悪魔に捧げた願い

さき

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時は流れフィーナ14歳。

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◆◇◆


それから、スザンナ家の秘密を明かせないまま時は過ぎ十四歳になった私は、今もスザンヌ家の“長女”という仮面をかぶりながら、日々を静かに過ごしている。

アンナは十三歳、兄様は十六歳。年月は確かに過ぎたというのに、変わらないものも、変わってしまったものもある。



まずは、クラリスのこと。

彼女が私の秘密にどう気づいたのか。それをサナと共有し、王子に繋げるはずだった。でも、彼女を死なせたくなかった。

だから、彼女を屋敷から離した。

その結果、何も掴めなくなってしまった。
秘密に辿りつく“瞬間”は、霧の中に消えた。

だけど……それでも、私は歩みを止めていない。

王子との密会は、今も続いている。
サナを通じて文のやり取りだけでなく、月に1回多い時は2~3回と密会しては仲を深めた。
その中で、彼から婚約者となれば公としても守れるんじゃないかという打診があった。だけど、証拠もない中で私を婚約者にしてもアンナしか地獄に落とせない。

確かに、私という存在は公になるし、アンナは絶望するだろう。
でも、婚約者だからとて王家の結婚だ。むしろ純潔は守られるからこそ、逆に16まで生かされてどうにかディアブロに差し出そうとしてくるだろう。そして私を不慮の事故とでもいい妹のアンナを代わりにしようとするだろう事は目に見えていた。

ただ、そうなると私でさえどうなるかがわからなくなってしまうので、それは上手く断った。ぜひ、こうして秘密の友として助けて欲しいと。社交では知らぬ振りをしてくれとそうではないとアンナに虐められてしまうからと

だから春と秋の社交シーズンに、年に数度だけ参加を許される舞踏会では、彼は決して気軽に声をかけたりはしない。私の立場を察し、あくまで“王子”としての振る舞いを崩さず、それでいて――ほんの一瞬、視線を交わすだけで、すべてが伝わるようになった。

密やかで、それでいて確かな絆。

私は、リオネル様の前ではいつの間にか“フィーナ”でいられるようになった。それはまるで本当の友のようだった。

けれど……屋敷の中では、違った。

 

兄様――レオンは、アカデミーを卒業し、騎士学校に入った。逞しくなった身体、鋭くなった目つき。昔よりもずっと大人びて、そして距離が奇妙なほど近くなった。

優しさよりも、独占欲が増していった眼差しで、私を見つめてくる。

「フィーナあんまり肌を出すな。……見られたら腹立つんだよ」

「……兄様、これはただのドレスよ。貴族の子女として普通の」

「だからって、お前は……誰の目に晒してもいいもんじゃねぇだろ」

それは、兄としての忠告ではない。“女”として私を囲い込もうとする、どこか歪んだ執着。

近くにいればいるほど、兄様の中で私の“立場”が変わっていくのを、私はもう痛いほど感じていた。
そして何より、私が拒まず兄を慕っていたからこそ嫌がらせはないものの、触れ合おうとしてくる事が増えていた。ことある事に私を抱きしめたり、首元に顔を埋めたり、兄妹ではありえない触れ方になっていた。

 

そして、アンナ。

あの子は、ますます“お姫様”としての自信をつけていった。何をしても咎められず、周囲には愛想よく、家の中ではわがままで、そして――私には容赦がなかった。

「お姉さまって、本当に地味。あ、でも目だけは綺麗かも? そういうところだけ母様に似ちゃって、なんだか可哀想よね」

「……そうね。ありがとう、アンナ」

「別に褒めてないわ?」

小さな刺を仕込んだ言葉。日々の無言の嫌がらせ。メイドの前で私を「失敗作」と嘲ることすら、日常茶飯事になっていた。

アンナは、王子に夢中だった。夢中で、必死で、そして……誰よりも“私を敵視”していた。

私が、どんなに何もしていなくても。

 

(やっぱり、この家は変わらない)

兄様も、アンナも、あの頃と同じように歪んだまま。

――でも、私だけは変わった。

王子を利用しようとしていたのに、いつの間にか友のようになり、ディアブロとの“契約”がある。もう、ただ虐げられているだけの私ではない。

あの日、クラリスを送り出したことは、きっと正しかった。

あの優しい人を、この泥のような世界に染めてはいけなかったのだ。

 

だから私は、静かに微笑む。

今日も従順な“令嬢”を演じながら、誰よりも冷静に、炎を燃やしている。

復讐の、その時まで。
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