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王子様からの手紙。
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◆◇◆
ディアブロの気配は、ここ数日、わたしの前からすっかり消えていた。
呼べば現れるはずの彼が、応じない。……まるで、わたしの声に、わざと耳を塞いでいるようにさえ思えた。
(……わたし、嫌われたのかな)
目を閉じれば、彼の冷たい視線と、「助けてる理由は、お前の魂が美味くなるためだ」という、あの言葉が蘇る。
何度も聞かされてきた、皮肉で、冷笑に満ちた“悪魔らしい”言葉。
けれど――あの時だけは、違って聞こえた。
彼の目に、ほんの一瞬でも揺らぎが見えた気がして。
その言葉の裏に、何か別の想いが隠れているような気がして。
だからこそ、余計に、胸に深く突き刺さったのだ。
(どうして……こんなにも、痛むの?)
そんなはずじゃなかった。
わたしは復讐のために、彼と契約した。命を捨て、時間を巻き戻してまで手に入れた、唯一の力だったはずなのに。
――それでも、前に進まなければならない。
もう、わたしはすべてを知ってしまったのだから。
そんなある日の夕刻。
いつもと変わらぬ部屋の扉を、コン、コン、と控えめなノックが叩いた。
「……失礼いたします、フィーナ様。おひとりでいらっしゃいますか?」
わたしが頷くと、サナは静かに扉を閉めた。足音を忍ばせながら近づき、袖の内から一通の封筒を差し出す。
「――我が主より、お手紙でございます」
「……主?」
思わず聞き返すと、サナは微笑を浮かべただけだった。
けれど、その瞳に宿る一瞬の輝きに、わたしはあの夜の光景――蒼い瞳の王子を、思い出す。
指先で封を裂き、便箋を静かに広げた。
『きっと、君は気づいていたと思う。
この手紙を運ぶ彼女が、僕の密偵であることを。
賢い君なら――あの夜、僕の目をまっすぐに見ていた君なら、きっと見抜いていたはずだ。
サナから報告を受けたよ。君の“家”での扱いが、あまりにも不自然であると。
外では、君はスザンヌ家の長女として扱われている。けれど、本人の性格を理由に、社交の場にはほとんど出ず、友人らしい友人もいない。
そして家の中では、長女としての権利も立場も与えられず、こき使われている。
誰かが意図的に――君という存在を、隠そうとしているんだ。これは偶然ではない。計画的な、意志のある行為だと、僕は確信している。
それが、君の“本当の立場”にどう関わっているのか。
僕は、必ず調べてみせる。真実を暴くと、ここに誓おう。
そして……もし可能ならば。
この手紙を読んだ君が、僕を少しでも信じてくれるのなら、
サナを通して、誰にも知られぬ形で一度だけ、会えないだろうか。
君の口から、君の言葉で、直接話を聞きたい。これは、王子としてではなく……ひとりの男としての願いだ。
君を助けたい。心から、そう思っている。
リオネル・ヴァルト』
――思わず、息を呑んだ。
手紙の端を握る指が、細かく震えている。
この時を、待っていたはずだ…。
王子を味方につけて、スザンヌ家に報いを受けさせる。
そのために、この命を賭けてきたのに。
なのに今、胸の奥に広がるこのざわめきは何?
彼の言葉が、あまりにも真っ直ぐで――優しすぎて。
(……いいえ。迷っては、駄目)
わたしは静かに目を伏せる。
(そうしなければ、私は復讐を遂げることも、生き延びることもできない)
わかってる。これはチャンス。
彼に悪いなんて思ってはいけない。私は悪魔と契約をしてまで復讐を誓ったのだから誰を利用しようと成し遂げなければならないんだ。
その夜もまた、わたしはディアブロの名を呼んだ。
けれど返ってくるのは、沈黙だけ。
闇に包まれた静かな部屋で、わたしはそっと手紙を胸に抱きしめる。
ぬくもりのない夜に、震える心がとても寒く感じた。
ディアブロの気配は、ここ数日、わたしの前からすっかり消えていた。
呼べば現れるはずの彼が、応じない。……まるで、わたしの声に、わざと耳を塞いでいるようにさえ思えた。
(……わたし、嫌われたのかな)
目を閉じれば、彼の冷たい視線と、「助けてる理由は、お前の魂が美味くなるためだ」という、あの言葉が蘇る。
何度も聞かされてきた、皮肉で、冷笑に満ちた“悪魔らしい”言葉。
けれど――あの時だけは、違って聞こえた。
彼の目に、ほんの一瞬でも揺らぎが見えた気がして。
その言葉の裏に、何か別の想いが隠れているような気がして。
だからこそ、余計に、胸に深く突き刺さったのだ。
(どうして……こんなにも、痛むの?)
そんなはずじゃなかった。
わたしは復讐のために、彼と契約した。命を捨て、時間を巻き戻してまで手に入れた、唯一の力だったはずなのに。
――それでも、前に進まなければならない。
もう、わたしはすべてを知ってしまったのだから。
そんなある日の夕刻。
いつもと変わらぬ部屋の扉を、コン、コン、と控えめなノックが叩いた。
「……失礼いたします、フィーナ様。おひとりでいらっしゃいますか?」
わたしが頷くと、サナは静かに扉を閉めた。足音を忍ばせながら近づき、袖の内から一通の封筒を差し出す。
「――我が主より、お手紙でございます」
「……主?」
思わず聞き返すと、サナは微笑を浮かべただけだった。
けれど、その瞳に宿る一瞬の輝きに、わたしはあの夜の光景――蒼い瞳の王子を、思い出す。
指先で封を裂き、便箋を静かに広げた。
『きっと、君は気づいていたと思う。
この手紙を運ぶ彼女が、僕の密偵であることを。
賢い君なら――あの夜、僕の目をまっすぐに見ていた君なら、きっと見抜いていたはずだ。
サナから報告を受けたよ。君の“家”での扱いが、あまりにも不自然であると。
外では、君はスザンヌ家の長女として扱われている。けれど、本人の性格を理由に、社交の場にはほとんど出ず、友人らしい友人もいない。
そして家の中では、長女としての権利も立場も与えられず、こき使われている。
誰かが意図的に――君という存在を、隠そうとしているんだ。これは偶然ではない。計画的な、意志のある行為だと、僕は確信している。
それが、君の“本当の立場”にどう関わっているのか。
僕は、必ず調べてみせる。真実を暴くと、ここに誓おう。
そして……もし可能ならば。
この手紙を読んだ君が、僕を少しでも信じてくれるのなら、
サナを通して、誰にも知られぬ形で一度だけ、会えないだろうか。
君の口から、君の言葉で、直接話を聞きたい。これは、王子としてではなく……ひとりの男としての願いだ。
君を助けたい。心から、そう思っている。
リオネル・ヴァルト』
――思わず、息を呑んだ。
手紙の端を握る指が、細かく震えている。
この時を、待っていたはずだ…。
王子を味方につけて、スザンヌ家に報いを受けさせる。
そのために、この命を賭けてきたのに。
なのに今、胸の奥に広がるこのざわめきは何?
彼の言葉が、あまりにも真っ直ぐで――優しすぎて。
(……いいえ。迷っては、駄目)
わたしは静かに目を伏せる。
(そうしなければ、私は復讐を遂げることも、生き延びることもできない)
わかってる。これはチャンス。
彼に悪いなんて思ってはいけない。私は悪魔と契約をしてまで復讐を誓ったのだから誰を利用しようと成し遂げなければならないんだ。
その夜もまた、わたしはディアブロの名を呼んだ。
けれど返ってくるのは、沈黙だけ。
闇に包まれた静かな部屋で、わたしはそっと手紙を胸に抱きしめる。
ぬくもりのない夜に、震える心がとても寒く感じた。
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