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アイシャのいとこ。
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ガンダが急ぎエマの家へ向かっているのを知らないアイシャは、心の中でガンダにお礼を言いながら屋敷の中へと入っていった。
途中庭の奥にある納屋へ視線を向けたがエインの姿はよくわからなかった。
「侍女長、エインはどこに居るのかしら?」
「エイン?ああ、あの庭師ですか。彼が何か?」
冷たい視線をアイシャへ向けた。まるでこの屋敷の主人のような横柄な態度にアイシャは何も言えずに「ううん何でもないわ」と諦めて小さく答えた。
これ以上エインに何かされては困る。へんに庇うより黙っているに限る。
アイシャは使用人達の視線が辛かった。
以前よりも使用人達の視線は鋭くアイシャに聞こえるようにわざと話をした。
「ほんとお騒がせな人ね」
「自分の立場をわかっているのかしら?」
「帰ってこなくて清々していたのに、また帰ってきて」
「あの陰気臭い顔見るのも嫌なのよね」
アイシャはその声の方に振り返ることなく、手を握りしめ黙って階段を上がろうとした。
「あら?アイシャお帰りなさい」
その声に使用人達は
「お嬢様!」
「ローゼお嬢様だ!!」
皆の声は嬉しそうで先ほどのアイシャへ向ける目とは全く違い、主人へ敬う温かな視線へと変わっていった。
「ローゼお姉様?」
母方の姉の娘であるローゼ。
母のアリアはアイシャが一人で屋敷にいるのが心配だからと長く屋敷を空ける時にローゼに声をかけていた。
ローゼは伯爵令嬢でアイシャの2歳年上の16歳で、王太子殿下と同級生でもある。
ローゼは王太子殿下の婚約者になることを夢見てずっと優秀な成績を取り続け、常に自分自身を磨き、努力を怠らなかった。そして他の令嬢よりも秀でていた。
なのに、公爵令嬢というだけで殿下の婚約者にアイシャが選ばれた。いつもおどおどしているし、学園にも通っていない。
どう比べてもどこにも自分は彼女より劣るところはない。容姿も成績もそして性格だって王太子妃として相応しいのは自分なのに。そう思うと無性に目の前にいるアイシャが憎らしくて仕方がなかった。
そしてローゼの母親も自分よりも高位貴族に嫁いだ妹に対してあまり良い感情を抱いていない。
ローゼの母のロザリアとローゼはアイシャの母のアリアがいない間は、我が物顔で公爵家の主人のような振る舞いをしている。
ローゼと共に顔を出したロザリアは困った顔をしてため息をついた。
「アイシャ、貴女どこにいたの?ほんと迷惑ばかりかける娘ね。アリアがいない間に問題を起こしたらわたくしはどうウィリアム様に伝えたらいいの?」
ウィリアムは宰相の仕事と公爵としての仕事が忙しく屋敷のことに全く関知していない。特に何もなければ話しを聞く時間さえ惜しんでいて、聞く耳すら持たない。
なので実際はウィリアムは屋敷に今妻の姉である母娘が居ることもアイシャが倒れてエマの家にいたことも詳しくは知らない。
いや、話しを誰かがしたとしても、興味のないことには全く聞く耳を持っていなかった。
だから今アイシャが二人から、そして使用人から酷い言葉を受けていることすら気が付かないで王宮で忙しく仕事をしていた。
「あ、あの、体調を崩してしばらく療養のため………」
「は?何が療養よ?王太子殿下の婚約者として努力をするのは当たり前のことよ?少し頑張ったからと倒れて療養?そんなことでこの国を背負う国王になられる王太子殿下の妃になれると思っているのかしら?」
ローゼは呆れながらアイシャに募った。
自分が本来なら殿下の横にいるはずなのに。そう思うと目の前にいる何の価値もない自分より全てに劣った少女へ苛立ちしかなかった。
アイシャは何も言い返さなかった。
いつも伯母といとこに叱られ、使用人達に冷たい視線を向けられることに慣れすぎたアイシャは萎縮し声が出なくなる。
立っているだけで胸が苦しい。アイシャは頭を深々と下げて、重たい足を動かし始めた。
階段を上がるのがこんなにしんどいとは思わなかった。
ふらつきながら歩くアイシャを見て使用人達は誰一人手を貸そうとしなかった。
もしここで心配してアイシャに手を貸して仕舞えば、そこから使用人として働きにくくなる。どんな嫌がらせをされるかわからない。
侍女長も家令のマークもアイシャを嫌っているし馬鹿にしている。そして二人は当主がいない間はアリアの姉であるロザリアの言うことしか聞かない。
今誰もいない屋敷の中で権力はロザリアとローゼが持っていた。
アイシャは誰にも期待していない。
部屋に入るとベッドに倒れ込んだ。
ポケットに入っている小瓶から薬を一粒出して、飲み込んだ。
部屋にはもちろん水差しもコップも用意されていない。
「ここで死んでいくのね………」
アイシャは誰にも期待していない。だけど、あの家の温かくて優しい温もりを思い出すとつい口に出てしまう。
「キリアン君とエマ様、サラ様……最後にもう一度お礼を言いたい……もう一度だけ……会いたい………」
途中庭の奥にある納屋へ視線を向けたがエインの姿はよくわからなかった。
「侍女長、エインはどこに居るのかしら?」
「エイン?ああ、あの庭師ですか。彼が何か?」
冷たい視線をアイシャへ向けた。まるでこの屋敷の主人のような横柄な態度にアイシャは何も言えずに「ううん何でもないわ」と諦めて小さく答えた。
これ以上エインに何かされては困る。へんに庇うより黙っているに限る。
アイシャは使用人達の視線が辛かった。
以前よりも使用人達の視線は鋭くアイシャに聞こえるようにわざと話をした。
「ほんとお騒がせな人ね」
「自分の立場をわかっているのかしら?」
「帰ってこなくて清々していたのに、また帰ってきて」
「あの陰気臭い顔見るのも嫌なのよね」
アイシャはその声の方に振り返ることなく、手を握りしめ黙って階段を上がろうとした。
「あら?アイシャお帰りなさい」
その声に使用人達は
「お嬢様!」
「ローゼお嬢様だ!!」
皆の声は嬉しそうで先ほどのアイシャへ向ける目とは全く違い、主人へ敬う温かな視線へと変わっていった。
「ローゼお姉様?」
母方の姉の娘であるローゼ。
母のアリアはアイシャが一人で屋敷にいるのが心配だからと長く屋敷を空ける時にローゼに声をかけていた。
ローゼは伯爵令嬢でアイシャの2歳年上の16歳で、王太子殿下と同級生でもある。
ローゼは王太子殿下の婚約者になることを夢見てずっと優秀な成績を取り続け、常に自分自身を磨き、努力を怠らなかった。そして他の令嬢よりも秀でていた。
なのに、公爵令嬢というだけで殿下の婚約者にアイシャが選ばれた。いつもおどおどしているし、学園にも通っていない。
どう比べてもどこにも自分は彼女より劣るところはない。容姿も成績もそして性格だって王太子妃として相応しいのは自分なのに。そう思うと無性に目の前にいるアイシャが憎らしくて仕方がなかった。
そしてローゼの母親も自分よりも高位貴族に嫁いだ妹に対してあまり良い感情を抱いていない。
ローゼの母のロザリアとローゼはアイシャの母のアリアがいない間は、我が物顔で公爵家の主人のような振る舞いをしている。
ローゼと共に顔を出したロザリアは困った顔をしてため息をついた。
「アイシャ、貴女どこにいたの?ほんと迷惑ばかりかける娘ね。アリアがいない間に問題を起こしたらわたくしはどうウィリアム様に伝えたらいいの?」
ウィリアムは宰相の仕事と公爵としての仕事が忙しく屋敷のことに全く関知していない。特に何もなければ話しを聞く時間さえ惜しんでいて、聞く耳すら持たない。
なので実際はウィリアムは屋敷に今妻の姉である母娘が居ることもアイシャが倒れてエマの家にいたことも詳しくは知らない。
いや、話しを誰かがしたとしても、興味のないことには全く聞く耳を持っていなかった。
だから今アイシャが二人から、そして使用人から酷い言葉を受けていることすら気が付かないで王宮で忙しく仕事をしていた。
「あ、あの、体調を崩してしばらく療養のため………」
「は?何が療養よ?王太子殿下の婚約者として努力をするのは当たり前のことよ?少し頑張ったからと倒れて療養?そんなことでこの国を背負う国王になられる王太子殿下の妃になれると思っているのかしら?」
ローゼは呆れながらアイシャに募った。
自分が本来なら殿下の横にいるはずなのに。そう思うと目の前にいる何の価値もない自分より全てに劣った少女へ苛立ちしかなかった。
アイシャは何も言い返さなかった。
いつも伯母といとこに叱られ、使用人達に冷たい視線を向けられることに慣れすぎたアイシャは萎縮し声が出なくなる。
立っているだけで胸が苦しい。アイシャは頭を深々と下げて、重たい足を動かし始めた。
階段を上がるのがこんなにしんどいとは思わなかった。
ふらつきながら歩くアイシャを見て使用人達は誰一人手を貸そうとしなかった。
もしここで心配してアイシャに手を貸して仕舞えば、そこから使用人として働きにくくなる。どんな嫌がらせをされるかわからない。
侍女長も家令のマークもアイシャを嫌っているし馬鹿にしている。そして二人は当主がいない間はアリアの姉であるロザリアの言うことしか聞かない。
今誰もいない屋敷の中で権力はロザリアとローゼが持っていた。
アイシャは誰にも期待していない。
部屋に入るとベッドに倒れ込んだ。
ポケットに入っている小瓶から薬を一粒出して、飲み込んだ。
部屋にはもちろん水差しもコップも用意されていない。
「ここで死んでいくのね………」
アイシャは誰にも期待していない。だけど、あの家の温かくて優しい温もりを思い出すとつい口に出てしまう。
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