あなたの愛はもう要りません。

たろ

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148話

「お祖母様……お世話になりました」

 フェリックス様との話し合いも終わり、ルシア国へ帰る手筈も整った。

 向こうでは、ルシア国の国民として暮らすことになる。

 家もずっと暮らしたあの家を離れ、小さな屋敷をアッシュが整えてくれた。
 その敷地内には織物工房を作り、今まで共に織物をしてきた仲間達と仕事をすることになる。

 アスターはそこで売買契約や仕入れなど、総合的な業務を担当してくれることになった。

 彼なら貴族とも話を対等に出来るし、平民の気持ちにも寄り添ってくれる。

 そして、ヨハンの農園も共同経営者として、難しい契約などアスターが担ってくれることになった。

 ジェイは帰る時は寂しそうだったけど、ルシア国の友達に会えるのも楽しみで、何とかご機嫌をなだめて馬車に乗せることができた。



「ただいま!」

 ジェイとまず以前住んでいた家へ向かった。ジェイにとっては住み慣れた我が家。

 この場所とお別れをすることを話したら、涙をポロリと流した。
 だけど、やはり子供。

「あたらしいおうち、たのしみだね」
 もう気持ちは新しい家へと向いていた。

「今までよりも大きくて、ジェイのお部屋もできるわよ。それに二人だけで暮らすのではなく、お家で働いてくれる人もいて、寂しくないと思うわ」

「しずなたちは?おわかれ?」

 今までご近所だったシズナ達と離れることになると思い、不安そうに言った。

「今までよりも少し離れているけど、今までと同じよ。今度からはジェイのお家にミリィや他の子供達も来て、みんなで過ごすことになるわ。ただ、シズナはお仕事があるから、子供のお世話をする人を何人かお願いすることになっているの」

 ジェイを安心させるように穏やかに説明をしてあげる。

「おうちに、おともだちが、くるの?」

「ええ、工房や農園で働いてくれる人たちの子供さんを預かることになるから、毎日賑やかで楽しくなるわ」

「おもちゃは?」

「ふふ、お祖母様とアッシュがたくさん送ってくださったから毎日遊べるわよ」

「おそとでもあそべる?」

 ジェイはお家で静かに遊ぶのも好きだけど、外で駆け回って遊ぶのが大好きな子供だ。

「ええ、お家の外にブランコやシーソー、滑り台やジャングルジムも作ってもらったの」

 これらは外国の遊具を輸入してもらった、ルシア国にはないものばかり。

 だからジェイもよくわからない言葉にきょとんとしていた。私も遊具の説明の書類を読んでいたので、理解はしているけどまだ見ていないのでとても楽しみだった。

 アッシュは数カ国と貿易を始めた。外国の珍しいものを輸入してオリソン国でも広めているらしく、その中に子供達のための遊具もあった。

 ルシア国にある私の住む屋敷とアッシュの屋敷にまず置いてみて、よければいろんな貴族達に売りつけようと言っていた。

 いずれはオリエ様のところにもこの遊具が置かれるのだろう。ふとそんなことを考えて柔らかな微笑みを浮かべた。

「うわぁ、すっごぉい!!」

 ジェイはもちろんまだ小さなミリィも大興奮で遊具を触ったり、なぜか蹴ったりして、どんなものか確かめていた。

 そんな二人を見ていた一人の護衛が「こうやって乗るのでは?」と、ブランコに乗せてくれた。

 馬車の形をした4人乗りで、小さな子供も危なくない作りで、揺れるたびにとても楽しそうにはしゃいでいた。

 護衛達は数人そこに残り子供達の相手をしながら珍しい遊具に感心していた。

 私も後でもう一度見にこようと思いつつ屋敷の中に入り、一つ一つの部屋を確認した。

 その後、離れの工房へ行き、すぐにでも仕事が始められるか確認をしたりと慌ただしい一日を送った。




 仕事も屋敷にも慣れるまでは、毎日目が回るくらい忙しくて、もうフェリックス様のことを考える暇も思い出すこともなくなっていた。

 こうしてジェイと二人の暮らしがずっと続いていくのだと思っていた。

「かあさま!!」

 ジェイの元気な可愛い声が屋敷にいつも響いていた。




 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎



 ある嵐の夜、ジェイが怖がって私の部屋へとやってきた。

「かあさま、いっしょにねてもいい?」

「もちろんよ、横にいらっしゃい」

 もうすぐ6歳になるジェイは自分の部屋で一人で眠るようになっていた。

 嬉しそうに私の横にくると、くっついてきた。

「ジェイは甘えん坊さんね」

「へへ。だって、かぜのおとが、こわいんだもん。かあさまのそばにいたら、ほっとするの」

 ジェイの髪を優しく撫でながら、昔読んだ絵本のお話を聞かせてあげた。

 気がつくとジェイはいつの間にかスヤスヤと眠っていた。

 可愛らしい寝顔を見ているだけで、仕事と育児で疲れた体が軽くなった気がする。

 最近なぜか体が重たい。よく目眩もするし、フラッとすることが増えた。

 責任者となり仕事の量も増えた。

 まだ仕事が残っていて、本当は起きて執務室へ行くつもりだったけど、たまにはジェイと朝までぐっすり眠ろう。





『おい、ビアンカ!』

 懐かしい声が聞こえた。

『………』

『俺を忘れたのか?』

『………サクさん?』

 ここはどこ?

 夢の中?

 ふと周りを見ると横にはジェイがスヤスヤと眠っていた。

 そして私も………

 えっ?私が青白い顔をして……まるで遺体のように…

『お前、約束しただろう?素直になれって!』

『私は自分に正直に生きてきました』

『だったら何で死にかかってるんだ?』

『死にかかってる?』

 誰が?私が?

『???』

『フェリックスを助ける時、みんなから記憶を奪った。それは、俺に力が足りないから大切なものをもらって魔力に変えたからだ。その時、言ったよね?『素直になれって!』そうしないとお前の体は持たないって!』

『………知らない、聞いていないわ』

『思い出していないのか?』

『まいったな………俺が過去に戻ってお前の命を助けたのに』

『過去?戻る?助けるとは?』

 あまりにも理解できない言葉に思考が追いつかない。

『ジェイを産んで、お前は貧しさと病で死んだんだ。そしてジェイは、孤児院で貧しさの中で暮らした。ずっと痩せこけて、生きるのが精一杯だった。
 やっと結婚して幸せになったはずなのに旦那は他に女を作って出て行った。ジェイは、身籠もっていて……俺は……ジェイを……母さんを過去に戻って助けようとした。
 でもダメだった。母さんを助けるためには、幸せにするためには、母親であるビアンカを助けなければならなかった。だって、あんたが幸せにならなきゃ、娘のジェイも幸せになれないんだ!!』

 サクさんは……ジェイの子供?

 信じられなくて、頭を横に振る。

『し、信じられない……』

『俺の魔力じゃ、何でも叶うわけじゃない。ここに来るのも大変なんだ。それでも何とか、ビアンカの危機に来れた。なぁ、頼むよ。このままじゃお前は運命のまま死んでしまう。俺のじいちゃんはフェリックスだったんだろう?もう愛していないのか?記憶を消したことは謝るよ。でも……そうしなければ心臓病を治せなかったんだ……なぁ、運命に勝ってくれよ!ジェイを幸せにしてくれよ!俺から母ちゃんを奪わないでくれよ!』

 サクさんはいつの間にか大人の姿から子供の姿になっていた。

 彼は魔法で大人になっていたのだ。まだ10歳くらいの子供なのに……

『母さんの父親が誰なのか俺は知らなかった。ここに何度か来てわかったんだ。フェリックスが俺のじいちゃんなんだって。過去で何があったのか俺は詳しく知らない。ただ、あんたは身重の身で、平民になり苦労して母さんを産んで育てて死んだんだ。俺は…だからそれを阻止するつもりで何度かここに来た。
 過去を変えるつもりで……でもやっぱり過去は変えられないのか?なぁ、頼むよ。
 お前はもうフェリックスを愛していないのか?死なないでくれよ』

『私は……』

 ベッドの自分を見ると、微かな呼吸音が聞こえる。

 フェリックス様をもう完全に諦めた。

 一人で生きていくと決めた。

 アスターとは仕事仲間としていい関係を築いた。そこに、愛はあるけど兄のような家族愛のようなもの。

 ヨハン達とも家族のような関係で今も仲良く暮らしている。

 アッシュ達とも今は仕事の上でもいい関係だし、彼の家族とも仲良くさせてもらってる。

 ただ、フェリックス様とだけは……ジェイに会いたいと言ってこないし音信不通になっている。

 あれから一年を過ぎて、今更?

 素直になれって、もう消えて……

 消えてしまったはずなのに……

 ああ、私はジェイを残して死んでいくのね………





 






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