あなたの愛はもう要りません。

たろ

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125話

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「ジェイ、おいで!」

「かぁさま!」

 私が呼ぶとジェイは振り返り、手を伸ばしてくる愛おしい娘。

 私の胸に飛び込んでくると、そのまま抱き抱えて頬擦りした。

「かぁさま、おかえりなさいませっ」
 ジェイが私の腕の中から、そっと見上げて私の顔を心配そうに覗く。
「つかれた?だいじょうぶ?」

「ふふ。疲れていないわ。シズナとヨハンと今日は何していたの?」

 昨日まで体調を崩して仕事を休んでいたから、ジェイに心配をかけてしまった。

「えっとぉ、はたけで、ハーブとってた」

「お手伝い?ありがとう」

「うん、いっぱいとったの。あとね、それをいっぱいひろげて、かんそうさせるのもてつだったよ。かぁさまのからだ、げんきになるかな?」

 小さな手を使って一生懸命に動かして話してくれた。

「じゃあ、美味しいハーブティーが飲めるわね、それにお薬にもなるし、ありがとう。ジェイは素敵なお仕事をしたのね」

「れもんぐらすにみんと、かもみーる、えっとぉ、それから…たいむに、ろーず」

「まあ!そんなに名前が言えるの?」

「ヨハンが教えてくれるの」

 ヨハンはシズナがこの国で出会って結婚した相手。

 侯爵家を出てから5年経った今、私は娘と二人で小さな家で暮らしている。

 最初の頃はシズナも一緒に暮らしていた。でも一昨年、シズナもヨハンと結婚して別々に暮らし、今はヨハンが営む農園の手伝いをシズナはしている。

 昼間、仕事がある私はシズナ夫妻にジェイを預けている。

 ジェイはヨハンに懐き、ヨハンの仕事場について行き、本人は仕事を手伝っているつもりでいる。

「ヨハン、いつもジェイが邪魔してごめんなさい」

「じゃましてない!てつだってるの!」

「ジェイは働き者ですよ?なっ?」
 ヨハンは我が子のようにジェイを可愛がってくれる。この国に来てから何かと力になってくれた。

「うん!ミリィのおせわもしたよ」

「ミリィの?」

「はい、ジェイがあやしてくれたおかげで、泣きやんだんです」

「へへへ、かぁさま!えらい?すごい?」

 ジェイは4歳。大人の世界で過ごしているからなのか少しおませさんかもしれない。

 ミリィは、1歳になったばかりのシズナ達の子供。ジェイはお姉ちゃんになったつもりでとても可愛がっている。

 ジェイの手を握り、二人にお礼を言ってミリィはまだ寝ているとのことで、そっと覗いてから自宅へ帰った。

 シズナ達の家から私が住む家は歩いて10分ほどの距離。

 シズナ達は一緒に暮らさないかと言ってくれたけど、流石に新婚家庭にお邪魔するのは嫌だし、私もそろそろ独り立ちしないと。
 ジェイも4歳になり、昼間は本来ならこの地域にある子ども園に預けて働くのだけど、私はこの国の永住権を持っていないため預けられない。
 預けるならば外国人のため、高額な保育料がかかる。

 ジェイの父親の証明書とオリソン国での身分証明書がなければ、今住んでいる国…ルシア国の国民にはなれない。

 オリソン国から逃げるようにやってきた。でもあと一年、この国で真面目に働き税金をきちんと払えば、国民として認められる。

 だから申し訳ないけど、まだシズナ達に頼りながらなんとか暮らしていた。

 5年前旅の途中、男達に騙され持っていたお金を取り上げられた。

 どうすればいいのか途方に暮れていた時助けてくれたのが、ミリル殿下だった。

 ううん、ミリル殿下は名前を変え、アリアと名乗っていた。

 アリアは平民となり、今はカイさんのもとで『影』として仕事をしている。

 アリアはちょうどルシア国に潜伏することになっていて、私とシズナも共に連れてきてくれた。

 女三人で暮らせば周りにも怪しまれないからと笑って言った。

 アリアは2年この国で暮らしオリソン国へ帰って行った。今も時々、カイさんと顔を出しに来てくれる。

 カイさんは侯爵家のことを話してくれる。そして、二人に頼んで手紙を届けてもらう。

 元気でいること、娘のこと。

 どうして侯爵家から出て行ったのかも今は理解してくれている。納得はしていないけど。


 いつでも帰って来られるようにと、部屋を準備して待っていてくれている。

 でも……
 ジェイはフェリックス様にそっくりだ。

 カイさんもアリアも分かっていて何も聞かないでくれている。

 私は彼との最後の思い出のあるこの国でジェイを育てながら生きていくつもりだ。




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