あなたの愛はもう要りません。

たろ

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101話

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「さあ、ビアンカも旅立った。ダイガット君、ゆっくり話そうか?」

「えっ?」
 後ろから聞こえてくるその声にアッシュとダイガットが振り向いた。

「カイさん?」「カイ殿?」

「いやぁ、アッシュと話そうと思ったらダイガット君が、また無駄なことをし始めたから面白くて見物させてもらっていたよ」

 ゲラゲラ笑うカイにつられアッシュも苦笑いをした。

 ダイガットは真っ赤な顔になり「失礼な!笑うな!」と怒りをあらわにしたが、カイの鋭い視線にそれ以上は何も言えずに顔を歪めながらも黙った。

「まあ、せっかくだからダイガット、君、屋敷に入って話そう」

「こいつを屋敷に入れるんですか?」

 あからさまに嫌な顔をするアッシュにムッとしながら「僕だって嫌です」と文句を言い返すダイガット。

「ダイガット、君さ、実家の侯爵家から再三帰ってくるように手紙が来て人も寄越しているのに無視してるらしいね」

「………無視はしていません」

「ちょっとじっくり話そうか、な?」

 カイはダイガットの肩を掴んでニヤッと笑い、屋敷へと促した。

 渋々ダイガットは屋敷へ向かう。

「そう言えばダイガット、馬に乗っていたがもう下半身は大丈夫なのか?」

「ゴホッゴホッ」

 ダイガットは飲んでいたお茶を口から吐き出した。

「な、なんで……ゴ、ゴホッ」

「俺を誰だと思っているんだ?情報は宝だぞ。お前の面白い話はしっかり聞いているぞ。妻がいると思っていたくせに幼馴染を大事にして、迫られてついその気になって抱いてしまったんだろう?」

「そ、そんな露骨な言い方を……」

「それも初恋はビアンカだったらしいな?それなのに大事にしないなんて、もったいなかったな。ビアンカは聡明で美しい。これから先さらに注目されていくだろう。あの子が領地でどれだけ活躍するか楽しみだ」

「だ、だから、ビアンカに謝罪して……もう一度……」

「「無理だな」」

 アッシュとカイの声が重なった。

「君はもう子供が産まれるんだろう?」

「ああ、そうらしいな。嘘つきだけどお胸が大きい可愛らしい令嬢だと聞いたぞ。嘘つきだけどな」

「……フ、フランソアは…傷つきやすくて、か弱いだけだ!嘘つきなんてそんな……子供は生まれる……だから責任を取って入籍はするつもりだ。でも彼女では侯爵家の妻は務まらない。だからもう一度ビアンカに……」

「はっ?ビアンカを第二夫人にでもして侯爵家の仕事をさせるつもりだったのか?」

 アッシュはテーブルをバンッと叩き、怒鳴った。

「だ、だって……いや、違う!俺はビアンカが好きなんだ!」

「ビアンカはお前のことなんてなんとも思っていない!さっきもそう言われただろう!」

「そんな……この国に会いにわざわざ来たのに……」

「アッシュ、そんなに腹を立てるな。もうこいつはこの国に足を踏み入れることはない」

「は?」

「この国への入国許可はお前に下りることは二度とない。強制送還だ。ビアンカが襲われそうになった原因の一つはお前が邪魔をしたからだ。お前の国に苦情を申し立てておいた」

「そんな……俺はただビアンカに会いたいだけだったのに」

「お前をこの国から追い出すためにホテルへ行ったら侯爵家へ来ているとわかって慌ててこっちへ来たんだ」

「追い出すって……今すぐ?」

「当たり前だろう?強制送還の許可が下りたんだからな。こちらから護衛騎士をつけて向こうに送り届けてやる。費用はもちろんそちらの侯爵家持ちだがな」

 ダイガットの顔は赤くなったり青くなったり忙しかった。最後には血の気が引いて真っ白になり頭をガックリとうなだれていた。

 アッシュはそんなダイガットに「さっさと失せろ!屋敷が腐る!」と力なく項垂れるダイガットを蹴散らすようにソファから立たせ追い出した。

「アッシュ、ダイガットの護衛騎士の中に紛らせて出国させる。向こうの王妃達からの許可もおりた」

「………わかりました」

「最後の別れは?」

「お気遣いには及びません」

「いいのか?」

「今更知ってしまっても心は動きません」

「わかった。では、今からすぐにダイガットと共に旅立ちにしよう。俺も、この国を出るところまでは付き合うつもりだ」

「よろしくお願いします………あっ………」

 アッシュは何か言いかけたがそのまま沈黙した。
 右手は真っ白になるほど強く握りしめられているのをカイは黙ったまま見て、「じゃあ行ってくる」と喚くダイガットを連れて屋敷を出て行った。


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