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137話 フェリックス編
「妻は?」
「奥様は最上階の部屋を借りております」
「わかった」
フェリックスは一気に階段を駆け上がった。
鍵は部下から受け取っていたため、ノックをせずに鍵を開けて部屋に入った。
「………あら?」
マリエルはフェリックスが来ることはわかっていたのだろう。
嬉しそうに微笑んだ。
「貴方……お待ちしていましたわ。でもノックもせずにいきなり入って来るなんて、少し失礼だと思いません?」
苦笑してはいても腹を立てることもなくすぐに部屋に通してソファに座ることを勧めた。
「ジェイは?」
フェリックスは部屋をキョロキョロと見回した。
最上階の一番広い部屋は、ベッドエリアとリビングエリアに分かれ、付人達の控え室やキッチン、豪華なビューバスや一部屋全てがウォークインクローゼットになっていて、小さな屋敷と変わらない広さがある。
ジェイが見当たらないのに眉根を寄せ、マリエルを睨んだ。
フェリックスの部下達は急いでジェイを探し始めた。
「あら?あの子は今ベッドでお昼寝中よ?」
「昼寝?」
まだ4歳なので昼寝をするのは当たり前だが、連れ去られて怖い思いをしているのにのんびり昼寝をするものだろうか?
周囲に控えているマリエルの付き人のメイド達に視線を移した。
「寝ているのか?」
「………は、はい」
消え入るような小さな声で返事をするメイド。
ビクビクとして目を合わせないようにするメイド。
真っ青な顔で今にも泣き出しそうなメイド。
フェリックスは、そんなメイド達の様子に低い声で怒りを込めて言った。
「案内しろ」
「はい!」
ビクッと肩を上げ慌てて扉へと向かったメイド。
部下達はフェリックスが目の前を通るのを見守りつつ、マリエルが連れてきた護衛達にヘタに動かないように牽制していた。
メイドは奥の部屋の扉の鍵を開けて、「こ、こちらです」とフェリックスを案内した。
「旦那様、寝ている子を起こすの?もうしばらく放っておけばいいのに」
フェリックスの後ろからマリエルの声がした。
心配している声ではなかった。焦ってもいない。
マリエルはただ、思ったことを口にしただけだった。
「様子を見るだけだ」
「そう……でも起きないと思うわ」
フェリックスが振り返りマリエルを見た。
「ふふふっ。だって、ねえ?」
メイドや護衛達を見ながら楽しそうに笑った。
マリエルについて来ていたみんなは顔を引きつらせていた。
フェリックスと目を合わせることを恐れて、みんな視線を逸らしていた。
「なんだ?答えろ?」
「ああ、怖い、怖い。ただ、あまりにも泣いてうるさいから薬で眠らせただけよ。しばらくは起きないわ」
「なんてことを!すぐに医者を呼べ!」
フェリックスは目を見開き怒鳴り上げた。
「はい」
そばに居たフェリックスの部下は急いで部屋を出て行った。
「心配しなくても大丈夫よ?危害を加えたわけではないわ」
のんびりと話すマリエル。本人は至って悪いことをしたとは思っていない。
優雅にカップを取り、ちょうど飲み頃になった紅茶をゆっくりと飲み始めた。
フェリックスが睨んでいても気にもとめずに言った。
「美味しいわ。貴女、淹れるのが上手ね?この茶葉はどこで作られたの?ぜひオリソン国に持って帰りたいわ」
のんびりと話し始めた。
「マリエル!」
「もう旦那様!イライラしないの!父親になるのでしょう?どっしり構えないと、ね?」
「ふふふ」と微笑んで、また一口紅茶を飲んだ。
「君はなぜジェイを連れ去った?なぜこの国に来た?」
「連れ去った?違うわ。旦那様の娘を引き取ってあげただけよ。わたくしの娘になるのだもの。わざわざルシア国に迎えに来てあげたの。旦那様に似て可愛らしい女の子ね?」
「ジェイのことはどこで知った?」
フェリックスもまだジェイの存在を知って数日なのに、なぜマリエルが知っているのか不思議だった。
「ねぇ?旦那様。わたくし、旦那様とビアンカ様についての記憶が、突然戻って動揺したのよ?お二人の大恋愛は社交界ではとても有名だったもの。王太子の座を捨ててビアンカ様を追いかけたフェリックス様。なのに王命とはいえ愛する恋人を捨ててミリル様を選んだフェリックス様。そして、余命わずかだと言われたのに、奇跡的に助かったフェリックス様」
何が楽しいのか、にこりと妖艶に微笑むマリエル。
またフェリックスをじっと見つめた。
頬に手を置き少し考えてから、また話し始めた。
「記憶が戻ったのは旦那様がルシア国へ行くことが決まった日だったわ。ずっともやがかかっていた何かが、突然晴れてスッキリした気分だったのよ?」
クスクスと笑い出した。
「ビアンカ様について色々と調べたの。だって旦那様の口からビアンカ様のことを聞いたこともないし、全く気にしている素振りもないし、それは公爵家もそうだし、ビアンカ様の侯爵家もそうだったわ。誰もビアンカ様を気にする人はいない。とても不思議だったわ」
「俺より先に記憶が戻っていたのか?」
「旦那様は何も知らずにルシア国へ旅立ったようね?あんなに愛していた人を簡単に忘れて他の人よりも思い出すのが遅いなんて、ね?ふふふ」
「………ああ、それは認める。だが、なぜジェイを?無理矢理連れ去るんだ」
「旦那さまの血を分けた娘よ?公爵家の跡取りなんだもの。大切にお迎えしなくっちゃ」
「大切に?それならシズナやヨハンに怪我を負わせたのは何故だ?」
「シズナ?ヨハン?………もしかして、あの抵抗した夫婦かしら?平民でしょう?何が悪いのかしら?」
キョトンとしたマリエル。
フェリックスは顔に手を置き大きなため息をついた。
「君は、平民だからと何をしてもいいと思っているのか?」
「もちろんよ。平民は平民でしかないの。だからジェイも早く平民の世界から救ってあげたのよ?わたくし、良い行いをしたのよ?ねっ、旦那様?」
「奥様は最上階の部屋を借りております」
「わかった」
フェリックスは一気に階段を駆け上がった。
鍵は部下から受け取っていたため、ノックをせずに鍵を開けて部屋に入った。
「………あら?」
マリエルはフェリックスが来ることはわかっていたのだろう。
嬉しそうに微笑んだ。
「貴方……お待ちしていましたわ。でもノックもせずにいきなり入って来るなんて、少し失礼だと思いません?」
苦笑してはいても腹を立てることもなくすぐに部屋に通してソファに座ることを勧めた。
「ジェイは?」
フェリックスは部屋をキョロキョロと見回した。
最上階の一番広い部屋は、ベッドエリアとリビングエリアに分かれ、付人達の控え室やキッチン、豪華なビューバスや一部屋全てがウォークインクローゼットになっていて、小さな屋敷と変わらない広さがある。
ジェイが見当たらないのに眉根を寄せ、マリエルを睨んだ。
フェリックスの部下達は急いでジェイを探し始めた。
「あら?あの子は今ベッドでお昼寝中よ?」
「昼寝?」
まだ4歳なので昼寝をするのは当たり前だが、連れ去られて怖い思いをしているのにのんびり昼寝をするものだろうか?
周囲に控えているマリエルの付き人のメイド達に視線を移した。
「寝ているのか?」
「………は、はい」
消え入るような小さな声で返事をするメイド。
ビクビクとして目を合わせないようにするメイド。
真っ青な顔で今にも泣き出しそうなメイド。
フェリックスは、そんなメイド達の様子に低い声で怒りを込めて言った。
「案内しろ」
「はい!」
ビクッと肩を上げ慌てて扉へと向かったメイド。
部下達はフェリックスが目の前を通るのを見守りつつ、マリエルが連れてきた護衛達にヘタに動かないように牽制していた。
メイドは奥の部屋の扉の鍵を開けて、「こ、こちらです」とフェリックスを案内した。
「旦那様、寝ている子を起こすの?もうしばらく放っておけばいいのに」
フェリックスの後ろからマリエルの声がした。
心配している声ではなかった。焦ってもいない。
マリエルはただ、思ったことを口にしただけだった。
「様子を見るだけだ」
「そう……でも起きないと思うわ」
フェリックスが振り返りマリエルを見た。
「ふふふっ。だって、ねえ?」
メイドや護衛達を見ながら楽しそうに笑った。
マリエルについて来ていたみんなは顔を引きつらせていた。
フェリックスと目を合わせることを恐れて、みんな視線を逸らしていた。
「なんだ?答えろ?」
「ああ、怖い、怖い。ただ、あまりにも泣いてうるさいから薬で眠らせただけよ。しばらくは起きないわ」
「なんてことを!すぐに医者を呼べ!」
フェリックスは目を見開き怒鳴り上げた。
「はい」
そばに居たフェリックスの部下は急いで部屋を出て行った。
「心配しなくても大丈夫よ?危害を加えたわけではないわ」
のんびりと話すマリエル。本人は至って悪いことをしたとは思っていない。
優雅にカップを取り、ちょうど飲み頃になった紅茶をゆっくりと飲み始めた。
フェリックスが睨んでいても気にもとめずに言った。
「美味しいわ。貴女、淹れるのが上手ね?この茶葉はどこで作られたの?ぜひオリソン国に持って帰りたいわ」
のんびりと話し始めた。
「マリエル!」
「もう旦那様!イライラしないの!父親になるのでしょう?どっしり構えないと、ね?」
「ふふふ」と微笑んで、また一口紅茶を飲んだ。
「君はなぜジェイを連れ去った?なぜこの国に来た?」
「連れ去った?違うわ。旦那様の娘を引き取ってあげただけよ。わたくしの娘になるのだもの。わざわざルシア国に迎えに来てあげたの。旦那様に似て可愛らしい女の子ね?」
「ジェイのことはどこで知った?」
フェリックスもまだジェイの存在を知って数日なのに、なぜマリエルが知っているのか不思議だった。
「ねぇ?旦那様。わたくし、旦那様とビアンカ様についての記憶が、突然戻って動揺したのよ?お二人の大恋愛は社交界ではとても有名だったもの。王太子の座を捨ててビアンカ様を追いかけたフェリックス様。なのに王命とはいえ愛する恋人を捨ててミリル様を選んだフェリックス様。そして、余命わずかだと言われたのに、奇跡的に助かったフェリックス様」
何が楽しいのか、にこりと妖艶に微笑むマリエル。
またフェリックスをじっと見つめた。
頬に手を置き少し考えてから、また話し始めた。
「記憶が戻ったのは旦那様がルシア国へ行くことが決まった日だったわ。ずっともやがかかっていた何かが、突然晴れてスッキリした気分だったのよ?」
クスクスと笑い出した。
「ビアンカ様について色々と調べたの。だって旦那様の口からビアンカ様のことを聞いたこともないし、全く気にしている素振りもないし、それは公爵家もそうだし、ビアンカ様の侯爵家もそうだったわ。誰もビアンカ様を気にする人はいない。とても不思議だったわ」
「俺より先に記憶が戻っていたのか?」
「旦那様は何も知らずにルシア国へ旅立ったようね?あんなに愛していた人を簡単に忘れて他の人よりも思い出すのが遅いなんて、ね?ふふふ」
「………ああ、それは認める。だが、なぜジェイを?無理矢理連れ去るんだ」
「旦那さまの血を分けた娘よ?公爵家の跡取りなんだもの。大切にお迎えしなくっちゃ」
「大切に?それならシズナやヨハンに怪我を負わせたのは何故だ?」
「シズナ?ヨハン?………もしかして、あの抵抗した夫婦かしら?平民でしょう?何が悪いのかしら?」
キョトンとしたマリエル。
フェリックスは顔に手を置き大きなため息をついた。
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