あなたの愛はもう要りません。

たろ

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110話

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 アッシュは何も気付かずにソファに座ると私が作ったケーキを美味しそうに食べ始めた。

「ビアンカ?どうした?美味いぞ。お前も食え」

「ええ、いただくわ」
 
 フォークを手に持ったまま、手が動かずにいた。

 どう話を切り出せばいいのか考えてしまい、ただじっとアッシュの姿を見つめていたようだった。

 アッシュはそんな私のおかしな様子に気がついていて、食べるのをやめてこちらを見た。

「ビアンカは何が聞きたいんだ?言ってごらん?」

 とても優しい話し方になぜかビクッとした。
 みんなの優しさに甘えすぎていたのかもしれない。耳を塞いで目を固く閉じて、自分の心だけを守りすぎて、周りが見えなくなっていた気がする。

 だから、自分を守ることだけに必死になって周りが見えず、守られていたのに、今更傷つくかもしれないのに、質問しようとしている自分に呆れ、自分に対して腹が立った。

 なんてわがままなんだろう。
 当たり前のように守られていたのに。

 それでも……訊かずにはいられなかった。
 

「…………アッシュは……フェリックス様が…今どうしているか知ってるかしら?」

 フェリックス様の病のことは伏せて訊くことにした。

 ミリル殿下の生存のことや手紙のこと、フェリックス様の病のことも、誰かに話すつもりはない。

「フェリックス?ああ、彼は…………ハア……」

「………???」

 私の顔をじっと見つめ、ため息をつくアッシュ。

「アッシュ?」

「うん?君に誰が何か情報を与えたのか?
 ………カイ殿か?確か今日の昼間、カイ殿が屋敷に顔を出したと聞いたが、彼は何を話した?」

 お互い何を知っているのか腹の探り合いのような気分だ。

 どこまで話せばいいのかつい言い淀んでしまう。

「フェリックス様が……私の前から去ったと……それはどういう意味なのか……知りたくて……ただ、もう王都に行かない限り会わないということなのか……どこかへ行ってしまったのか………知りたかったの」

「去った………か…」

 アッシュは少し考えながら話し始めた。

「うん、そうかもしれないな。フェリックスはオリソン国を去ったんだ。
 ビアンカと別れミリルとの婚約も解消された。この国に彼がいる意味はもうなくなったんだと思う……ビアンカに何も告げずに去ったけど、言い訳なんて出来なかったんだと思う」

「………」

 出来なかった?どうして?
 何も言わない。何も伝えてくれない。それが、知らないことが、どれだけ傷つくか彼は分かっていない。

「あいつはあいつなりに、今回のことを受け入れてミリルと婚約したんだ。言い訳をして、さらに君を傷つけたくなかったんだと思う」

「言い訳くらいしてほしかったわ。何も知らされずに突然目の前で他の人と仲良くする姿を見せつけられて………傷つかないわけないでしょう?これだけ傷つけて一言くらい言い訳してほしかったわ」

「あいつは……人前で弱音を吐かないだろう?感情をあまり出さないように育ったはずだ」

 うん、確かに。彼は王子だったから、感情を表に出さないように厳しくコントロールされていた。でも私の前では、口は悪いし怒ったり笑ったり、隠してなんかいなかった。

 なのに、彼が変わったのは、ミリル殿下のことがあって?違う……それはきっかけに過ぎない。

 フェリックス様は自分の病気を知って、自ら私から離れたんだ……

 いずれ死に行くから?情けない姿を見せたくなかった?私がそばにいる必要はもうなかった?

 そう思うともう終わった恋なのに涙が溢れた。

 アッシュはフェリックス様の病気のことは知らないようだ。

「フェリックスがどこに行ったかは知らない。お前はミリルと婚約解消してからのフェリックスのことを何も訊かないから知りたくなかったのだろうと思っていた」

「………うん……もう終わったことだと思ってた」

「だったら、それでいいだろう?」

「………ううん、ダメ。私、どうしても彼に会わなきゃいけないの。終わらせるならちゃんと最後に向き合わなきゃ」

「はああ……本家の公爵家も行方は知らないと言ってた。カイ殿がここに来たんだろう?彼なら知ってるかもしれない」

「カイさん?………そうね、わかった」

 私はすぐに立ち上がり、カイさんを訪ねようと思った。

 部屋から出て行こうとしたらアッシュが後ろからポツリと言った。

「ビアンカ……お前まだ………いや、うん、逃げずに向き合わないと、うん、そうだよな、俺も……うん……」

 私はアッシュが最後まで何か言おうとしていたのを見たけど、その言葉を聞かずにカイさんが泊まっているホテルへと向かった。





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