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ロスワート侯爵様に会う②
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正面に座るロスワート侯爵様と対峙したまま既に10分が流れた。
「「・・・・・」」
先生は、困った顔で苦笑いをしていた。
どちらが先に口を開くか我慢比べである。
(どうしよう…何を話したらいいのか分からないわ……)
「君たちはずっと貝にでもなっているつもりかね?」
ハアァ……
先生が大きな溜息を吐いた。
「まずは侯爵、いや、スティーブ!友人として話させてもらうよ。いい加減にシャノン嬢に全てを話せ!」
「……何を話すんだ?」
「わかってるだろう……素直になれ!」
「・・・・・」
ロスワート侯爵様は何も言わない。
「先生がおっしゃっている意味は分かりませんが、ひとつ言えることは離縁するわたしは侯爵家にとって必要のないゴミ屑なんです。
役に立たないわたしを、どうかロスワート侯爵様、除籍して下さい。お願いします」
ロスワート侯爵様は、わたしの顔をジッと見つめていた。
いつもの怖い顔なのに、瞳が寂しそうに見えたのは気のせいなのかもしれない。
「………除籍はしない」
と呟いた。
わたしは震えながら聞いた。
「…え?……でしたら離縁したら修道院ですか?それともどこかにまた嫁がされるのですか?」
ロスワート侯爵様はまだわたしに利用価値があると思っているのだろうか?
「わたしは平民となり市井に下ります。それでは罰になりませんか?市井で頑張って暮らすなど利用価値すらない人間には求めてはいけないものなのでしょうか?」
「……君が幸せを求めるのを邪魔するつもりはない」
「だったら除籍してください。わたしの初めてで最後のお願いです。わたしを捨ててください」
涙が止まらなかった。
ロスワート侯爵様の前では絶対に泣きたくなかったのに、思わず我慢していた涙が溢れてきた。
「シャノン嬢、スティーブに言いたいことを全部言ってやれ!今までどれだけ我慢してきたかこいつはわかってない!」
「おじ様……」
先生はロスワート侯爵様を睨んで怒っていた。
わたしはこの人に対して諦めていた。
子どもの頃からたまに会うと
「勉強はどうだ?」
「侯爵令嬢として恥ずかしくないように」
「成績は落とすな」
など厳しい言葉しか言われない。
「お話があります」と
伝えると
「忙しい、無駄なことに時間は取れない」
と怒られる始末。
わたしは良い子でいた。
我儘を言わないで迷惑をかけないように過ごした。
ただ父に褒められたいと勉強もピアノもダンスもマナーも頑張って勉強した。
父の領地運営に少しでも役に立ちたくて、家令に少しずつ教わって忙しい父のフォローをしたいと思っていた。
家令のクリスは、父に内緒でわたしにも仕事を振ってくれてわたしも父にほんの少しでも近づいた気分になっていた。
でも、それもこれもラウルと初めて会った日に言われた言葉でわたしの心は壊れたのだ。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
今もずっと燻り続けるこの言葉。
わたしに出来ることはラウルと結婚して少しでも侯爵家の役に立つことだけ。
呪いのようにわたしの心を蝕んでいく。
わたしは涙を拭ってロスワート侯爵様を見た。
「ロスワート侯爵様、貴方はおっしゃいました。
ラウルと初めて会った時に。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
と。だから離縁するわたしはもう役に立たないゴミ屑なんです。どうぞお捨てください」
ロスワート侯爵様が、小刻みに震え出し真っ青な顔になった。
「シャノン、違うんだ。違うんだ。
ほんとは君を愛しているんだ!大事な娘なんだ!」
「ロスワート侯爵様、覚えておいでですか?」
「『お話があります』と
伝えると
『忙しい、無駄なことに時間は取れない』
と怒ったことを。
わたしは貴方にとって無駄でしかないのです」
「スティーブ、お前そんな酷いことまで言ったのか?」
「……すまない、あの頃は忙し過ぎて余裕がなかったから言ったのかもしれないが覚えていない」
「お前、本当に自分勝手だな。シャノン嬢に同情するよ」
「もういいのです。わたしは除籍さえしてもらえればもう何もいらないのです」
「シャノン……どうしても……除籍したいのなら受け入れる………だが、その前にわたしの話を聞いてくれないか………言い訳でしかないが………」
そして長い話を語られた。
「「・・・・・」」
先生は、困った顔で苦笑いをしていた。
どちらが先に口を開くか我慢比べである。
(どうしよう…何を話したらいいのか分からないわ……)
「君たちはずっと貝にでもなっているつもりかね?」
ハアァ……
先生が大きな溜息を吐いた。
「まずは侯爵、いや、スティーブ!友人として話させてもらうよ。いい加減にシャノン嬢に全てを話せ!」
「……何を話すんだ?」
「わかってるだろう……素直になれ!」
「・・・・・」
ロスワート侯爵様は何も言わない。
「先生がおっしゃっている意味は分かりませんが、ひとつ言えることは離縁するわたしは侯爵家にとって必要のないゴミ屑なんです。
役に立たないわたしを、どうかロスワート侯爵様、除籍して下さい。お願いします」
ロスワート侯爵様は、わたしの顔をジッと見つめていた。
いつもの怖い顔なのに、瞳が寂しそうに見えたのは気のせいなのかもしれない。
「………除籍はしない」
と呟いた。
わたしは震えながら聞いた。
「…え?……でしたら離縁したら修道院ですか?それともどこかにまた嫁がされるのですか?」
ロスワート侯爵様はまだわたしに利用価値があると思っているのだろうか?
「わたしは平民となり市井に下ります。それでは罰になりませんか?市井で頑張って暮らすなど利用価値すらない人間には求めてはいけないものなのでしょうか?」
「……君が幸せを求めるのを邪魔するつもりはない」
「だったら除籍してください。わたしの初めてで最後のお願いです。わたしを捨ててください」
涙が止まらなかった。
ロスワート侯爵様の前では絶対に泣きたくなかったのに、思わず我慢していた涙が溢れてきた。
「シャノン嬢、スティーブに言いたいことを全部言ってやれ!今までどれだけ我慢してきたかこいつはわかってない!」
「おじ様……」
先生はロスワート侯爵様を睨んで怒っていた。
わたしはこの人に対して諦めていた。
子どもの頃からたまに会うと
「勉強はどうだ?」
「侯爵令嬢として恥ずかしくないように」
「成績は落とすな」
など厳しい言葉しか言われない。
「お話があります」と
伝えると
「忙しい、無駄なことに時間は取れない」
と怒られる始末。
わたしは良い子でいた。
我儘を言わないで迷惑をかけないように過ごした。
ただ父に褒められたいと勉強もピアノもダンスもマナーも頑張って勉強した。
父の領地運営に少しでも役に立ちたくて、家令に少しずつ教わって忙しい父のフォローをしたいと思っていた。
家令のクリスは、父に内緒でわたしにも仕事を振ってくれてわたしも父にほんの少しでも近づいた気分になっていた。
でも、それもこれもラウルと初めて会った日に言われた言葉でわたしの心は壊れたのだ。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
今もずっと燻り続けるこの言葉。
わたしに出来ることはラウルと結婚して少しでも侯爵家の役に立つことだけ。
呪いのようにわたしの心を蝕んでいく。
わたしは涙を拭ってロスワート侯爵様を見た。
「ロスワート侯爵様、貴方はおっしゃいました。
ラウルと初めて会った時に。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
と。だから離縁するわたしはもう役に立たないゴミ屑なんです。どうぞお捨てください」
ロスワート侯爵様が、小刻みに震え出し真っ青な顔になった。
「シャノン、違うんだ。違うんだ。
ほんとは君を愛しているんだ!大事な娘なんだ!」
「ロスワート侯爵様、覚えておいでですか?」
「『お話があります』と
伝えると
『忙しい、無駄なことに時間は取れない』
と怒ったことを。
わたしは貴方にとって無駄でしかないのです」
「スティーブ、お前そんな酷いことまで言ったのか?」
「……すまない、あの頃は忙し過ぎて余裕がなかったから言ったのかもしれないが覚えていない」
「お前、本当に自分勝手だな。シャノン嬢に同情するよ」
「もういいのです。わたしは除籍さえしてもらえればもう何もいらないのです」
「シャノン……どうしても……除籍したいのなら受け入れる………だが、その前にわたしの話を聞いてくれないか………言い訳でしかないが………」
そして長い話を語られた。
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