あなたの愛はもう要りません。

たろ

文字の大きさ
152 / 153

番外編 ②

「ビアンカは………とても穏やかな顔をしていたんだ……苦しまずに眠るように亡くなっていた……ジェイのそばで………」

 ヨハンは、これ以上言葉を言えずにグッと堪えしばらく黙ったまま、フェリックスに視線を向けた。

「ジェイが目覚めた時、まだ体は温かったらしい……ジェイは息をしていないビアンカの頬に手を触れ、何度も『かあ様』と呼びかけたらしい。だけど……目を開けることも返事もない……ジェイは人が亡くなるということがまだはっきり理解できないでいた。6歳の少女が昨日の夜まで元気だった母親が突然死んだなんて思えるわけがないんです」




 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎


「かあ様」

 ジェイはいつもより早く目が覚めた。

 温かな母の体温を感じながら眠りについた……はずなのに…なんだかその温もりがおかしいと感じた。

「……かあ様?」

 何度声をかけても返事をしない。

 頬を触ると少し冷たい気がする。

 あまりにも静かで動こうとしない母にそっと体をくっつけて、温めてあげようと抱きついた。

 ぴくり…とも動かない母にそっと「かぁさま」と甘えた声で話しかけた。

 6歳のジェイにとって死はよくわからない。だけど……ジェイはふと掠めたそんな考えを頭を振ってやめる。

 なんとか、かあ様を起こそうと、小さな声で優しく話しかけ続けた。

「かあ様……今日はお休みだからひさしぶりに公園へいくやくそくだよね?」

「かあ様……かあさまのつくった、パンケーキたべたい、はやくおきて」

「かあ…さま……わがまま言わないから……」

「………かあさま……なにもいらない……はやく、いつもみたいに『ジェイ、あいしてるわ』っていって……」

「かあさまぁ………」

 ジェイは涙を流しながらビアンカに抱きついた。どんなに泣いてもかあ様が動くことはない。

 わかってるのに認められない。

 このままここにいれば…いつか目を覚ましてくれるかもしれない。

 そう思うと誰かを呼ぶことなんて出来なかった。

 誰かを呼べば、もう終わってしまう……全てが消えてしまうかもしれない。

 それがとても怖かった。

 だからずっとかあ様に話しかける。

 少しずつ冷たくなる母の顔を優しく撫で、手を握りしめる。

 どれくらいこうして過ごしたのだろう。

 いくら待っても起きてこないビアンカとジェイを心配して、屋敷で泊まり込みで住んでいるお手伝いのマリが部屋の扉をノックした。

 でも返事が返ってこない。

「奥様?ジェイ様?」

「…………」

 何かがおかしい。扉に耳を当て中の様子を窺う。

 微かに聞こえるのはジェイの泣き声だった。

「どうなさいました?開けますよ!」

 異変に気がついたマリは扉を開けた。

 部屋の中はとても静かだった。そして奥の部屋の寝室からジェイの泣き声が聞こえてくる。

「ジェイ様!」

 急いで寝室へ行くとジェイがベッドの上で泣きながらビアンカに話しかけていた。

「どうなさいました?奥様に何かありましたか?」

「………マリさん……かあ様が……」

 ジェイはそう言うとそのままビアンカの上に倒れて意識を失った。

「ジェイ様!誰か、誰か来て!!」





◆ ◆ ◆

更新遅くなりました。

たった、これだけの短い話……なのになかなか書けませんでした。

読んでいただきありがとうございます。
感想 563

あなたにおすすめの小説

旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵夫人フルールは、夫である伯爵と愛人の秘書に長年頭を悩ませていた。 何度夫に苦言を呈しても「彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだから」と一切聞く耳を持たない。 困り果てていたそのとき、彼女は突然前世の記憶を取り戻した。 このままだと夫と愛人の真実の愛の犠牲になってしまう。 それだけは御免だ。 結婚五年目にして、彼女はようやく夫を見限り、新たな事業を立ち上げた。 そして事業を成功させたフルールの隣には、いつも同じ男が立っていた。 その男は誰なのかと問い詰める夫に、フルールはニッコリ笑って言った。 「彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです」と。

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

元の世界に帰らせていただきます!

にゃみ3
恋愛
淡い夢物語のように、望む全てが叶うとは限らない。 そう分かっていたとしても、私は敵ばかりの世界で妬まれ、嫌われ、疎まれることに、耐えられなかったの。 「ごめんね、バイバイ……」 限界なので、元いた世界に帰らせてもらいます。 ・・・ 数話で完結します、ハピエン!

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。