ちと、戸惑いと、妙な空虚感。
(俺が……フィーナに? 冗談だ)
人間なんて、玩具にすぎない。利用し、終われば捨てるもの。フィーナに対しては、“贄”として魂が熟れれば熟れるほど旨味が増すと目をかけているだけ――そう、ただそれだけのはずだった。
それなのに、あの言葉が――なぜか、引っかかって離れない。
◆◇◆
数日後。ようやくスザンヌ家へ戻ったディアブロは、笑顔で出迎えたフィーナを見て、一瞬、胸がゆるむのを感じた。
安堵している自分に、すぐに気づく。
(……笑ってんじゃねぇよ、俺)
その感情が気に入らなくて、わざと冷たく笑い返した。いつもより、わざとらしく距離を置くように。
フィーナは、すぐにその異変に気づいた。
(……ディアブロ、様子が変)
けれど、問いただすことはしなかった。ただ、気づかぬふりをして――黙って受け入れた。
そして――その翌日。
「失礼します。新しい侍女見習い、サナと申します。本日よりフィーナ様とアンナ様の補佐につかせていただきます」
茶色い髪の静かな瞳を持つ少女が、丁寧に頭を下げる。
その直後、どこか懐かしい声が、背後から聞こえた。
「初めまして、お嬢様。私はクラリスと申します。基本的にはお部屋の掃除やお食事の配膳を担当いたしますので、頻繁に出入りさせていただくことになります。どうぞ、よろしくお願いいたします」
前回はクラリスが、私とアンナの補佐として“見習い”の立場だった。
だが今回は、その役目が“サナ”に変わっていた。
(つまり――そういうことね。この“サナ”という子……この子が王子様の“密偵”)
クラリスは補佐の任を外れ、暮らしを支える役に。代わって現れた見慣れぬ少女。整いすぎた礼儀、無駄のない動き――見ればわかる。
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