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38話

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「エリーゼはわたしとヴィクトリアがまだ思い合っているように見えているのかな?」

「はい、そうです。違いますか?」
わたしは何を今更言っているのだろうと思った。

先生は素直ではないが、どう見ても陛下への想いをまだ捨てきれずにいる。

「わたしは、ずっとヴィクトリアだけだ」

「浮気して子どもまで作っておきながらよく言えますね?」

先生がじろっと陛下を睨んだ。

「若気の至りだ」
シュンと下を向く陛下。可愛くないし、見ていてムカついた。この人は殿下の父親なんだとつくづく思ってしまう。

「では何故未だに皇后様とご結婚されているのですか?浮気をされお互い愛情もないのに」
わたしはずっと気になっていた。

お二人には愛情も夫婦としての生活もない。

会話すらない。

「ニューベル公爵の求心力だよ。あれはわたしと結婚してから力をつけて今では貴族派の裏ボスだ。離縁をすれば国事態が貴族派と国王派に分裂してしまう可能性がある、国が乱れてしまう。だから名だけの皇后がいるんだ」

「皇后様はそれでいいのかしら?」

わたしはあの何も発しないお飾りと言われる皇后様を思い出す。
彼女は特に優秀な方ではないが、誰かを虐げるわけでもなく殿下のことも、興味なさげにしていても、激しい人ではない。
ただ、レンス王子以外に愛情を感じることがないだけ。
前回のわたしと同じで、感情のない人形みたいなのだ。

「ユシリスは、わたしには興味はないよ。お互い目を合わすことも会話をすることもない。レンスが生まれるまではクロードのことも放って乳母達がクロードを育てた。レンスが生まれて彼女はやっと人間らしくなったんだ」

「陛下、レンス王子は一体誰の子なんでしょう?」
お父様がズバッと聞いた。

「興味がないので知らないね。誰の子だろうと……ただ、王位継承権だけは与えないと、ユシリスには伝えてある。わたしと血の繋がったクロードにだけ与える。これは決定事項だ」

確かに殿下は陛下に似ている。レンス様はどう見ても陛下に似ておらず、ユシリス様に少し似ているがレオン様は父親似なんだろう。誰かわからないが。

でもユシリス様の側にいる人にレンス様似の人はいない。
だからこそ「誰の子なのだろう?」と、王宮の中ではいつも囁かれていたことを思い出した。
たぶん、陛下はご存知なのだろう。
何故かそんな気がする。

「エリーゼわたしはね、そろそろ狡い何もできない国王から脱却するつもりなんだ。ユシリスに対してケジメをつけるよ。ヴィクトリア、君の答えはそのあと聞きたい」

「陛下……」
先生は言い淀んだ。

「よろしく頼む」

陛下は先生を見つめて微笑んだ。

そして二人はわたしの部屋を出ていった。


ふぅ……

お父様がため息を漏らした。

「エリーゼ、君は言ってはならない発言を平気な顔でするからドキドキしたよ」

「そうですね、不敬だと思います。でもあんなに思いあっている二人を見ているとつい言葉が先に出てしまいました」

「いや、態とだろう?」
お兄様のスコットが意地悪そうにわたしを見た。

「ふふ。どうでしょう?」

「父上は、ずっと母上のことをなんとも思っていないことはわかっていた。僕に対しても二人とも王太子としてしか興味がなかった」
殿下は少し寂しそうに話していた。

「でも今回は父上と腹を割って話して、父上の気持ちも少しはわかってきたんだ。僕にあまり情を掛けると、お祖父様がそこを突いて何を仕掛けてくるかわからない。今回は前回の記憶が僕にはあるから、父上も対処していくためにも僕と関わるしかないけどね」

「殿下が、素直でない所は親子似ていますね。お二人とも互いに大切に思ってはいるのに不器用すぎるんですよ」

「悪いけどエリーゼには言われたくないよ。君こそ公爵やスコット殿に対して少しは素直になったらいいと思うよ」
殿下はムッとしてわたしに言い返してきた。

何故かわたしもムッとして
「わたしは自分の心に素直です。だから貴方のことお父様のことも嫌いです。お兄様のことは別にどうでもいいです」

「しまった!」と思って、横をチラリと見るとお兄様は驚きとショックで固まっていた。

「……ど、どうでもいい……」

「お兄様、ごめんなさい」
慌てて謝ったが、わたしの声は聞こえていないかった。

一人放心状態のお兄様……わたしはお兄様には別に恨みもない。言葉の綾でつい言ってしまった。

「お兄様、傷つく言葉を言ってしまってごめんなさい」

お兄様はやっと我に返り、
「うん、エリーゼ、俺はお前を守ってやれなかった。だから何を言われても仕方がないんだ」
と、シュンとしていた。




◆ ◆ ◆


いつも読んでいただいてありがとうございます。





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