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国外研修②

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「負けず嫌いも努力家なところも長所だと思う。だけど頑張りすぎるとキツイぞ」
そう言ってわたしの頭をポンと軽く叩いた。

ーーこんな言葉初めて言われた。

いつも頑張るしかなかった。だってわたしは誰にも愛されていなかったもの。

マリウスさんの言葉に唇を噛んで……言い返すことすらできなかった。

ーー悔しい。なのに……

自分の欠点をわかっているのにまた再認識するしかなかった。
こんな性格だからイーサン殿下との婚約解消の後記憶が戻っても彼に会って、本当は貴方を好きでしたなんて言えなかった。

両親にだっていっぱい酷いことをされたけど、記憶が戻った時、二人の優しさと温かさに守られて生活した三年間はとても幸せだったことを認めることはできなかった。
認めたらその前の辛かった日々が我慢した日々が全て無意味に感じてしまうから。

三年間の記憶を取り戻した後、押し寄せて来たわたしの幸せだった三年間の記憶がわたしの心を苦しめた。

だからもうあの国にはいられなかった。

だからオリソン国へと逃げて来た。

なのに克服したと思っていたのに、マリウスさんはそんなわたしの過去の記憶を思い出させる。

ーー泣かない……彼はわたしの過去のことなんて知らないのに……

そう思うのに涙は止まらない。

「お、おい、カトリーヌ、泣くな!お前そんなことで泣く女じゃないだろう?」

レックスも隣でおどおどとしているのがわかった。


「ち、ちが…うの……泣いたのは………昔の自分を思い出したから……こんな負けず嫌いで素直になれないわたしなんか誰も愛してくれない……ごめんなさい……今日の研修、落第点でいいので…帰ってもいいですか?」

ーー自分でも弱過ぎると思う。最近みんなに優しくされて甘やかされて幸せすぎた。

部屋に帰るとベットの上で膝を抱えて動けなかった。

もう三年前の話なのに……まだ思い出すと辛くなるなんて……

マーラ達温かい家庭の中で過ごしても胸の痛みがやっとなくなって心から笑える様になった。

イーサン殿下のことも思い出しても切なくて泣きたくなる胸の苦しみはやっと思い出になりつつある。

なのに、マリウスさんの言葉で全てが台無しになるなんて……弱過ぎる自分に落ち込んだ。

どれくらいの時間落ち込んでいたのだろうか。

「カトリーヌ?大丈夫?」
マーラが部屋に入ってくると真っ暗な部屋に驚いて

「カトリーヌこんな暗い部屋にいたらダメだよ、ほら夕食もらって来たから食べなさい!話はレックスに聞いたわ」

マーラはわたしの横に座るとわたしを抱きしめた。

「ずっと頑張って来たもんね、いいんだよ偶には立ち止まっても」

「……うん……」

マーラがそばに居てくれて良かった。
落ち込みながらもマーラに無理やり「たべなさい」と言われて食事をした。

お残しは嫌い。食事すら貰えなかった頃のことを思い出すとどうしても出されると全て食べずにいられない。
それほどわたしはいつも飢えていた。

わたしは、お腹も空いていたけどあの頃人の情に一番飢えていた。誰かに愛して欲しかった。

今沢山の愛情をこんなに受けているのに……あの頃の気持ちを思い出すとまだ満たされていないかのようにもっと求めてしまう。

そしてマーラは何も言わずに「今日は一緒に寝よう」とずっとそばに居てくれた。




ーーーーーー


そして研修がら終わる最後の夜。
お疲れ様会のパーティーが始まった。

ふとオリエ様に気がついた。
今日のオリエ様は騎士服ではなくてドレスを着ていた。初めてのドレス姿はさすが元王太子妃を思わせる凛とした立ち姿だった。
わたしと違い大人で体のラインがわかる紫のドレス姿でとても綺麗だった。何人もの男性がオリエ様に振り返っていた。
その中の一人の男性がオリエ様へとても愛情深く見ている人がいた。
そう、それこそわたしが切望している愛情を。

オリエ様はその視線に絶対目をやろうとしない。わかっていて不自然にそこだけ目を逸らす。

わたしが不思議に思っているとマーラがそばに来て

「オリエ姉さん、綺麗でしょう?」とわたしに声をかけて来た。

「ええ、とても綺麗で驚いていたの。でも……」

「たぶんこの会場に元夫のイアン様がいるんだと思うわ、この国にイアン様がいらっしゃるから」

「……あ、やっぱり、あの人……」

「………二人が元に戻ることはないのかもしれない。まぁ他人が何かを言ってもどうしようもないけどね」

「…………そうだね、本人達次第だものね」


わたしはオリエ様へ視線を向けるのをやめた。

他の同僚達と共に会話を楽しんでいるとマリウスさんが近づいて来た。

「カトリーヌ、お疲れ様!」

「お疲れ様です、この前はご迷惑をおかけしました」

「いや、俺が悪かった……すまない」

マリウスさんは頭を掻きながら謝った。

「マリウスさんの言葉のおかげでずっと蓋を閉じていて閉じ込めていたことがまだ燻っていることに気がつきました。わたしこそありがとうございました」

「俺はお前の負けず嫌いも頑張り屋なところも気に入っている。……なのにその見た目……ほんとギャップが凄すぎて敵わないよ」

「ギャップ?」

「お前無自覚だろうけど、見た目はめちゃめちゃ可愛くて男に頼らないと生きていけない雰囲気なんだ。なのに中身は負けず嫌いで人に頼るのが苦手で不器用なんだ。真逆すぎ」

「わたしこの容姿嫌いなんです。昔っから男の人が意味もなく寄ってきてチヤホヤしてくるんです。おかげで女性からは嫌われるし。オリソン国に来てやっとカトリーヌとして見てくれるようになったんです」

「お前も苦労してるんだな………あー、うん、……もしまた辛くなったら俺にも声かけろ。いつでも愚痴くらい聞いてやるから」

「ふふ、愚痴を言いにくるには遠過ぎますね」

「はあ……確かにそうだな。……だったらいつでも俺が駆けつけるよ」

「え?」

「うん、考えておいてくれ」

マリウスさんはわたしの耳元に口を寄せて
「君が好きだ」
と言うとニヤッと笑って
「ダンスを踊ろう」
とわたしの手を掴んで引っ張ってホールへと連れて行かれた。

わたしよりも4歳年上の大人のマリウスさんの言葉にドキドキしながらダンスを踊った。

オリソン国に来て何人かに告白されたけど、こんな大人の人に言われたのは初めてだった。

ーーいやいや、明日は帰国するし……もう会うことはないのに。


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