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再会
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リーゼ様の屋敷でゆっくり過ごすことになった。
ご両親はもちろんわたしの経緯も全て知っている。
「ゆっくりと過ごしてください」とわたしに優しく微笑んでくれた。
この国でのわたしの今の立ち位置は………
ジャン様曰く……
『不幸だった侯爵令嬢が自らの力で幸せになろうとしている』と好感を持たれているらしい。
なのでこの髪色でも、もう蔑まれることはないだろうと言われた。
そんな噂を流してくれたのは……
陛下を始めわたしを娘のように可愛がってくれた王妃様達のおかげだ。
どんなにわたしを守ろうとしても酷い噂は消すことが出来ず人の悪意は広がる一方だったのが、お姉様達の事件からわたしがどんな目に遭っていたかを高位貴族の人達も理解してくれて、わたしの悪い噂を払拭することが出来たらしい。
悪意は簡単に広がってもそれを覆すことはどんなに難しいのか身に染みて感じた。
人の不幸は面白おかしく聞けるのに本当のことを伝えようとすると聞く耳を持たない貴族の人たち。
この悪意の中でどんなに苦しんだのかみんなわからないだろう。
それでも……やっと誰の目も気にせず息を殺さず生きていけるようになった。
この国に戻ってきて確かに数年前までいた時の居心地の悪さも苦痛も消えていた。
そして、目的の両親に会うことになる。
「侯爵夫婦、お時間を取っていただきありがとうございます。そしてわたしが学園に通うために援助をしていただきありがとうございました。少しですがわたしが稼いだお金です。また少しずつ返済していこうと思っております」
そう言って僅かだがお金を渡した。
「……わたし達には親としての資格がないのはわかっている。このお金を受け取るということはもうお前の親ではない、学費すら貸しただけになってしまう。悪いが受け取れない、いや、受け取りたくない」
お父様は顔を顰めて辛そうにしていた。
お母様は俯いていて表情すらわからない。
「……お二人との縁は切れていると思っています……今日は……籍を抜いていただきたいと思い最後のお願いに来ました。わたしはオリソン国でただのカトリーヌとして暮らしてきました。ブランゼルの名前も侯爵令嬢という肩書きも向こうの国では必要ありませんでした」
「………考える時間が欲しい」
お父様はすぐに返事をくれなかった。
わたしの用事はこれだけだった。マーラ達に思っていることを言ってしまえと言われたけど、この国を離れるときに言いたいことを言ったし決別は済んでいるので顔を見て言いたいことは何もなかった。
ーーわたしを愛していましたか?少しは心配してくれましたか?
聞きたいことは子供のような感情……今更聞くことなんて出来ない。
わたしがこの国で過ごすのも最後になると思うので会いたい人に会うことにした。
両親はわたしを見て辛そうにしていたけど最後に会えてよかった。わたしの籍を抜けば侯爵家は新しい養子を迎えて継いでもらうことができる。帰っても来ない娘の籍は邪魔でしかない。
わたしを切り捨てられない両親のためのわたしの親孝行。まぁ親からすれば冷たい娘でしかないと思うけど。
「侯爵夫婦、ではお返事お待ちしております。あと二週間ほどこの国に滞在いたしますのでよろしくお願いします」
お母様とは一度も目が合うことはなかった……こんな娘……もう要らないわよね。
わたしは侯爵家の屋敷を離れる前にそっと厨房へと顔を出した。
「お久しぶりです!料理長!みなさん!」
「嬢ちゃん!綺麗になったな!ミントもほらここで寝ているぞ」
厨房の端っこで気持ちよさそうに寝ているミント。
「元気にしてた?」ミントに話しかけながらそっと触ると顔を擦り寄せてきた。
「ミントも歳をとったわね、でもまだ元気でいてくれて嬉しいわ」
「嬢ちゃん、飯食って行ってくれ!」
「カトリーヌ様、ぜひみんなで昼食を食べましょう」
ミア達も仕事を抜けて会いにきてくれた。
「いいの?嬉しい」
みんな、わたしが今どんな暮らしをしているのか知りたがった。
たくさんの友人や同僚達がいて幸せに暮らしていること。働くことの大変さ、特に失敗談はみんな笑ってくれた。
「重たい書類を持って手がプルプルして全部落としたら、書類がごちゃごちゃになってしまって整理するのに部署の人たちが助けてくれて……思いっきり怒られたの『自分が持てる量すらわからないのか!』って……確かに目の前にある山盛りの書類全部持てるわけがないのに持たないといけないと思ったの」
「嬢ちゃんらいしな」
「初めて一人暮らしした時は…寮の食堂の席にじっと座って待っていたら……『自分で取りに行かないと出ないわよ』って隣の部屋の子に言われて、だからいつまで経ってもわたしだけ食べるものがないのかと知ったの……」
「どれくらい待ったんだ?」
「うん?たぶん……30分くらいかな?知り合いは隣の部屋の子くらいでその子が後に来てわたしを見て慌てて教えてくれたから」
「隣の部屋の子とは今も仲良しなんですか?」
「もちろん、親友の1人よ」
「カトリーヌ様のお顔がとても幸せそうで安心しました」
「ええ今はとっても幸せよ」
そしてわたしにとっては最後の侯爵家での食事を大好きなみんなと出来て本当に幸せだった。
ご両親はもちろんわたしの経緯も全て知っている。
「ゆっくりと過ごしてください」とわたしに優しく微笑んでくれた。
この国でのわたしの今の立ち位置は………
ジャン様曰く……
『不幸だった侯爵令嬢が自らの力で幸せになろうとしている』と好感を持たれているらしい。
なのでこの髪色でも、もう蔑まれることはないだろうと言われた。
そんな噂を流してくれたのは……
陛下を始めわたしを娘のように可愛がってくれた王妃様達のおかげだ。
どんなにわたしを守ろうとしても酷い噂は消すことが出来ず人の悪意は広がる一方だったのが、お姉様達の事件からわたしがどんな目に遭っていたかを高位貴族の人達も理解してくれて、わたしの悪い噂を払拭することが出来たらしい。
悪意は簡単に広がってもそれを覆すことはどんなに難しいのか身に染みて感じた。
人の不幸は面白おかしく聞けるのに本当のことを伝えようとすると聞く耳を持たない貴族の人たち。
この悪意の中でどんなに苦しんだのかみんなわからないだろう。
それでも……やっと誰の目も気にせず息を殺さず生きていけるようになった。
この国に戻ってきて確かに数年前までいた時の居心地の悪さも苦痛も消えていた。
そして、目的の両親に会うことになる。
「侯爵夫婦、お時間を取っていただきありがとうございます。そしてわたしが学園に通うために援助をしていただきありがとうございました。少しですがわたしが稼いだお金です。また少しずつ返済していこうと思っております」
そう言って僅かだがお金を渡した。
「……わたし達には親としての資格がないのはわかっている。このお金を受け取るということはもうお前の親ではない、学費すら貸しただけになってしまう。悪いが受け取れない、いや、受け取りたくない」
お父様は顔を顰めて辛そうにしていた。
お母様は俯いていて表情すらわからない。
「……お二人との縁は切れていると思っています……今日は……籍を抜いていただきたいと思い最後のお願いに来ました。わたしはオリソン国でただのカトリーヌとして暮らしてきました。ブランゼルの名前も侯爵令嬢という肩書きも向こうの国では必要ありませんでした」
「………考える時間が欲しい」
お父様はすぐに返事をくれなかった。
わたしの用事はこれだけだった。マーラ達に思っていることを言ってしまえと言われたけど、この国を離れるときに言いたいことを言ったし決別は済んでいるので顔を見て言いたいことは何もなかった。
ーーわたしを愛していましたか?少しは心配してくれましたか?
聞きたいことは子供のような感情……今更聞くことなんて出来ない。
わたしがこの国で過ごすのも最後になると思うので会いたい人に会うことにした。
両親はわたしを見て辛そうにしていたけど最後に会えてよかった。わたしの籍を抜けば侯爵家は新しい養子を迎えて継いでもらうことができる。帰っても来ない娘の籍は邪魔でしかない。
わたしを切り捨てられない両親のためのわたしの親孝行。まぁ親からすれば冷たい娘でしかないと思うけど。
「侯爵夫婦、ではお返事お待ちしております。あと二週間ほどこの国に滞在いたしますのでよろしくお願いします」
お母様とは一度も目が合うことはなかった……こんな娘……もう要らないわよね。
わたしは侯爵家の屋敷を離れる前にそっと厨房へと顔を出した。
「お久しぶりです!料理長!みなさん!」
「嬢ちゃん!綺麗になったな!ミントもほらここで寝ているぞ」
厨房の端っこで気持ちよさそうに寝ているミント。
「元気にしてた?」ミントに話しかけながらそっと触ると顔を擦り寄せてきた。
「ミントも歳をとったわね、でもまだ元気でいてくれて嬉しいわ」
「嬢ちゃん、飯食って行ってくれ!」
「カトリーヌ様、ぜひみんなで昼食を食べましょう」
ミア達も仕事を抜けて会いにきてくれた。
「いいの?嬉しい」
みんな、わたしが今どんな暮らしをしているのか知りたがった。
たくさんの友人や同僚達がいて幸せに暮らしていること。働くことの大変さ、特に失敗談はみんな笑ってくれた。
「重たい書類を持って手がプルプルして全部落としたら、書類がごちゃごちゃになってしまって整理するのに部署の人たちが助けてくれて……思いっきり怒られたの『自分が持てる量すらわからないのか!』って……確かに目の前にある山盛りの書類全部持てるわけがないのに持たないといけないと思ったの」
「嬢ちゃんらいしな」
「初めて一人暮らしした時は…寮の食堂の席にじっと座って待っていたら……『自分で取りに行かないと出ないわよ』って隣の部屋の子に言われて、だからいつまで経ってもわたしだけ食べるものがないのかと知ったの……」
「どれくらい待ったんだ?」
「うん?たぶん……30分くらいかな?知り合いは隣の部屋の子くらいでその子が後に来てわたしを見て慌てて教えてくれたから」
「隣の部屋の子とは今も仲良しなんですか?」
「もちろん、親友の1人よ」
「カトリーヌ様のお顔がとても幸せそうで安心しました」
「ええ今はとっても幸せよ」
そしてわたしにとっては最後の侯爵家での食事を大好きなみんなと出来て本当に幸せだった。
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