【完結】愛してました、たぶん   

たろ

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アイリスのお父様

アイリスが捕まったのは2か月前。

殺人未遂と拉致監禁の罪だった。

さらに違法薬物所持と販売。

さらにベルアート公爵家へのストーカー行為。

息子二人は文官を辞めざるを得なかった。

アイリスは人として、やってはいけない事まで行っている。

薬物中毒の副作用で人格も破壊されている。
自分に全てを都合よく受け取ってしまう。
他人の話はまともに入ってこないみたいだ。

宰相に呼ばれたわたし達親子は、アイリスの処遇について説明された。

アイリスは精神異常をきたし、罪に問われることなく無罪になると言われた。

まさかと思ったが、続きがあった。

精神科の病院に生涯入院することになる。

しかも国立病院の病棟に入ることになった。

というのは建前で、隣にある国立医療研究所に入り、違法薬物や新薬などの人体実験として死ぬまで薬を与え続けられることになった。

アイリスは、何故こんな事になったのだろうか。

可愛がりすぎて甘やかしたことは否めないが、そこまで酷いことをする娘ではなかったと思う。

幼い頃から近くに住んでいたシャノン様と交流があったアイリス。

我が家より格も金銭的にもかなり上の人である。
着る物も全て高級品。
シャノン様は誰もが振り返る気品と美しさを子どもの頃から持っていた。
さらに大人しく儚さが庇護欲を唆る。

アイリスの後ろに隠れ、いつもアイリスに守られて過ごした。

アイリスは劣等感と優越感が混ざり合っていたのではないかと今更ながら振り返ったら思う。

子どもの頃からシャノン様の物をよく欲しがった。
そしてシャノン様もすぐにアイリスに譲ってくれた。

『シャノンはどんな高価な物でも簡単に手放して譲ってくれるの』

と、アイリスが嬉しそうに言っていた。

ただ、亡くなったお母様の形見だけは何度頼んでも譲ってくれないと、怒っていた。

それは欲しがってはいけない物だと教えたのだが、アイリスからすれば何でもくれるシャノン様がくれない方がおかしいと怒る。

アイリスには、善悪がわからないところがあったようだ。

何度教えても納得しない。

アイリスの考えは
『他人のモノは自分のモノ
自分のモノは自分のモノ』

他人に注目されてちやほやされて優越感に浸って、みんなに可愛い笑顔で癒しを与える。

本当は、癒しなど与えていなかった。笑顔はあざとく自分のためになるから笑っていただけだった。

自分の娘の真の姿に気づきもせず、娘を放置してしまったわたし達夫婦の罪は重い。

息子達の将来も潰してしまった。
わが伯爵家は降爵され男爵となった。
領地も半分になり、これからは金銭的にも大変な状況になる事がわかっている。

長男夫婦に、爵位を譲ったわたし達夫婦は領地の僻地の小さな誰もいない家に住んだ。

次男夫婦は、平民となり長男の男爵の仕事の補助をしながら生きている。

わたし達夫婦は、自分たちで家事などしたことがなかった。

「貴方、お腹が空いたわ」
と言って、座って待っている妻に
「コップに水くらい注いでくれ」
と言うと、
「そんな事できませんわ」
と、返事が返ってくる。

わたしはまともに料理をしたことなどなかったが、今は焼くだけ、炒めるだけ、買ってくるだけ、切るだけの料理ならなんとか出来るようになった。

「掃除くらいしたらどうだ」
「洗濯くらい少し手伝ってくれ」
「食器くらい洗ってはくれぬか?」

全て妻は言う。
「わたしそんな事出来ませんわ」

妻がおかしいと気がついたのは、この家に来てしばらく経ってからだった。

妻はこの家に来る時泣きもせず黙ってついてきた。
ただ、ついてきただけだったのだ。

妻はとても愛らしい女性だった。
いつもニコニコしていてわたしを癒してくれる存在だった。
わたしに文句も言わず何があっても笑顔が可愛らしい女性であった。

アイリスの事は、全てを話してはいない。
アイリスは、人に巻き込まれて罪を犯した。その犯罪の所為で我が家は降爵されたと話した。

妻は茶会や夜会に呼ばれなくなった頃から人と接することが減っていた。今はもうわたしと二人っきり。

何かを問いかけても目は虚で今の現状に文句も言わず動きもせずじっと座って微笑んでいるだけ。
わたしが食事を与えなかったらこのまま死んでしまうだろう。
わたしが風呂に入れなければ汚いままだろう。
彼女の心は、壊れていたのだ。

わたしの心ももう壊れている。

息子たちからの援助はない。

今は妻に買い与えた宝石やドレスを売った金で生活しているがいつかはなくなる。

わたしは平民の仕事などした事もない。

壊れた妻に気づいたわたしは、アイリスが受けている新薬の実験体となった。

それを医療研究所の監察官が常に監視して報告書を作っていく。

いつまで続くかわからない地獄。
しかしアイリスも受けていることを考えればわたしもおかしくなった妻も受け入れることで、少しは贖罪になるのではと思ったのだった。




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