あなたの愛はもう要りません。

たろ

文字の大きさ
122 / 125

122話

しおりを挟む
 アッシュは話を誤魔化すようにルシア国のことを聞いてきた。

 私は向こうでのことを話した。
 大自然に圧倒され、とても景色が素敵だったこと。
 町はそれなりに賑やかで料理も珍しいものが多くとてもおいしかったこと。できれば食材も輸入したいくらいだった。
 こちらの領地で栽培できないか検討するのも一つかもしれない。
 織物の技術はとても優秀で、こちらの国で売り出せば、貴族達は喜んで手に取るだろうことも伝えた。

 もうすぐ向こうで注文したドレスや普段使いでも着られるワンピースなどが届くので、社交界に紹介するつもりだと伝えた。

 アッシュは私の話を楽しそうに聞いてくれた。
 お祖母様の時も同じだったけど、不思議なくらいフェリックス様のことは口から何も出てこない。
 先ほど、お祖母様がフェリックス様のことを話したのは私に状況を知らせるためのサクさんからのメッセージのような気がする。

 ふと思う。

 サクさんは、いまどうしているのかしら?
 不思議な人。
 魔法使いって少し……どこか変わっている。まるで存在しないかのように突然現れ、そしてサッと消えてしまう。

 人の心などお構いなしに。だけど、腹が立たない。

 またいつか彼に出会える時が来る気がする。

 それからは、何事もなく時間は静かに経っていた。

 お祖母様も領地の静養から王都へと帰ることになった。

「ビアンカはそろそろ王都に顔を出すべきだわ」

 社交界にルシア国の織物を紹介するには王都へ行き、舞踏会やお茶会に参加するべきなのはわかっていた。

 でも……

「お祖母様、アッシュはもうすぐ結婚するのでしょう?私が屋敷に行けば何かとお邪魔になると思います。ですから今はこの織物を紹介するのをこの領地から始めるつもりです」

「あら?侯爵家の屋敷は他にもたくさんあるわ。あなたが気を使うなら他の屋敷に泊まればいいことじゃない?それに、あなたを邪魔者扱いするような嫁なら要らないわ」

「ふふ。アッシュは侯爵家当主になる人ですよ?アッシュの妻になるフリージア様は侯爵令嬢でしょう?彼に似合う令嬢はなかなかいないと思います。せっかくの良縁を私が壊すなんて絶対嫌です。小姑は大人しく領地にいるのが一番いいんです。お二人が幸せに暮らし始めてから王都に顔を出しますわ」

 そう、二人が落ち着いた頃には、フェリックス様も王都で公爵家の跡取りとして立派に仕事をされていることだろう。
 もしかしたら婚約…ううん、結婚しているかもしれない。

 私は静かにこの場所で生きていく。

「ビアンカったら、小姑なんて言わないでちょうだい!あなたは私達の大切な家族なのよ?」

 お祖母様は寂しそうな顔をしたけど、私は頑なに王都行きを拒んだ。

 アッシュの邪魔をしたくないのも本当のこと。私の初恋だったアッシュ。

 今は侯爵家の養女となりアッシュの妹になったけど、醜聞は今もなお残っていて、義母に虐げられてきたことも父に冷遇されたことも、このオリソン国でも知れ渡っている。

 そんな私を大切に守ってくれている侯爵家のために尽くして生きるのもいいかもしれない。

 今はそう思っている。
 領地の子供達も貧しくても逞しくて可愛い。この子達の将来が少しでも明るい未来を生きていければいいなと思っている。

 そのためにも、今はここで踏ん張って頑張ろう。

 お祖母様が王都へ帰り、またいつもの生活が始まった。



「ビアンカ様!勉強を習いに来たよ!」

 子供達の元気な声が聞こえる。

 シズナ達も授業の準備を始めていた。

 私もみんなが入ってくるのを笑顔で迎えた。

「いらっしゃい。今日も楽しくお勉強をしましょう」

「うん!」

「ビアンカ様、昨日ね、わたしね、おとうさんの仕入れについて行って、お金の計算したんだ。すごいってほめられたよ!」

「ミリは計算が得意だものね。もっと大きな数字も計算できるように頑張りましょう」

「もっと?数字って1000より大きい数字があるの?」

「たくさん覚えたら、お店屋さんで働くこともできるわ」

「そしたら、おとうさんとおかあさん、少しはラクになる?」

「そうね、楽になると思うわ。でもそれよりも、ミリが頑張ってる姿を見れることが二人は誇らしくて嬉しいと思うわ」

「そっか、じゃあ、がんばろう」

 子供達に勉強を教えてシズナ達と休憩をしていると、ふっと目が回る。

「ビアンカ様??」

「あ……うん、少し疲れたみたい。次の授業まで時間があるから、奥の部屋で休憩してもいいかしら?」

 そう言ってソファから立とうとして、目の前が真っ暗になった。

 そしてそのままソファに倒れてしまった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う

ましろ
恋愛
「赤ちゃんができたの」 母の言葉に目眩がした。 我が家の両親は恋愛結婚。身分差から駆け落ち同然で一緒になった二人は未だにその愛は消えず、燃え上がり続けているのだからある意味凄いわ。 でもね? どうしてそんなにも子どもを作ってしまうの⁉ 私を入れて子どもは七人。お父さんの給料ではお手伝いさんなんか雇えるわけもなく、おっとりしたお嬢様気質の抜けないお母さんだけで家事育児などできるはずもなく。 そうなると働き手は長女の私だ。 ずっと小さな頃から弟妹のお世話と家事に明け暮れ、それなのにまだ産むと言うの? 「……ねえ、お母さんにとって子どもって何?」 「うふふ。それはね、愛の結晶よ」 愛。愛って何? 私はあなたの愛のために働き詰めなのですけど? 自分達の手に余るなら、そんなモノなど捨ててしまえっ! ❦R-15は保険です。 連載中のものが止まったままのくせに!とは言わないで(泣) 現在、作業中のものがなかなか終わらなくて息抜きのための不定期連載です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

処理中です...